92話 少年少女達よ、探索をしよう
ミーア達が見つけた公園を拠点地とし情報収集をしていたが、元の世界についての情報は手に入らず夜を迎える。食料はないのでミーアが魔法で水を作り、それを飲んで空腹を紛らわす。
寝る場所はベンチで横になって寒さを凌ぐためにラルマは『ライトウォームス』を唱えて、光の球体を召喚するとベンチの周りが暖かくなる。
「とりあえず今日は寝て明日また情報収集をしよう」
「私達、イスフェシア皇国に帰れるのかな……」
「大丈夫だよ。一日経てばウインチェルさん達は僕達がいなくなったことに気付いてくれるよ。そうしたら元の世界に帰れる事がきっとできるよ」
「そうだね。それまではこの世界を楽しもう! それじゃあ二人共おやすみ~」
ミーアはパタンッとベンチの横になって寝る。それに続けて二人も横になって寝るのであった。
翌朝、目が覚めた三人は水を飲みながら周囲の探索を続ける。食料が手に入ればいいのだがこの世界は店で金を支払って食材購入や料理を食べることができるみたいだ。そして周囲には森が……自然がないので狩りもできない。
「困ったな~このままだとご飯を食べることができない」
「私達じゃバイトもできないし」
「かと言って盗賊みたいなことをして後でうーちゃんにバレたりでもしたら……」
「「「は~~~」」」
ため息をつく三人、しかし空腹の音は鳴り止まない。
しばらく歩くと一部騒がしい場所がある。
「何だろう?」
「行ってみようよ!」
人混みを進み続けると何やら白黒色の四角い荷車と赤色の荷車が道を塞いでいる。さらに奥に進むと元いた世界ではある意味見慣れている光景、人が倒れている……そう、死体がそこにあった。
変わった服装をした人が三人に近づいてくる。
「君達!ここは危ないから離れていなさい」
「危ない?どこが?」
三人にとって死体を見るのは珍しいことではない。周囲に殺気を感じないことから地面に倒れている人を殺害した人物はここにはいないことは確信している。
それよりもラーシャは変わった服装をした人物達を警戒する。腰に付いているそれは形が違うがコンダート王国の奴らが所持していた銃だ。今ここで戦闘をすれば関係ない人を巻き込み、自分達がこの世界の住人じゃないことがバレてしまう。それは避けておきたい。
「君達、ママとパパとはぐれてしまったのかな?」
「ママとパパは戦争で死んじゃったよ」
「え?」
男はミーアの発言を聞いて驚くとラルマとラーシャがミーアの口を塞いだ。
「ちょっとミーアちゃん!何正直なこと言ってるの!?」
「だって……」
「本当のことを言ってもこの人達に通じる訳ないでしょ」
「君達、仕事の邪魔をするならあっちに行きなさい」
ひそひそ話をしていると男は三人を追い払おうとする。この現状、戦闘を避けるために取る行動は一つしかない。
「皆逃げるよ!散開!!」
三人は別々に逃げて男から離れる、男は三人を追おうとすると同じ服を着た別の男に止められる。
「何しているんだ」
「ああ、子どもが現場に入ろうとしていたので追い払っていました。」
「そうか、引き続き野次馬が来たら追い払えよ」
男達は定位置に戻って死体を調べる。白と黒色の荷車の下には小さな蝙蝠が潜んでいた。
数時間後、男から逃げ切った三人は近くの神社で合流し、ラーシャが召喚した眷属から情報を聞こうとしていた。
眷属から男達の声が聞こえる。
『身元が割れました。被害者の名は須藤明楽。年齢は27歳で職業は無職、駄菓子屋で働いていましたが2週間前に辞めたとのことです。目撃者に聞き込みをしたところ被害者はこのビルの前に立っていたが次第に座り込んで数分後、全身から火が燃え上がって倒れたとのことです』
『そんな馬鹿な!魔法じゃあるまいし!』
『そして被害者のリュックからこんな物が』
『何だこれは? 燃えて何かわかりづらいな……これは目覚まし時計か?』
『はい、そしてこれを見てください。鑑定の結果、この粉は覚醒剤です』
『何!?』
男達の会話を聞いてミーアは口を開いた。
「男の一人が「全身から火が燃え上がる」って聞いたら「魔法じゃあるまいし」って言っていたよね?」
「もしそれが本当に魔法なら……僕達以外にこの世界に来た人がいるってこと!?」
「じゃあ、その人を見つければ私達元の世界に帰れるかもしれないってことよね!」
三人の顔は絶望から希望へと変わる。ラーシャは引き続き眷属に男達を尾行させて情報収集をする。
ミーアとラルマは魔力探知で近くに魔力を持った人間がいないかを探す。たとえその人物が魔力を隠していたとしてもこの世界は魔力を持たない人間しかいない、少しでも魔力を出せばその人物を特定し元の世界に帰る方法を聞き出せるはずだ。
しかし問題もある。その人物が特定できなければ泊まる場所はないし、食料の確保ができないため空腹により行動が限られている。
「つまりあたし達がその人物を捕まえるのが先か、あたし達が倒れるのが先かってことね」
「せめて食料の確保さえできれば……」
三人の空腹は鳴り止まない。神社の階段を降り、今後どうしようかを考えながら公園に向かうと近くに元気な少年と小太りの少年の話し声が聞こえる。
「なぁ、最近水の広場公園でハゼとセイゴが大量発生しているらしいぜ!」
「マジか!じゃあ明日そこで釣りに行こうぜ!」
「どっちが多く釣れるか勝負だ!!」
どうやらとある場所で魚が釣れるらしい。このチャンスが逃す訳にはいかない。すぐにミーアはその子供達に場所について聞く、少年はオゼットが持っているIMSPに良く似た端末で丁寧に教える。
大体の場所と方角をわかったところで三人は人気のいない場所まで移動する。
「ここなら、誰にもバレないよね?」
「ミーアちゃん、お願い!」
「任せて!出でよ、ワイバちゃん!!」
魔法陣からワイバーンを召喚し、三人はそれに乗って大空へと飛び立った。




