91話 少年少女達よ、冒険しよう
ネバーランドで食事を済ませた三人はイスフェシア城に向かう。今後敵からの襲撃が来ても返討ちができるようにどうすればいいのかを考えるとミーアはウインチェルの部屋に行こうと提案する。
ウインチェルの部屋には沢山の魔導書が置いてあり、その中にはオゼットが使う究極呪文に匹敵する魔法が書かれている魔導書があると聞いたことがあるのだ。
ウインチェルは今、城の復興活動で忙しいため部屋にはいない。入るなら今がチャンスとミーアはウインチェルの部屋に向かう。
「ヒッヒッヒッヒ、これであたしもお兄ちゃんみたいに最強になっちゃうよ~」
「でも鍵がかかって開けられないよ」
「私に任せて」
ラーシャは『雷鳴同化』を使って鍵穴から部屋に侵入し内側から鍵を開ける。
ドアを開けると部屋の中は本が山澄になって散らかっている。
この中の何処かに強い魔法や何か役立つ魔法が書かれている本を見つけ習得できればもう子ども扱いや除け者扱いされずに済むと信じてミーアは本の山を探し始める。
すると一冊の本を手にする。その本は鍵を掛けられておりタイトルは“秋葉原の書”と書いてある。
しかしミーアはその字を読むことができないのでラルマやラーシャに聞いてみるが二人もその本のタイトルを読むことができないでいる。
「この国の文字じゃないね。もしかして出雲国とかの文字かな?」
「でも出雲国の人が魔法を使うって聞いたことないわ」
「でもこの本、鍵が掛けられているから重要な情報が書いてそうだよね」
ミーアはスライムナイツを一体召喚しスライムナイツの指を鍵穴に突っ込ませて指を鍵の形状に変化させる。カチッと音がなり鍵を開けたのを確認するとミーアはページをめくっていく。
「ん~やっぱり見たこともないない文字ばかりだね」
いくら強い魔法が書かれていたとしても解読はできない。ミーアは諦めて本を閉じて戻そうとした瞬間、本が光り始めた。
「え、なにこれ?」
本が勝手に宙に浮き、光が三人を包むと空間がねじれ、まるで船酔いしたような感覚に襲われる。
目が覚めると見たこともない場所に座っていた。ミーアはラルマとラーシャを起こす。
「二人共、起きて!」
「ここはどこ?」
「わからない、それにこんな場所見たこともないよ」
二人は辺りを見渡して何が起きたのか状況を把握しようとする。
ラーシャは蝙蝠を複数体召喚し空から偵察を開始する。辺りにはレンガではない何かでできた高い建物だらけで人口は多いが誰一人として魔力を持たない変わった環境である。
「この国の人は皆、魔法が使えない?」
「でもあれは何だろう?」
ラルマが指を差した方向には荷車みたいな鉄の乗り物が馬を使わずにとても速く動いている。魔力を使わずにあの速度を出すのは普通では無理だ。何か別のエネルギーを使っているのか?
「とりあえず、安全そうな場所に移動しよう。ここだと人が多い」
「そうだね。ラーシャちゃん、個々の近くで安全そうな場所はある?」
「ええっと……ここから8分歩いたところに広い公園があるわ。そこなら戦闘になっても大丈夫でしょう」
三人は蝙蝠で特定した公園に向かった。向かう途中素早く走る鉄の荷車が横切るのを見て、どうやって目的地の公園にたどり着けばいいのかを考える。すると奥で赤く光っていた鉄の棒が緑色になると横切っていた荷車は止まり、人々が真っ直ぐ歩き始めたのでそれを真似てミーア達も真っ直ぐ歩いて反対側へと渡った。
「なるほど、あの鉄の棒が緑色になれば荷車は止まるのか」
「みんな、気を付けて進みましょう」
速く走る荷車に気を付けながら目的の公園へとたどり着くとベンチに座って一旦は休憩する。この国はおそらくアーガイル大陸に存在しない。そして何もかもわからない状況での探索は体力の消耗が激しくなる。こまめに休憩し、状況を整理することが大切だとウインチェルに教えられたミーアとラルマは早速考え始める。
まずはこの国に辿り着いたきっかけはウインチェルの部屋で見つけたあの本だ。
あの本から出た光に包まれてこの国に転移したのは明らかだ。もしこの国に全く同じ本があるのならイスフェシア皇国に帰れるかもしれない。しかしラーシャが言った通りこの国人々には魔力を感じられない。
もしかしてここはコンダート王国なのかとラルマが言うとラーシャは否定する。
彼女は一度コンダート王国に行ったことがあり、確かにコンダート王国に近い建物や乗り物があるが誰一人として魔力を持たないのはおかしい。
だがこれは逆に好都合でもある。魔力探知系の魔法を使って魔力を感じとれるのは現状ここにいる三人だけだ。もしはぐれたとしても探すことはできるし、もしこの三人以外で魔力を感じ取れればその人はイスフェシア皇国に帰れる方法を知っているかもしれない。
「じゃあ今はこの土地周辺の把握からしよう」
「ええ、蝙蝠達にあちこち探索を続けているから二人は休憩して」
「待ってあたしも協力するよ!」
「いや、ここでスライムナイツとか召喚するのは危ない気がするよ」
「何で?」
「周りを見てみると最初に目覚めたところからここまで人しかいなく亜人やモンスターに出会ってないよね?もしかしたらこの国は人間しかいない国なのかもしれないよ」
確かにイスフェシア皇国では人間以外にも亜人が住んでいるが、場所によっては亜人を嫌う国も存在する。それに下手に召喚獣を召喚して騒ぎになれば今いるここにいる人全員と戦う可能性もある。戦闘は極力避けるべきとラルマは判断する。
「僕達は夜になる前にさっきの場所に戻って食べ物や泊まれそうな場所を探してくるよ」
「ラーシャちゃん何かあったら連絡してね」
「うん、二人共気を付けてね」
ミーアはラーシャに魔法石を渡してラルマと一緒に先程目が覚めた場所に向かった。
しばらくして夕方になりミーアとラルマはラーシャがいる公園に戻ってお互いに情報を共有する。
この街にいる人々に尋ねまわった結果、この街は“秋葉原”と呼ばれていて誰もイスフェシア皇国やデスニア帝国を知らないと答えた。例えアーガイル大陸以外の大陸に転移してしまったとしても世界中の大陸に侵略活動しているデスニア帝国を知らない人はいない。
次にタイムスリップした可能性もない、未来に来てしまったならコンダート王国やデスニア帝国等の歴史が存在するはずだからだ。過去にタイムスリップしてイスフェシア皇国やデスニア帝国がまだできる前の時代に来たとしてもこの時代の技術は三人がいた時代より発展しているので矛盾している。
つまりここは三人がいた世界ではない事が解った。
「まさか僕達がオゼットさん達みたいに異世界転移するとはね」
「もしかしたらこの世界はレイ兄ぃ達がいた世界かもしれないわ」
「だとしたらあたし達どうやって帰ればいいの?」
ここでの問題点は大きく分けて2つある。1つ目は元の世界に帰る方法だ。現状では帰る方法は不明としか言えずミーアが開いたあの本は何処にも見当たらない。僅かでも魔力が探知できれば見つけることは可能かもしれないが今のところ魔力は感じ取れない。
そして2つ目は食料調達と宿泊についてだ。この街に木の実や果物の木といった自然がない。店で食料は売っていてもこの国の金を持っていないので食料購入も宿泊も不可能であり、野宿できるところも探したがここ周辺ではキャンプ地にする場所もないのである。
「自然がないサバイバルなんてどうやってやるんだろう?」
「水だったらあたしの魔法で作れるけど、それだと長くはもたないね」
「私は吸血できれば生きられるけどそれだとミーアちゃん達がもたないし、他の人を吸血しても迷惑が掛かるからしたくないわ」
状況は控えめに言って“ヤバい”の一言である。果たしてこの状況でどうやったら元の世界に帰れるのだろうか?




