9話 戦争準備その2
日は沈んで夕方になり、都中の街灯に灯りが付き始める。真理と殺人鬼について情報収集をしていたオゼットだが、成果は得られなかったので城に戻る事にした。王宮の間に着くとマリー陛下とミーア、ラルマが話し合いをしている。
ミーア達の話によるとイスフェシア周辺の山に探索していたのだがテレン聖教皇国の敵は見つからなかったが、念の為に山にはミーアが召喚したスライムナイツを配置させて警備をさせているのでもし敵が現れたなら察知する事ができるらしい。
ミーアは『凄いでしょ!』と自慢げに言い、マリーは『えらい、えらい』と言いながらミーアの頭を撫でる。
「お腹が…空いた」
ラルマはお腹が空いたらしく、早く食堂に行きたいと言う。マリーはみんなで食堂に行こうと提案するとミーア達は嬉しそうにマリーの手を引いて食堂に向かう。……この国の女皇が食堂に行って食事しても大丈夫なのか?と疑問に思いながらもオゼットは後を追う。
食堂に着くとミーアとラルマは受付カウンターまで走り、受付のお姉さんに料理を注文する。マリーが席を座ると食事をしていた騎士や魔術師は一旦、食事を止めて頭を下げようとするがマリーはそれを止めて気にせず食事を続けてほしいと言う。
「よろしいのですか?陛下が食堂に行って食事をしても?」
「本当はいけない事なのだと思いますが、一度ここの食堂の料理を食べてみたかったと思っていたんです」
マリーは微笑みながら語る。いつもは王室で運ばれてきた料理を一人で食べていたが今はミーア達と一緒に食べる事が多いらしい。食堂に行くことは初めてなのでどんな料理が来るか楽しみみたいだ。
しばらくするとミーア達が注文した料理をメイドが運んできてくれた。ミーアにはハンバーグランチ、ラルマと俺にはカレーライス、マリーにはバジルクリームパスタだ。
ここの食堂のメニューは元にいた世界でいうフランス、イタリア料理が食べられるらしく、カレーライスに関してはウインチェルが秋葉原に遊びに行った時にカレーライスを食べて感動し、カレーのスパイスを購入、その後異世界に戻り、特殊な部屋で購入したスパイスの原料であるレッドペッパー(唐辛子を粉末状にしたもの)、ターメリック、コリアンダー、クミンシードを製造する事に成功しその後、料理長に材料とカレーのルゥのレシピを渡した事でカレーライスがこの城の食堂に限り食べられるようになったという。
「「いただきます」」
皆で楽しく食事をする。ここのカレーライスは少し甘口みたいだ。もしかしたらラルマに合わせて作ったのかもしれない。そしてマリーが食事している姿を見てメイド達と料理長がソワソワしている。いつもなら専属のシェフが料理を作るのだがまさか陛下が食堂に来て料理を食べに来るとは思わなかっただろう。
マリーが料理を食べ終えて近くにいたメイドに料理長を呼んでほしいと頼む。それを聞いた料理長がびくびくしながらマリーに近づく。
「い、いかがされましたか?も、もしかして、お口に合いませんでしたか?」
「このバジルクリームパスタ、とても美味しかったです。もしよろしければまた食べに来てもいいですか?」
「も、もちろんでございます!お申し付けてくだされば、いつでも作らせて頂きます!!」
「あなたの料理で元気になりました。ありがとうございます」
マリーの言葉を聞いて料理長は一礼して厨房に戻った、微かだが奥で歓喜の声が聞こえる。
食事を終えて王宮の間に向かうとウインチェルがいた。手には修理したIMSPを持っている。
「お待たせしました。少し端末の改造をしていたら時間が掛かってしまいました」
「改造?」
「はい。前回よりも耐衝撃性を強化し、防水性にしてみました」
「ありがとう!ウインチェル」
オゼットは早速IMSPを起動し、変身する。魔力が体中に入ってきて力が漲ってくる。これなら明日の戦争は問題なく戦う事ができる。
「どうやら問題なく使えるみたいですね。良かったです」
オゼットは前から気になっていた事を思い出し、頭の中でメニューウィンドウを念じると目の前にメニュー画面が出て来る。ステータスを確認すると
オゼット Lv.100
クラス 魔導戦士
HP 999999
MP ∞
攻撃力 8000
防御力 9999
素早さ 9999
魔力 7700
魔法防御力 9000
パッシブスキル
・物理ダメージカットLv.8
・詠唱高速化
・魔法威力上昇
・異常状態&即死無効
・レベル上限突破
・ステータス上限突破
・MP無限
と書いてある。空中に浮かぶメニュー画面を見てウインチェル以外、皆が首をかしげる。どれくらい強いのかがわからないみたいだ。これらのステータスやパッシブスキル(常時発動しているスキル)はファンタジー・ワールドで俺が努力と課金の力で手に入れた能力だ。しかし見慣れないパッシブスキルがある。
「このレベル上限突破とステータス上限突破、MP無限って…俺こんなスキルを習得した覚えはないんだけど……」
「それらのスキルはフェリシア様がお与えになったものです。これらのスキルのおかげで魔力は尽きず、これからも成長できる様にしてくださったのです」
フェリシア……あの女神のことか。無責任な奴だったけど、サービスしてくれていたみたいだな。少しだけ感謝しよう。
しばらく雑談をしているとミーアがピクッと何かに反応している。何かを察知したみたいだ。
「…あたしが召喚したスライムナイツが数体倒された……あそこの方角に敵がいるよ!!」
ミーアが東の方角の山に指をさす。
「早速、敵を倒して参りますか。俺の力を見せつけてやりますよ」
オゼットはそう言って手に水晶玉を出現させてマリーに持たせ、城の窓からミーアが言っていた方角の山まで飛ぶ。ここで自分の実力を示せば今後の行動もしやすくなるし、真理を探すチャンスも来るだろう。それに自分が使えるスキルや魔術が相手に通用するかどうかを試せるチャンスだ。
山の周辺にたどり着くと微かだが人とモンスターの気配、それとミーアが召喚したスライムナイツ数体の気配が感じ取れる。
奴らに思い知らせてやろう…。俺を敵に回すとどうなるのかを、そして二度とこの国にちょっかいを出せないようにしてやるとニヤリと笑いながら山を登っていく。
数時間前、テレン聖教皇国の兵士達はハンソンの命令で明日の戦争でイスフェシア皇国に奇襲をする為に飛竜で周辺の山に移動し、待機している。その際にスライムナイツが襲い掛かってきたが、飛竜の爪によって倒し、制圧は完了した状態となっている。
現在は焚き火で体を暖めて次の作戦が始まるまで休んでいる。仮に今敵に攻撃されてもこちらの兵力は五千の竜騎士と飛竜、五千の弓兵がいる。そう簡単には全滅されないだろうと誰もが思う。
「いや~寒いね~早く終わらせて帰りたいわ~」
「この戦いに勝てば金、土地、そして女が報酬として貰えると皇帝陛下が言っていたらしいぜ」
「本当かよ?そんなに貰えるなんて、俺らの王は見た目だけじゃなく心も太っ腹なんだな(笑)」
「おいおい失礼だぞ。まあその為にもこの戦争に勝って生き残らなければ…」
「大丈夫、大丈夫!敵の戦力なんて俺達の半分以下なんだし余裕でしょ(笑)」
兵士達は賑やかに語る。この戦いに勝てば、大金を手にして自由に遊べる。しかも女が手に入るとなると、今までそんなこととは無縁だった者達にはまたとない機会だ。それぞれの夢を想いながら兵士達は明日の戦争に勝とうと一致団結する。
そんな中、兵士達が雑談している最中に一人の男が現れる。
「こんばんは」
男がいきなり現れると飛竜が男を警戒し、爪で攻撃する。しかしその瞬間に攻撃した腕と首が一瞬で吹っ飛んでいた。
兵士達は突然の出来事に驚きを隠せないでいる。そして男を見ると動けなくなっていた。まるで死神に睨まれたかのように…