88話 傷つく街
竜の体は畑に落ちて埋まる。その遺体からマリーを取り出そうと慎重に腹を切り開こうとアルメリアはメスを入れる。
解剖を続けると中にマリーを発見、すぐに取り出してべとべとの粘膜をウインチェルの魔法で洗い流す。気を失っているだけで命に別状はない。
ウインチェルはマリーを安全な場所に移動させると言いアルメリアと一緒にマリーをワイバーンに乗せて空へと羽ばたく。
ひとまずはマリーを救出しベリアの被害も最小限に抑えたと言っていいだろう。後はベリアで発生している火事を消化すれば……。
ドスンッ!!
さっき倒したはずの竜の体が起き上がる。首を跳ねて止めを刺したと思っていたがこれでは死なないらしい。
首から頭が生え再生を始める。元に戻ると竜は再び活動を始め、空を飛びベリアに炎の雨を降らし始めた。
「まずい、このままではベリアにいる人々に被害が!」
「あの竜を止めるわよ!」
ワイバーンに乗って竜を追う。レナとエレオノーラはMP7で竜を攻撃し命中させるが先程みたいに怯まなくなっている。
「ギャオオオオオオオオオオオ!!!」
竜は真理達を無視して口から紫の炎をレーザーのように吐きベリア中を焼く、街は炎に包まれた。
地上ではソルジェスの傭兵達が避難誘導と逃げ遅れた人々を救出しているがこのままあの竜の好きにさせれば被害が拡大して最悪ベリアが……イスフェシア皇国が燃えてなくなってしまう。
「そんなことさせるかぁぁぁ!!」
モーレアは剣に魔法で作ったチェーンを巻いて剣をぶん投げると竜の背中に刺さる。そのままジャンプして竜の背中に飛び移ると剣の柄頭を思いっきり殴って食い込ませる。
暴れて振り落とそうとしても必死に剣を掴んで離さずもう一度剣を殴ってさらに食い込ませる。これで簡単に剣が抜け落ちることはなくなった。モーレアは剣に魔力を込めて先程竜の首を切り落とした斬馬刀に形状を変えた。
そしてその斬馬刀を掴んだまま竜の頭まで走って竜を真っ二つに切断する。竜と共に落ちるが真理が乗っているワイバーンがモーレアに近づいてキャッチする。
「すまねえ、助かった」
「無茶をしないでください」
「わりぃ、だがこれで終わっ……」
切断した胴体の片方は消滅したが残ったもう片方がゆっくりと再生し始めて竜は蘇る。
ニヴルヘイム・バハムート、ゼルンが召喚したその魔竜の力はかつて大陸一つを滅ぼしたという。そしてマリーの魔力は特別であらゆる生命を強化することができるらしいとモーレアは言う。そしてゼルンが開発したマジックパウダーを注入され強化されたこの魔竜はまさに不死身と言ってもいいだろう。
「ガイル、聞こえるか?あのクソ竜どうやって殺る?」
「あたしの魔剣で魔力を吸い取って再生能力を潰すわ」
「では私達は二人の援護に周ります」
レナはMP7で弾幕をはりつつ真理も魔法で竜に攻撃を始めた。その間にエレオノーラは『ソニックストライク』という一気に自身の行動速度を音速近くまで上げる身体強化型の魔法を使ってワイバーンを踏み台にしながら竜のところまでジャンプし剣を刺す。
「『スラッシュダンス』!」
無数の斬撃を放ち、竜の翼を切り裂いて地面へと落下させる。落下する瞬間にエレオノーラは竜から離脱しレナがいるワイバーンに飛び乗った。
全員ワイバーンから降りて竜に近づく
「やるじゃねえか、あの金髪エルフ!俺達も負けてなれないな!」
地面に落下させた竜に目掛けてモーレアは斬馬刀を投げてくし刺し状態にして、杭を打ち込む様に斬馬刀を深く地面に叩き付ける。これで竜は飛んで逃げることはできなくなった。
続いてガイルは竜の頭に剣を刺して竜の魔力を吸収する。
「再生できないようにたっぷりと吸ってあげる!」
「ギャオオオオ!!」
竜はガイルに目掛けて火炎放射を喰らわせるがその攻撃に耐えながらも彼は魔剣を離さずにいる。エレオノーラはガイルに回復魔法で傷を修復し、真理は幻想の宝玉でガイルの周りにナノマシンの盾を作り出して炎を遮断する。しかし火炎放射をまともに喰らってしまった所為かガイルは膝をついてしまう。
「ガイル!どけ!」
モーレアはガイルをエレオノーラのところまで投げて回復魔法で傷を癒してくれと頼むと彼女はそれを承知してガイルを手当てする。
モーレアは竜の顎に拳で殴ると竜の口は真上を向いて火炎放射は上空に逸れる。そのまま上半身を振ってその反動を利用し高速で拳を右、左、右と交互にフックを繰り出して顔面を殴り続ける。
「今度こそ、これで止めだ!!」
モーレアはストレートパンチで竜の顔面を叩き込むと竜は刺さった剣ごと吹き飛んだ。
ガイルが持っている魔剣の影響か竜は再生しようにもできなくなっていた、最後の力を振り絞ってモーレアを食べようと口を開けて襲い掛かって来たがレナはそれを見て手榴弾を口に目掛けて投げ込み、真理はその手榴弾に強化魔法をかける。
竜は思わず手榴弾を飲み込んでしまい、竜の体は爆発し様々な方向へ飛び散って灰になった。もう再生することはない、完全に勝利したのである。
レナと真理はハイタッチしてモーレアとエレオノーラは握手してお互いに勝利の喜びを分かち合う。
「やるなお前、コンダート王国でもかなりの腕持ちの剣士と見たぜ」
「ありがとう。私もあなた程の戦士と共に戦えたことを誇りに思うわ」
マリーも無事救出できて魔竜も倒した。後はこの街の火災を消化すればひとまずは落ち着いていいだろう。
そう言っているうちにイスフェシア皇国の上空に分厚い曇が現れて雨が降り始めた。おそらくウインチェルとイスフェシア皇国の魔術師達が協力して作った雨雲だろうとモーレアは言った。それを見たレナとエレオノーラは驚いてしまう。
一時的に凄まじい豪雨がベリア中の炎を消していく。これで残すところはこの被害の元凶であるゼルンを捕まえるだけだ。
一方、ゼルンはイスフェシア皇国を出てカタカリ大草原にいる魔物達に指示を送っていた。本来であれば魔竜によるイスフェシア皇国を崩壊させて人々の魂を回収するのが目的だったが失敗に終わってしまったので次の作戦に出ることにしたのだった。魔物達は次々とイスフェシア皇国へと進軍して行く。
このままでは終わらせない。帝国が全国を支配し陛下が全ての頂点に立たれるまでは……そして自分の研究が帝国一番だと証明するまではまだ諦める訳にはいかないのだ。
仮に魔物達が全て撃破されたとしても一度帝国に戻ってまたイスフェシア皇国を侵略する計画を練っていけば良いのだ。今回の作戦でいいデータは取れたし新しい研究にも活かせる。そうすればイスフェシア皇国に限らずにテレン聖教皇国やコンダート王国も支配できるかもしれない。おっとこうしてはいられない、とっとと魔物達をイスフェシア皇国に向かわせて帰ってしまおう。
いろいろ考えている間に近くから黒い空間から黒いフードを被った人物が現れる。その人物はいつも919小隊にエメキア・ディエナ陛下からの手紙を持ってきてくれるメッセンジャーだ。
「いつもご苦労様」
「…………」
メッセンジャーから陛下の手紙を貰って内容を確認すると……「お前たちはもう用済みだ。今までご苦労だった」と書いてあった。
思わず自分の目を疑ってしまう。まさか陛下からそのような事を言われるなんてありえない!今まで陛下の指示で我々919小隊は動いていたのに!
メッセンジャーは右腕でゼルンの腹を貫いた。意識が遠のいていく間際に一つの疑問が生まれる。何故今になって陛下に必要がないと言われたのか、魔物達はイスフェシア皇国に向かっていることから作戦は完全に失敗してはいないはずだしウェルフェナーダでは中佐殿とブルメがジンマを使ってコンダート王国軍とイスフェシアの勇者を殲滅している最中なはずだ。何故今このタイミングで見限られたのかが理解できない。
いや待てよ、そもそもこの手紙は本当に陛下が書いたものなのか?よくこのメッセンジャーから手紙を貰ってはいたが本人からは一度も貰ったことがない!!
「ま……さ…か……この手……紙は……」
メッセンジャーはもう一度ゼルンの腹を刺して後ろを振り向いた。すると風で被っていたフードが取れてしまいその姿を見たゼルンはさらに自分の目を疑った。
「き…み……は」
帝国の魔科学者と呼ばれた男はその場で倒れ込み、暗い闇の中へと沈んでいった。




