86話 天使のスムーチ
帝国兵がネバーランドに突撃して扉をこじ開けると無数の触手が帝国兵を襲い返り討ちにする。彼女の名はキュラス・アキダクト、エンザントから来たスキュラの亜人だ。
「キュラスちゃん良かったの?ここはあたし一人で充分よ」
「私もこの店が好きですからね。私達みたいな亜人種でも働かしてくれるし、お給料もいいですしこの店を紹介してくださった族長と店長には感謝しています」
「あらそれは嬉しいわね。ここを踏ん張ってくれたらボーナス弾むわよ」
「喜んで敵を排除しますね!お姉様!!」
キュラスは自慢の触手にボウガンを装備して帝国兵達をハチの巣にする、奥にある非常口に近づけさせない為にもここは何としてでも死守する必要がある。ボウガンの矢を撃ち終えると直ぐに他の触手で矢を装填し再び打ち始める。矢を全て使い切ると剣や斧、槌を持ち替えて帝国兵を攻撃する。
「ぐわっ!」
「怯むな、相手は二人です。店の奥まで追い詰めて袋叩きにしなさい。残りは逃げた奴らを追ってください」
ジャックはキュラスの猛撃を受けながらゆっくりと歩いて行く。斬撃や打撃は全て鎧が防いで全く効いていないようだ。ジャックの後を続いて帝国兵達は店に入る。
「くっ!」
「キュラスちゃん!」
「やめなさい、亜人とはいえ私は女性に剣を向けたくありません」
ジャックのセリフを聞いてピクッとガイルが反応する。今の言葉は聞き捨てならない、自分の時は容赦なく剣を振ってきたくせに。
「ちょっとそれどういう意味?あたしは女じゃないってこと?」
「え、貴方はどう見てもおと…」
「あ・た・しは!!女なのぉぉぉぉぉ!!!」
ガイルはジャックのところまで全力で走って飛び蹴りをかますと後ろにいた帝国兵ごと店の外へと吹き飛ばした。ジャックは反対側の建物に激突し瓦礫に埋もれる。
ガイルはキュラスに後は一人で相手するから先に逃げなさいと言いキュラスはそれに従って直ぐにギルドの傭兵達を呼んで来るので言って真理達が使った非常口から逃げる。
帝国兵は態勢を整えて再び攻撃を仕掛けて来る。
「愛のぉぉ……ラリアットォォ!!!」
帝国兵の一人に上腕二頭筋が襲う。それに激突した帝国兵は勢いよく倒れる。続いてもう一人の帝国兵が剣で攻撃するとそれを白刃取りしてそのまま剣をへし折り、帝国兵の後ろ回って抱きつく。
「き、気持ち悪い!離れろ!」
「恋の……バァァァァックドロップ!!!」
そのバックドロップは綺麗に入り、地面に叩き付けられた帝国兵の頭は埋まる。それを見た帝国兵達は恐怖を覚え魔法石を使って増援を要請しようとする。
「敵が強すぎる!増援をよこしてくれ!!」
『敵の勢力は?』
「一人!筋肉モリモリマッチョのオカマだ!!」
『は?何言ってんだお前』
ガイルは通信を取っている帝国兵に近づき魔法石を奪い、そのまま握り潰して魔法石を砕いた。
帝国兵と目が合うとにっこりと微笑む。
「ひっ!!」
「違うでしょ?あたしは可憐で美人な乙女なの。次からはそう伝えなさい」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!!」
恐怖のあまりに帝国兵達はその場から全力で逃げ出した。少しして瓦礫に埋まっていたジャックが瓦礫を吹き飛ばして復帰する。それを見たガイルは地面を叩いて魔法陣を展開し魔法陣から剣を取り出す。
その剣はかつて自分が騎士団隊長として使っていた相棒とも呼べる魔剣、『サキュバス・テンプテーション』だ。
「やってくれましたね」
「これ以上、あなた達帝国の好きにはさせないわ」
ジャックはガイルに近づき剣を振るとガイルも剣をぶつける。聖剣と魔剣、二つの剣のぶつかり合う音が街中に響き渡る。
どちらも一歩も引かずに剣を振り続けるとジャックは体に違和感を覚え始めた。体が段々とだるくなり、剣が重く感じるのだ。一旦距離を取るとガイルは魔法陣を展開し詠唱を唱える。
「『ローゼス・ストーム』!」
ガイルの剣から薔薇の花びらが乗った風がジャックを襲う。花びらに触れると電流が走り、体が痺れる。
ジャックが痺れた隙にガイルは一気に近づいて止めの一撃を与えた。ジャックはその痛みで膝をついてしまう。
「ぐっ!……これはまずい」
「あなたの負けよ、おとなしく降伏してちょうだい」
「私が負けたかは私が決めます!!」
ジャックは魔力を込めると聖剣が輝き周囲の花びらを吹き飛ばした。光は剣の刀身を伸ばしてそのまま縦に振ってガイルに攻撃する。
「うっ!」
「この剣は邪悪なる魔を振り払う聖剣……『シャイニング・ブラストエッジ』!!」
光がガイルを包み爆発する。ガイルの体はボロボロになるが魔剣が赤く光ると体の傷が癒えていく。
「何なんだその剣は!?」
「この『サキュバス・テンプテーション』はね、相手の体力と魔力を吸い取ってそのまま自分の力になるの。だからあなたの魔力を吸い取って即座に魔法を発動できるし、体力も回復することができるのよ」
「この……悪魔め!!」
ジャックは再び剣を振るとガイルはその剣を受け止める。すると魔剣がジャックの魔力を吸い取って力が増強されガイルは受け止めた剣を弾き返して斬撃を加えた。ジャックがまとった鎧と聖剣は粉々になってしまう。
ガイルはゆっくりと近づいてジャックを優しく抱きしめた。
「あなた、さっき私のことを“悪魔”と呼んだけど逆よ。私はね“天使”なの……それを教えてあ・げ・る♡」
「や、やめろ!!」
ガイルは少し顔を赤くしてゆっくりと唇に近づき…………。
ぶっちゅ~~っ!!
その瞬間、ジャックの全身に悲鳴が上がった。そしてその行為が激しくなると目を白くて意識を失い口から泡が吹き始め倒れた。
「これが私のとっておきの愛の魔法、『天使のスムーチ』よ」
ガイルの声は届いていない。帝国から聖光の騎士と呼ばれた男は敗北したのである。しかもこんな形で……。
ジャックの体をそっと地面に置くとガイルは真理達の後を追う為にイスフェシア城に向かうのであった。




