83話 エンザントで再会せよ
馬車でテレン聖教皇国を出てエンザントへと向かう。到着までは約半日は掛かる。
「あ~あ、装甲車やヘリなら直ぐにつくのにな~」
「エレオノーラさん、それだと敵にバレてしまいますよ」
3人はトランプをしながら到着までの間、暇を潰している。
エレオノーラはレナが持っているカードを1枚取り、手札に加えると今度はレナが私の持っているカードを1枚取ると手札が揃って2枚捨ててあがりとなる。
続いて私はエレオノーラが持つ2枚あるカードの内の右側を選ぶ、手札が揃い2枚捨ててあがりとなる。
「あー、負けちゃったわー」
「流石に結構やったから飽きてきましたね」
「でもね……他にやる事がないからね~」
窓から景色を覗くと周りにはデスニア帝国が配置させた魔物の軍勢が徘徊している。この魔物達はマジックパウダーによる強化をしているらしく外に出て戦闘しようものなら数で返り討ちにされるだろう。
今乗っているこのテレン聖教皇国の馬車に攻撃をしてこないのは魔物達に施されている洗脳魔法で同盟関係を結んだテレン聖教皇国とイスフェシア皇国の関係者に攻撃をしないように命令を受けているとのこと。
しかし攻撃を受ければ反撃するようにも命令を受けているらしくこちらが何もしない限り、魔物達も大人しいとハーゲン皇帝から聞いている。
「そう言えば、エンザントとはどんなところ何ですか?」
「そうね、イスフェシア皇国の東側にある村でそこにはレナさんみたいな獣人やエレオノーラさんと同じエルフといった亜人種が集まって住んでいるの、後は魔力を作り出す木や植物があって植物から発生する魔力酸素を吸い込むことによって魔力が回復したり、力を増強することができるわ」
「イスフェシア皇国……実際に行くのは初めてだけど資料では山に囲まれている国でその山からは魔石を採取出来る。そしてこのアーガイル大陸で一番魔法の技術が進んでいいて別名“魔法の国”とも呼ばれるらしいわね」
「“魔法の国”……私達がいた国は他国だとそう呼ばれていたのね」
確かにテレン聖教皇国、コンダート王国、デスニア帝国のいろんな人達を見て思ったのは能力者を除いて魔法を使用して戦っているのは殆どいなかった気がする。まぁ、コンダート王国は魔法を凌ぐ軍事技術を持つしデスニア帝国は能力者やアイテムなどの技術が長けている。もし世界中の国と本当の意味で同盟関係を結べたなら、和平を結べたならきっとより良い未来が出来たのだろうなと私は考えた。
あれから数時間経過して夕方、馬車はエンザントの入り口に到着するとそれに反応して警備していたケンタウロスやラミアが近づいてくる。
「テレン聖教皇国の者が何しに……これは陛下!?し、失礼いたしました!」
ケンタウロスとラミアは片膝をついて敬礼する。私は少しだけマリー・イスフェシア女皇を演じる
「頭をあげてください。ここにモーレア・ミストがいると聞いたのですが、彼女に会わせていただけますか?」
「そ、それは……」
ケンタウロス達は戸惑う。モーレアはエンザントの者達と共に国内にいる帝国兵を殲滅してマリー・イスフェシア女皇を拘束しようと反逆を考えているのだから、庇うのは当たり前か。
「なら本人にこう伝えてください。柊真理がコンダート王国から帰ってきたと」
ケンタウロスは私が何を言っているのか分からないという顔をしているので「急ぎなさい」と少し圧をかける。ケンタウロスは指示に従ってエンザントの奥へと向かった。
エレオノーラはケンタウロスの行動を見て呆れる、今の行動はモーレアがここにいるって言っている様なものだと。
数分後、二本角の半鬼人が現れる。エレオノーラとレナは覇気を感じたのか思わず銃を取り出して前に向ける。
「二人共、待って!」
「ほう、その武器は帝国の白衣野郎が持っていた物と似ているな」
「モーレアさん!」
「確認させてくれ、お前はあいつ……イスフェシアの勇者の本名を言えるか?」
「ええ、彼は尾崎翼。レイブンによってこの世界に連れて来られた私を助けに来てくれた幼馴染よ」
「え、恋人じゃないのですか?」
「ちょっ!?」
レナがボソッと言うと言葉が詰まってしまう。それを見たモーレアは思わず高笑いをして近づいてきた。
「すまねぇ、お前は間違いなく真理だ。……おかえり!真理」
「モーレアさん……」
ここに来るまで本当に長かった。最初ウインチェルの転移魔法で右も左も分からない土地に飛ばされた時はどうやってコンダート王国に向かえばいいか分からなかったし、途中でたどり着いた村には事件に巻き込まれたがアステラさんやルリちゃん……いろんな人に助けられてコンダート王国にたどり着き、翼にも合流出来た。そしてコンダート王国と協力してこの戦いを終わらし、イスフェシア皇国を取り戻す為に私は帰ってきたのだ。
ここまでくるのにいろんなことがあった。いい事もあったけどやっぱりイスフェシア皇国の皆に会えないのは寂しかったし、無事でいるのか心配だった。
私はモーレアに抱きついて涙を流す、モーレアは優しく抱き返して片腕で頭を撫でてくれた。
しばらくして3人はモーレアと共に村長の家に向かう。家に入ると良い匂いがする。その匂いの先にはこの村の族長であるエト・ラインケルがシチューを作っていた。
「あら、おかえりモーレア……って陛下!!何故ここに!?」
「まてエト、ここにいるのはマリー様じゃない。この人が前に言った違う世界からやって来た真理だ」
「初めまして……っていうと以前にも会っていますのでちょっと違う気がしますが、私は柊真理です」
エトは目をしっかりと開いて確認する。どう見ても同一人物にしか見えないのだが、モーレアからは以前、エンザントに訪問してきた陛下は実は別人で本物の陛下は今デスニア帝国の者によって操られていると聞いてはいるらしいが、やはり混乱してしまうようだ。
「ええと、エト・ラインケルです。そちらのお二方は?」
「レナです。コンダート王国から参りました」
「同じく王国から来ました、エレオノーラです。よろしく」
自己紹介を終えてエトは3人をテーブル席に座らせると出来上がったシチューとパンを運ぶ。いろいろ話はあるがまずは腹ごしらえをしようとモーレアは言ってガツガツとシチューを頬張る。
食事を終えて、モーレアは会議を始める。まずは現状を説明するとイスフェシア皇国はマリー・イスフェシア女皇とレイブンの仲間達が支配しており、帝国兵達とイスフェシアの騎士達、ギルドの傭兵達は周囲の山から魔石採取活動をしている、そしてその採取した魔石を使って武器や兵器を開発しているらしい。
そしてウインチェル、ミーア、ラルマは監視をされていてあまり身動きができずウインチェルは帝国の魔科学者ことゼルン・オリニックと共に兵器の開発を強いられる。モーレアもラーシャが召喚した魔物によって監視をされているが、ウインチェルの『デコイロイド』という分身を作る魔法のおかげで魔物の監視は分身にいっており、本人は仕事をサボ……もといイスフェシア皇国を奪還するため、作戦の準備をしていた。
「え、今“サボる”って聞こえた気がしたのですが?」
「気のせいだ。話を続けるぞ」
そして、モーレアはまずはソルジェスのギルド長であるディズヌフとエンザント村にいるエト達に事情を説明し国内にいる帝国兵を殲滅、もしくは追い出すために戦力を集めていた。次にテレン聖教皇国に訪れてボーマ達に協力を求めたところボーマも仲間達が牢屋に入れられて、帝国に反攻するなら皇帝以外にも家族や関係者を全員抹殺すると脅されて身動きがとれなかったらしい。
「しかし、今はハーゲン皇帝の洗脳を解いたので協力してくれますね」
「よし、もう一度協力を仰いで帝国兵やカタカリ大草原にいる魔物達の殲滅を手伝ってもらおう」
「では、次はどうやって陛下の正気を取り戻すかですね」
マリー・イスフェシア女皇の洗脳を解くにはハーゲン皇帝と同様に私が持つ幻想の宝玉で脳内にある寄生虫を取り除けば正気を取り戻すはずだと私はモーレアとエトに伝える、後はどうやって近づけばいいかだが……。
「例えば真理さんを牢屋で待機させて、陛下に真理さん捕まえたと報告して直接牢屋に来ていただくのは?」
「う~ん、その後にあの仮面野郎の仲間達に気づかれると厄介なんだよなぁ……特にあの白衣野郎とかラーシャにバレると俺とウインチェルに付いているこの腕輪でドカンッとあの世に直行らしいからな」
モーレアは右腕に付いている指輪を見せる。この指輪はルアールの能力で爆弾に変えられており、裏切りや逆らった場合は爆発する仕掛けになっている。その裏切り行為をどうやって判定するかは監視役の人が見て判定するらしいので今は起動しない。モーレアは試しにこの腕輪を破壊しようと試みたが破壊は出来なかったと言う。
私は幻想の宝玉で腕輪にナノマシンを付着させて破壊できないか試してみる。すると腕輪の一部が錆びていき腕輪はパキンと割れる。どうやらこのナノマシンは付着した物を破壊することも出来るらしい。
「よっしゃああ!これで思う存分暴れられるぜ!」
「後はウインチェルさんに付いている腕輪も壊せば本格的に帝国と対峙できますね」
「よし、皆明日はネバーランドに来てくれ。そこでウインチェルの腕輪も破壊してマリー様の洗脳を解いこう。そして帝国の奴らにイスフェシア皇国の恐ろしさを教えてやる!」
モーレアはそう言うと外れた腕輪を持って、イスフェシア城に向かった。
「では3人共今日は私の家に泊まってください。そして陛下をよろしくお願いいたします」
エトは客室に案内し3人はそれぞれのベッドで明日に備えて休むことにした。




