82話 テレン城へ侵入せよ
オゼットがウェルフェナーダで戦っている一方、真理、エレオノーラ、レナの三人はヘリでテレン聖教皇国に向かっている。
イスフェシア皇国を取り戻す為にはマリー・イスフェシアの洗脳を解くことが必要だが、そうするとテレン聖教皇国に襲撃された際に数で攻め込まれてしまうと再び支配されかねないので先にハーゲン皇帝の洗脳を解き、テレン聖教皇国と協力してからイスフェシア皇国を奪還する。
ヘリのハッチが開き上空約4000mから降下をしてテレン城に侵入していく。
「真理さん、準備はいいですか?」
「ええ」
「二人共、行くよ!」
レナとエレオノーラは「お先に」とヘリから降りて降下していく。正直スカイダイビングは人生初の経験であり、一応パラシュートの使い方の説明は受けたが緊張と恐怖が降下の邪魔をする。
私はゆっくりと深呼吸をする。落ち着いて、落ち着いて……大丈夫よ私、よくこの状況を見て、よく考えて……でも迷わないで、迷えば立ち止まってしまうから。だから迷わず前に進め!
私は勇気を出してヘリから飛び降りた。
風の抵抗が強く、思わず目をつぶってしまいそうになるが必死に目を開けて先に降下した二人の存在を確認する、二人は順調にテレン城の近くに降下している。
パラシュートを開くタイミングは二人が先にパラシュートを開いたらと説明されている。パラシュートを開くのが早すぎるとテレン城にたどり着く前にテレンの騎士に弓矢で射抜かれてしまうかもしれないし、たどり着いた瞬間に包囲されかねないからだ。
ギリギリまでパラシュートを開かず降下していく。じわじわと恐怖が邪魔して思わずパラシュートのコードを引っ張りそうになりまだか、まだかと二人の様子を見る。
二人がパラシュートを開いた瞬間に私もパラシュートを開き、ゆっくりとテレン城の城外に着地する。
「まずは侵入に成功ね」
エレオノーラとレナはVP9というハンドガンを構えて周囲に敵がいないか確認する。先程のパラシュートで敵はこちらの存在は認識しているはずだから早くこの場所から離れてハーゲン皇帝を見つけなければ。
城の中に侵入し、発見されないように静かに行動する。辺りにはテレンの騎士が徘徊している。
「どうします?」
「人を殺すのはやむ得ない状況以外避けてほしいわ。テレンの人達に罪はないもの」
「結構甘いことを言うのね、真理さんは」
「難しい?」
「まさか」
エレオノーラはテーザー銃に切り替えてテレンの騎士に向かって放つ。テーザー銃の針は鎧に刺さり全身に電流が走る。テレンの騎士はバタンと倒れると騎士達が近づく、レナは気づかれないように素早くテレンの騎士の背後を取って次々とスタンガンで鎧に当てる。
「これで先に進めますね」
「二人共息が合っていますね」
レナとエレオノーラは周囲を見渡しながら奥へと進む。私はその後をついて行った。
ハーゲン皇帝がいるところはおそらく玉座にいると考えられるので、宮殿の中心部に進むと一人の騎士が玉座前の扉で見張りをしている。その人物はかつてカタカリ大草原でイスフェシア皇国に攻め込んで翼の魔法で氷漬けにされた騎士団副隊長ボーマ・カロシーだった。
ボーマはこちらの存在に気付くと声を掛ける。
「よお、こそこそと隠れてないで出て来て良いぜ」
「こいつ!」
「待て、お前達とやり合うつもりはない」
ボーマは剣を投げて敵意がないことを伝える。エレオノーラとレナは一応銃を降ろすがいつでも銃を撃てるように気を張る。
「マリー女皇……似ているが本人ならそんな隠密行動をする必要はないよな。お前ら何者だ?」
「私は柊真理、つば……オゼットと同じ世界から転移してきた者です。私達はハーゲン皇帝の洗脳を解きに来ました」
「洗脳、やはり陛下は帝国のクソ野郎共に操られていたのか」
マリー女皇と帝国の白衣野郎がこの国に来てからハーゲン皇帝の行動はおかしなことばかりするようになり、仲間のハンソンとナリタは帝国と同盟関係を反対した結果、牢屋に入れられてしまい自分一人では身動きが出来ない状態だったとボーマは語る。
今すぐにハーゲン皇帝の洗脳を解いて貰いたいところだが、ボーマは私の服装を見るとその服装で陛下にお会いになられたら怪しまれるだろうと言い、近くにいたメイドに3人に似合うドレスを用意してくれと頼む。
メイドは一旦3人を客室に案内してエレオノーラにはウエディングドレスに近い純白のパーティードレス、レナは桜の花柄が付いているピンクのドレス、私には夜の星空をイメージした青いドレスを用意し着替えの手伝いをする。
エレオノーラは念の為に太ももにハンドガンのホルスターを巻いてVP9を装備してドレスのスカートで隠す。
「この姿をご主人様に見て頂きたかったわ」
「何か落ち着かないですね」
レナは鏡で自身の姿を見て少し照れる。任務で来ているとはいえドレスを着て他国の王と会って話すのは中々経験しないことで緊張をしてしまう。
再び玉座前に戻ってボーマに会うとボーマは陛下には話を付けておいたから後は任せたと言って扉を開ける。
「ちなみに本当に陛下の洗脳は解けるんだよな?」
「必ず解いて見せます。そしてあなたの仲間も助けますから安心してください」
ゆっくりと前に進むと玉座には日光に当たって頭が輝いているハーゲン皇帝が座っている。私は幻想の宝玉を握りいつでも発動出来るように準備する。
「マリー・イスフェシア女皇、重大な話があるとボーマから聞いたが何用だ?」
「ごきげんようハーゲン・テレン皇帝、実はイスフェシア皇国はコンダート王国との同盟関係に結ぶことに成功しましてそれを機にイスフェシア皇国で祝祭をあげようと考えています」
「ほぉコンダートと同盟とな、それは誠か」
「ええ、それで……」
私はハーゲン皇帝に近づいて幻想の宝玉の力を使いナノマシンをハーゲン皇帝に気づかれないように耳穴から侵入させる。ナノマシンは脳に行き渡り脳内にある寄生虫を発見した。ナノマシンは寄生虫に付着し電流を流すと寄生虫は消えて同時にハーゲン皇帝も倒れた。
「やったの?」
「ええ、手ごたえは有りね。これでハーゲン皇帝は正気に戻ると思うわ」
数分後、ハーゲン皇帝は起き上がると辺りを見ていったい何が起きているのかと状況が理解できないでいる。どうやら今まで自分は何をしていたのか記憶が全くないらしい。
私はハーゲン皇帝にデスニア帝国によって操られていたことを話すと彼は頭を抱えるが、まずは洗脳していた自分を助けてくれた3人にお礼を言う。その後ボーマを呼び牢屋に入れてしまったハンソンとナリタを解放するように命じた。
30分後、ハンソンとナリタが玉座の間に着く。まずはこれまでの状況を整理したいと思う。
デスニア帝国はイスフェシア皇国とテレン聖教皇国を和平と称し実質支配に近い同盟関係を結び、マリー・イスフェシア女皇とハーゲン・テレン皇帝は洗脳魔法を掛けられてしまった。
そしてデスニア帝国はイスフェシアの勇者であるオゼットを捕虜にしていたがコンダート王国のブラックベレーという特殊部隊によって救出、その後オゼットはコンダート王国と協力して現在はウェルフェナーダという地域でデスニア帝国の巨大ゴーレム“ジンマ”と戦っている。
その間に私達はテレン聖教皇国とイスフェシア皇国をデスニア帝国の支配から解放するべく、二人の洗脳を解いて国を取り戻そうと考えていた。
「なるほどな、しかしイスフェシア皇国は帝国の者達がいる。どうやってその者を追い払うのだ?」
「それならエンザントに向かうといい、何やらイスフェシアの鬼騎士は裏で反逆しようと村で準備をしているらしいからな」
イスフェシアの鬼騎士……おそらくモーレアのことだろう。ボーマの話だと彼女はイスフェシア皇国にいるデスニア帝国の兵達を殲滅しマリー・イスフェシア女皇を拘束しようと作戦を立てているらしい。
「詳しくは本人に聞くと良いだろう。馬車を用意しておくから少し待ってくれ」
「ありがとうございます。ボーマさん」
「礼を言うならこちらの方だ、陛下の洗脳を解いてくれたのだからな」
ボーマはニヤリと笑いながら玉座から離れていった。




