80話 未来を切り拓く光と未来を閉ざす闇
目を開けると最初にレイブンが座っていた椅子付近で起きる。どうやら元の場所に戻る事が出来たらしい。
レイブンがどこにいるのかを見渡すとラピスがレイブンを引っ張って黒い空間の中に入ろうとしている。
「待て!!」
「あら、お目覚めですか。もうしばらく寝ていても良いですよ」
「ふざけるな!」
「それにあなたの相手はそこにいますよ」
ラピスが指を差した方向には全長約60mの巨大なゴーレム“ジンマ”が立っている。前回見た時は40mぐらいだったはずだが姿が変わって大きくなっている、成長しているのかこいつは。
「オゼット!!」
エレザがこっちに走ってきた。エレザの姿を見たラピスはブルメとの戦いで勝敗がどうなったのかを察したみたいだ。
「彼女は負けてしまったのですね。残念です」
「残念がる必要はないぞ、直ぐにあいつの後を追わせてやる」
エレザはVP9を取り出してラピスとレイブンに撃つ…………撃ったはずだが弾丸は消えて当っていないようだ。
撃った弾丸はレイブンが握ってそれを落とした。奴も目が覚めていたようで立ち上がるとラピスと共に黒い空間に入ろうとする。
「逃げるのか!」
「ああ、もうここには用はないからな。たぶんお前と会うのはこれが最後になるな」
「なんだと!」
「もうすぐで俺の願いは叶う。それが叶ったらもう戦う理由は消えるからな……じゃあなクソ餓鬼」
「待て!!」
黒い空間は閉ざされるとジンマは雄叫びを上げて南に前進を始める。どうやらコンダート王国に向かっているようだ。奴を止めなくては……。
しかしレイブンとの戦いで体が思う様に動かない。回復魔法で傷を癒しながらジンマに向かおうとするとエレザが肩を掴む。
「無理をするな」
「しかし、奴は俺のオメガ・アイギスを使わないと倒すことができない」
「私が代わりにその武器を持って奴を倒せないのか?」
「無理だ。オメガ・アイギスは発動した人物以外が所持すると効果で光に変換される」
「それは恐ろしいな。では提案なのだが……」
エレザは口にすると気は進まないが現段階で一番手っ取り早い方法を提案してきた。それに賛成して俺はエレザに肉体強化の魔法を唱える。
「もっとだ。これじゃパワーが足りん」
「わかってる」
魔法を唱え続けてエレザを一度だけ人間離れした力をだせるようにする。ジンマはこちらを無視してコンダート王国がある方向に口を開けてレーザーを放つ準備に取り掛かる。この距離からでもコンダート王国の城に届くのか。
「早くしろ!」と怒鳴るエレザにありったけの魔力を与える。こっちからジンマまでは約1.5㎞といったところか。そこまで届くためにはまだ力が足りないが焦って一気にエレザに魔力を流せば彼女の体は魔力に耐え切れなくなって壊れることになる。ここは焦らず慎重に進める必要がある。
「まだか、それとも勇気がないのか?」
「あと少しで…………よし完了!やってくれ!!」
強化魔法を付与して魔力を流し終えるとエレザは俺の胸ぐらを掴み、ジンマに向かって投げた。
飛ばされる最中で詠唱を始める。
-目覚めよ、黄金の魂! その魂はあらゆる絶望から生命を守る希望の光なり! 降臨せよ! オメガ・アイギス!!-
黄金の盾と共にジンマに突撃するとジンマはそれに気付いてコンダート王国に目掛けてレーザーを放った。
レーザーを防ぎながらジンマの頭に向かって進んでいくが、その影響で速度が落ち始めてきている。
オメガ・アイギスを使っている間は他のスキルや魔法を発動は出来ない。このままだとジンマに届かず落下してしまう…………まぁここまではエレザの提案通りだ。
「はぁっ!!」
エレザは俺のところまでジャンプし背中を蹴りあげることで速度を維持する。普通の人ならここまで来るのは不可能だが先程エレザに掛けた強化魔法と魔力で一度だけならモンスターもびっくりな怪力を持つことができる。
エレザはそのまま落下していく。そして速度を上げた事でようやくジンマの頭に到達する。
オメガ・アイギスをジンマの頭に叩き付け、叩き付けた個所から光が溢れ出す。
「いっけえええええええええええええ!!!!」
上半身が消えてジンマの活動が鈍くなり、大量の光の粒子が舞う。
「綺麗だな」
エレザは森の中に落ちて木の枝がクッションの代わりとなったおかげで命に別状はない。そして巨人ゴーレムがいた場所には光の柱が立ちその光景を見て美しいと感じた。
一方、ウェルフェナーダで立つ光の柱を見たレイブンとラピスはジンマが敗北をしたことを確信する。
「どうやらここまでのようだな」
「はい」
「イスフェシアはどうなっている?」
「はい、ルアールさんから任務は失敗、ディシアに撤退するとのことです」
「そうか……」
どうやらイスフェシア皇国は奪還されたみたいだ。帝国から課せられた次の任務はイスフェシア皇国を地図から消すという内容だったがあちらでもコンダート王国による妨害を受けたみたいだ。
このままだとディシアに戻ったところで陛下に処刑宣告されるのが目に見えて分かる。
「ラピス、皆に合流地点をアーザノイルに変更だと伝えろ」
「了解しました。中佐殿」
さて、今回はコンダート王国とイスフェシアの勇者による妨害でこの作戦は失敗に終わったが、正直勝っても負けても最後の手段は使う予定だった。
CCSの機能でアイテムを召喚する。
「UGD作戦を開始する」
UGD作戦……UnderGroundDestroy作戦の略でウェルフェナーダに地下トンネルを作り大量の爆薬を設置し起爆する事でウェルフェナーダという国そのものを爆破するという大胆な作戦だ。
普通ならその膨大な爆薬の入手とトンネル制作で何十年何百年掛かり、莫大な費用も掛かる理由で不可能とされていた。しかしゼルンとルアールの協力で爆薬の確保、黒いIMSPを使ったブルメとジンマや魔物を召喚及び操ることができる帝国の兵士や能力者、囚人達の労働によってトンネルを作りウェルフェナーダの70%爆破できるようになったのだ。
ここまで頑張ってくれた皆には感謝しないといけないな。おかげでウェルフェナーダにいるコンダート王国の兵共やその国に生息している魔物、町に住んでいる人々全ての魂を回収できるのだから。
「では、さようなら」
手元に召喚したアイテムのスイッチをいれた。これで俺の願いは叶えられる。
視点は変わってジンマを光に変えて無事に戦闘を終了した。これでウェルフェナーダでの戦争はコンダート王国の勝利、これをワタに報告すれば任務完了したことになる。
直ぐに王国軍に合流しゲルシュタインに戻ろうと思ったその時……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
物凄い地震だ……いや地震にしては何かがおかしい。地中から大規模の魔力反応を感知できるということは、これは地震じゃなくて人工的な“何か”だと思う。早くこの場から離脱しなければならないと本能が叫ぶ。
「『タキオンソニック』!!」
「おわっ!?」
エレザを抱えてすぐに『ソニックバリア』の展開範囲を広げその場から北にあるイェルガという国まで走った。
ドドドドドドドドド!!!!!
地面から火柱が至る所に噴き出てくる。戦車は爆発で吹っ飛び、ヘリは爆風でコントロールが効かなくなり落ちていく。地面は割れ兵士や魔物は地中に埋まっていき、爆発音と断末魔が絶えず聞こえてくる。
まさに地獄絵図と言ってもいいだろう。
-振り向かずに真っ直ぐ進みなさい、今ここで足を止めればあなた達は確実に死にます-
頭の中で誰かの言葉が横切る。その言葉を信じて真っ直ぐ走ると森を抜けて平原へと出る。ここはウェルフェナーダとイェルガの間にある場所らしい。
あまりにも先程の地獄絵図と真逆の静かで何もない平原の光景を見た所為か思わず足の力が抜けて転んでしまった。
「「ぐは!?」」
ゴロゴロと転がって平原で大の字になった俺とエレザは呼吸を整える。今でもウェルフェナーダから凄まじい風、というよりも爆風がここまできている。そしてウェルフェナーダでは巨大なキノコ雲が見えたのだった。




