8話 戦争準備
会議が終わりオゼットは城の客用の部屋に案内され、ベッドに倒れる様に寝た。この世界に召喚されてからほぼ一日中動いていたので、かなり疲労していたのだ。彼は深い眠りにつく。
一方、ウインチェルの家があった森にて、拠点の確保しに行ったイーゴ達との連携が取れずにいたテレン聖教皇国の騎士は不審に思い、偵察小隊を森に向かわせる事にした。
「ここに本当に魔女の館があるんですか?」
「情報によれば、ここに間違いはないのだが…イーゴ隊長も消息不明になるし気味が悪いな」
「あの隊長も苦労してますよね~。皇帝の命令とは言え、盗賊なんかと組んで拠点確保とか、最近の皇帝のお考えはわからないですね。もし盗賊が裏切ったりするとか考えないんスかね?」
「仮に盗賊が裏切ったとしても隊長なら一人で勝てるさ。さて、このまま拠点を確保しイーゴ隊長を…」
森林に人影が一瞬、通る。よく見渡すと複数誰かが潜んでいる。
「……囲まれたな」
「7~8っていったところっスかね」
「陣形を取れ!!集まり過ぎず、離れ過ぎずに!」
テレンの各騎士達はスリーマンセルになってそれぞれの方向にいる人影に攻撃を仕掛ける。人影の正体はイスフェシア皇国のギルド『ソルジェス』の傭兵達だった。テレン騎士の攻撃に応戦する。
「……やれ」
傭兵達の背後にもう一組、弓兵が潜んで一斉に騎士達に矢を放つ。矢には毒が塗られており、次々と刺さっていく。
「がっ!?」
「…終わりだ」
毒の影響で騎士達は倒れていき、傭兵達は止めを刺しにいく。一人も動かなくなった事を確認して彼らは次の作業に取り掛かる。手紙に『拠点確保完了。このまま拠点防衛に移行する』と書き、伝書鳩をテレン聖教皇国に飛ばす。
「ロージスさん。敵の全滅を確認しました」
「これで奴らは補給部隊と物資をこの森に配備するだろう。そしてその部隊を全滅させれば補給は出来ず、旨くいけば物資を横取りできるかもしれん。各傭兵は、森中に罠を仕掛けろ。偵察班はこのまま警戒にあたれ」
傭兵達はロージスの指示に従い、暗闇へと消えていった。
日が明けて、太陽が昇る。オゼットが寝ている部屋の扉をミーアがノックする。
「おにいちゃん!朝食ができたよ!起きて!」
「う~ん、まだ眠い」
オゼットがそのまま眠りに付こうとするとズドンッと扉が壊れて飛んでいく。それを聞いて目を覚ます。どうやらモーレアが扉を蹴り破いたらしい。メイドの一人がモーレアに注意し、モーレアは笑いながら謝罪をする。
「よう、勇者様。お目覚めかい? 飯が出来たって話だから早く行こうぜ」
「おはよう!おにいちゃん!」
「…………おはよう」
モーレアは先に食堂へと向かう。オゼットも寝間着から着替えてミーアと一緒に後を追う。
食堂に着くとラルマ、ガイル、ウインチェルが既に朝食を取っている。テーブルにはバターロール、スクランブルエッグ、ボイルウインナー、ベーコン、サラダ、スープが置いてある。この世界の料理は前にいた世界とほぼ同じ材料と料理があるらしい。オゼット達は席に付いて食べ始める。
「皆、おはよう」
「おはようございます。先程、凄い音がしましたがどうかされたのですか?」
「おう、俺が食堂に向かってる最中にミーアと会ってよ。こいつを起こしに行くって言って部屋に向かったらこいつ全然起きねぇからよ、俺が起こしてやった訳よ」
「だからってドアを壊さなくても良かったのでは?」
「あのままだったら起きなかっただろ?」
「モーレア、今度起きなかったらあたしに任せて、お目覚めのちゅ~をしてあ・げ・る♪」
次に起きなかったらガイルにキスをされるらしい。何としてでも次からは自分で起きようとオゼットは誓った。
食事を終わり、皆の予定について聞いてみるとウインチェルはIMSPの修理、モーレアとガイルは騎士達に今回の作戦の説明と部隊編成をする為にミーティングを行うらしい。ミーアとラルマはイスフェシア周辺にある山を探索し、伏兵がいないかを見てくるそうだ。
「俺に何か出来る事はないかな?」
「んー。どうせだったらこの都を色々見て回ったらどうだ?」
確かに昨日この世界に着いたばっかりでこの都を観光する余裕はなかった。もしかしたらこの都に真理や殺人鬼の情報があるかもしれない。
「そうですね、ベリアを見て回ることにします」
「気をつけてくださいね。IMSPがない以上、あなたは術やスキルを発動する事は出来ないのですから」
「うん、わかったよ」
オゼットは城を出て、とりあえず情報集めの為にギルドに向かう事にした。入口に入ると受付にレバンと人狼らしき人物と話をしている。レバン達はこちらに気付いて話をかけてきた。
「よう、また会ったな」
「お前さんがレバンを助けてくれた奴か?」
「初めまして、オゼットです」
「俺はディズヌフ・ガングだ、ここのギルドマスターをやっている。ディズって呼んでくれ」
ディズは陽気に挨拶をし、オゼットに握手をする。挨拶が終わった所で、レバンが話の続きをし始める。
レバンが情報集めにテレン聖教皇国に行き、情報屋やテレンのギルドの人々に聞いてみると、どうやらテレン聖教皇国はデスニア帝国と呼ばれる国に攻められ、侵略されそうになったが両国間の交渉の結果、休戦協定を結ぶ代わりにイスフェシア皇国を攻めて占領するように強要されたらしい。
オゼットはマリー女皇から聞いた情報をレバン達に言う。
「7万の軍勢か……そりゃあ、やばいな」
「竜騎兵がいるってなると厄介な話だ。大砲で撃ち落とすのも困難だし、魔術だと距離が遠すぎて届かないだろうな」
「対策はあります。後は万が一の為に市民を安全な場所に避難させなければなりません」
「それについては安心してくれ、女皇様の命で市民達を城に避難させる手筈になっているんだ。」
「それと先程、ロージスの伝書鳩が来て森の拠点を確保して維持してくれているらしい」
これで敵は森に隠れる事も出来ず、補給も出来なくなった。後はウインチェルがIMSPを修理してくれれば、テレン聖教皇国との戦いは戦争ってレベルにならずに勝利する事ができる。
「ところでレバンさん、俺が依頼した情報について何かわかった事はありましたか?」
オゼットは以前に頼んだ真理と殺人鬼の情報について聞いて見る事にした。しかし、それに関してはわからなかったとレバンは言い、それを聞いて落ち込む。
「そうですか……色んな情報を教えて頂き、ありがとうございます!」
「こちらこそ、お互い協力してこの戦いに勝とうぜ!テレンの奴らなんかに俺達の国を奪わせはしない!!」
「俺も他にわかった事があれば知らせるよ」
オゼットは彼らと別れ、都をふらつき歩く。もしかしたら真理の情報を知っている人物がいるかもしれない。そう願いながら彼は色んな人々に聞いて回る事にした。
一方、イスフェシア皇国に戦争を仕掛けるテレン聖教皇国の皇帝、ハーゲン・テレン皇帝は騎士団の部隊長達を集めて作戦会議をしている。森に行った偵察部隊からの伝書鳩が届き、拠点を確保したと報告を受け次の段階に移行しようとしていた。
「これで、イスフェシアの奴らを楽に征服ができるな」
「補給部隊は夕刻をもって拠点に向かう手筈となっております」
「ハンソンよ、準備はどうなっている?」
「はっ、竜騎兵、騎士団、弓兵は準備万全であります!」
騎士団隊長のハンソン・キートンは告げる。彼の作戦では、まず、竜騎兵による奇襲を仕掛け、突撃部隊を前進しつつイスフェシア皇国周辺にある山に潜ませた遊撃部隊で包囲、そして全部隊で殲滅を図る。相手の国の勢力も3万とこちらより少なく、騎士と魔術師しかいないのも調査済みである。
地形に関してもテレン聖教皇国からイスフェシア皇国までは草原であり、イスフェシア皇国の周辺は標高が高い山で覆われている為、敵国の軍勢は必ず北側の草原にでなければならない。
「遊撃部隊も間もなく配置に着く頃だと思われます。後は補給部隊が配置に付けばいつでも包囲、殲滅が可能です」
「ナリタ竜騎兵隊長、イスフェシアの奴らに動きはあるかね?」
皇帝は女性騎士に問いかける。彼女はナリタ・アージェ。竜騎兵部隊の隊長で金髪ロングヘア、鎧越しでもわかる巨乳の持ち主である。
「はっ、情報によると奴らは元騎士団隊長、ガイル・ディクソンを部隊に戻し、現騎士団隊長のモーレア・ミストと共に騎士と魔術師を配置しているとの事、それと大召喚士ミーア・プレリーが異世界の勇者を召喚したと報告がありました」
「ガイル・ディクソン…あの変態オカマ野郎か」
彼はボーマ・カロシー。以前に他国の騎士同士の御前試合でガイルと剣を交えて敗北した経験があり、彼を憎んでいる。
「それで、イスフェシアの奴らで一番気を付けなければいけない人物は誰だと思うかね?」
「私はモーレアだと思います。あの鬼人は一人で千体を相手に素手で勝ったという話があります。危険な人物です」
「俺も同意見だ。それに一度騎士団を抜けたガイルは今の我々の敵ではないし、異世界の勇者とやらも一人で出来ることなどたかが知れている。そもそもその勇者を召喚した大召喚士とやらは10~11歳だったはず、脅威になるとは考えにくいですな」
ボーマは笑いながら言う。この戦いは戦争って程にもならない、我々の圧勝だと。
「では、予定通り明日の13時をもって作戦を開始する。来たるべき我々の未来の為に、諸君らの活躍と健闘を祈っている。解散!!」
皇帝は会議を終わらせて部屋に戻る。騎士隊長達もそれぞれの仕事に戻っていった。