78話 転移者の決戦(前編)
ジンマの前に辿り着くとそこには椅子に座って本を読んでいるレイブンがいた。
「不思議だよな~、俺達は別世界から来たっていうのに何でこの世界の人間が喋っている言葉や文字が分かるようになっているんだと思う?」
「フェリシア曰く、俺達転移者がこの世界に来た時にこの世界の言語を理解できるようにしてくれているらしい」
「へぇー、そーなのかーお前とこの神はいろいろ教えてくれるんだな」
レイブンは読んでいた本を閉じて「よいしょ」と椅子から立ち上がった。そしてこちらに向かって歩いてくる。
「お前とはいろいろあったよなぁ。最初はテレン城やアーザノイルの工場で会った時はただの雑魚だと思ったらベリアでは一杯食わされたし、ガヘナでは最初と比べたら苦戦したけど捕まえてアーザノイル城にぶち込んだら脱獄されて今目の前にいるしで本当に俺達の邪魔ばかりしてきやがるよな」
「それも最後にしてやるよ」
俺は体に魔力を込めて以前飛空艇でブルメと戦った時になった白いコートの姿に変わる。この姿をした時にIMSPから“Sun light Evolution”と文字が表示された事からこの姿を“サンライトフォーム”と呼ぶことにした。(主に俺の心の中で)
「へ~何それイメチェン?……って言いたいが、ルアールが言っていた新しい力か何かだろそれ」
「ああ、これがあればお前が能力を使ったとしても対抗できるぜ」
「そうか、それは楽しみだ」
レイブンはポケットから紫色の水晶玉を取り出して魔力を込めると水晶玉が光り出して周りの景色が歪み始める。先程までウェルフェナーダにいたはずだが、今は俺がいた世界の野球場に立っている。
「面白いだろ?これは博士が開発した次元結界展開装置とか言う物で、起動すると周囲の空間を歪ませ結界を張って空間を固定する事でまるで別の場所に移動したかのように見えるんだ。しかもこの場所なら核弾頭をぶち込まれようが何しようが結界の外に被害や影響はない、つまり周りの目を気にせずに本気で殺れるってわけだ」
レイブンは魔法を唱えると上空に時計の様な魔法陣が展開される。
「お前、ラピスの『監獄夢』を壊したんだってな。世界を壊す程の力あるのにガヘナで殺り合った時は全力を出せなかったんじゃないか?だとするとお互いに手を抜いていたことになるよな?俺が手を抜いてやるのはいいんだけどよ、手を抜かれると苛つくんだよ」
この男、まさか今まで手を抜いて俺達に戦ってきたのか。時を止める能力だけでもかなり厄介なのにまだ何か隠し持っているのか。
「そんなことしたらお前が不利になるだけかもしれないぞ?」
「はっ、そんなことは1mmもねえよ。お前を余裕でぶちのめしてこのふざけた場所をお前の墓場にしてやるよ!」
上空の時計の魔法陣の針が動き出した。するとレイブンは俺の背後に瞬間移動……いや、時を止めて背後に回ってチェーンソーで斬り掛かって来た。
透かさずライフセイバーでチェーンソーを弾いて追撃をするがレイブンには当たらない。こういう時こそ新スキルの『フューチャー・アナライズ』の出番だ。
いくら時間を止めようがその先の未来を見れば対策はできる!
「『エレクトリック・チェイン』」
レイブンが次現れるところにトラップを仕掛けると未来通りにレイブンはその場所に現れた、すると魔法陣浮かび上がって地面から鎖が飛び出しレイブンを拘束すると電流が走る。
俺はその隙に魔法でレイブンに攻撃する。
魔法を喰らいながらもレイブンは鎖を引きちぎり手をかざして俺に『グラビティ・プレッシャー』を放つ。
重力波で動きが鈍くなったところを更に魔法で追撃する。
「『ダークネス・フレア』!」
黒い炎が襲い全身が燃え上がる。だがこちらは攻撃を耐えながらも上級魔法発動の準備をしていた。
―穢れなき聖剣よ、邪悪を振り払え!―
「『シャイニング・ディバインキャリバー』!!」
巨大な聖剣をレイブン向かって飛ばすとレイブンは時を止めてその場から離脱する。だが聖剣が地面に刺さると聖剣は爆発し、爆風に巻き込まれてダメージを受ける。その後、俺は『自動詠唱』を発動し究極呪文の発動準備をする。レイブンの時を止める能力を発動しても倒せて、このふざけた世界を抜け出す為には究極呪文を使うが手っ取り早い。
レイブンの時を止める能力を発動されると基本的に逃げられないし確実に攻撃を喰らってしまうがファンタジー・ワールドから引き継いでいるこの防御力さえあれば、発動するまで死ぬことはない。
奴の攻撃に耐えながら詠唱を続ける。『ダークディザスター・エンド・オブ・ザ・ワールド』は先程ラピスの『監獄夢』で使用したからそれ以外の究極呪文を発動する必要がある。究極呪文は1回発動したら次に同じ呪文を使用できるまで1週間は掛かるからだ。
レイブンはいつもと変わらない戦術で攻撃をしてくる。おそらくだがこの結界が貼られたことで奴もいつもでは使えない能力や魔法を使えると思う。それに真上に浮かんでいる時計の魔法陣が気になる。今時計の針は
11時55分を指している。後5分で魔法が発動すると考えられるがいったいどんな魔法なのかは想像がつかない。
「だが、これを発動すれば関係ない!究極呪文『メテオ・サンストライク』!」
上空に大量の隕石が落ち始める。この『メテオ・サンストライク』は太陽と同じ性質と質量を持った隕石を落とす魔法でその熱はあらゆる生命を焼き尽くせる。
いくら時を止める能力があったとしてもこの数の隕石をかわすことは難しいはずだし、仮に時を止めたとしても隕石が持つ熱で瀕死に持ち込むことができる。
「……待っていたぜ。この“瞬間”を!」
レイブンは人差し指を上に向けると上空にある時計の針が動き時間が12時になる。どうやらリアルタイムで時計の針が進む以外にも方法があるらしい。
「『クロック・ナイトメア』!」
レイブンがその魔法名を叫ぶと時計の魔法陣が光り出し、その眩しさで思わず目を閉じる。しばらくすると光が消え目を開けるが特に何も変わらない、いったい何が起きたというのだろうか?
いや、よく見ると先程発動した『メテオ・サンストライク』が消えている。そして上空にある時計の針は11時を指している。
「まさか、時間が巻き戻ったのか!?」
「ほう、流石に理解したか。ただこの魔法はそれだけじゃないんだよな」
レイブンはチェーンソーに魔力を込めて斬撃を飛ばす。
「『タキオンソニック』!」
『タキオンソニック』を発動させて斬撃をかわす。しかし『タキオンソニック』は発動せずにそのまま斬撃を喰らってしまう。
「ぐわっ!何故だ!?」
「教えてやるよ、『クロック・ナイトメア』は最初に魔法陣を展開してから1時間後に発動し、この魔法を展開した瞬間時に“時を巻き戻す”ことができる。そうすると俺が今まで受けたダメージや毒や麻痺等の異常状態も無かった事になるし消費した魔力も元に戻る。但し相手の体力とか魔力といったステータスはそのまま、そして相手はこの魔法を発動から起動までの間に使用した魔法、能力は全て使えなくなるという俺の必殺技の一つだ」
さらっと言うがとんでもない効果を持った魔法だ。特に最後に言った「相手はこの魔法を発動から起動までの間に使用した魔法、能力は全て使えなくなる」ということは『タキオンソニック』や『フューチャー・アナライズ』が使えない。
「さあ、戦いを続けようか」
この状況はまずい、このまま長期戦に持ち込まれるとまたあの魔法が発動してダメージは蓄積されたままで新しく発動した魔法や能力は使えなくなってしまい勝ち目がなくなる。何か打開策を作らなければ……。




