72話 スタートマーチング
作戦会議の後、俺はエレザという女性と共にウェルフェナーダにいるというおぞましい量の魔物とジンマを迎え撃つ前に、ウェルフェナーダより南に位置するゲルシュタインへ輸送ヘリで向かった。
これから向かうゲルシュタインには、王国軍東部戦線B集団という40万を超える巨大な部隊の前線基地うちの一つが築かれている。
前線基地にはこれからウェルフェナーダを共に攻略へ向かう陸軍第17機械化歩兵師団と空軍第9航空団という部隊が出撃の準備を整え待機しているそうだ。
聞けば、王国軍はゲルシュタインまで帝国軍から対した抵抗を受けることなく破竹の勢いで進軍して、東部戦線が担当しているエリアの2/3の占領が完了しているようだ。
今回ついてきてくれるエレザは元々、コンダート王国の冒険者ギルドマスターと同時に自身が結成した薔薇の騎士団というクランのリーダーとして活躍していた、王国内最強の冒険者だった。
そして現在は両方から抜け、ワタの召喚した銃での戦闘に魅了され、毎日のように王国海兵隊と一緒になって銃での戦闘訓練に励んでいるそうだ。
そんなエレザが付いて来てくれているのは心強い。
そしてレイブンの宣戦布告の次の日、ウェルフェナーダとゲルシュタインの丁度中間地点で魔物の軍勢が進軍しているという情報をもとに、俺とエレザ、同行してくれている王国軍と共にその場所に向けて進んでいた。
俺達が前線基地に着いてから一日遅れて出発したのは、ワタの命令通り魔物がいるとされるウェルフェナーダ周辺へ空爆とミサイル攻撃を行っていたからだ。
それでもまだ推定30万以上の魔物が残っているであろうとされている。
進んでいる途中、偵察なのか単にはぐれたのか、時折魔物の群れに遭遇し、その度に戦闘が行われていた。
「こちらEID17B1、座標E27IO2321、距離4000、対地目標」
『ホークアイ7、了解』
帯同していた空軍兵が無線機で上空に待機している管制機と連絡を取ると、厚い雲を突き抜けF-15という王国軍の戦闘機がその空軍兵から得た情報をもとに目標目掛けてミサイルを発射した。
「命中!目標の撃破を確認」
『了解』
発射したミサイルは魔物に見事に命中し悲鳴をあげる前に爆散していった。
この戦闘機が発射したAGM-84J SLAMという空対地ミサイルの威力は魔物を跡形も無くなる程である。
「こちらEID17B1、目標地点へ進軍を再開する」
『了解』
ほんの一部とはいえ、これがコンダート国王であるワタが使う俺達がいた世界にあった現代兵器の力。一度でも殲滅戦が始まれば目標達成するまで止まることはない。
「敵視認!11時方向、距離700、数およそ300!まっすぐこちらに突っ込んでくる」
「チッ!次から次へと」
群れでこちらに向かってきているのは、ボーンビーという全長160cmの羽と尻尾の針が蜂で頭と胴体が骨で出来たモンスターだ。
エレザは倒しても新たに湧いて出る魔物に少々苛立ちながらも、素早く愛銃のHK416を構え魔物を仕留めてゆく。
それに続くように第17機械化歩兵師団のM2ブラッドレイ歩兵戦闘車(装甲車)が、搭載している機関砲の射撃を開始する。
「確実に仕留めろ、各車射撃開始!!」
師団長が合図を出すと一斉に機関砲弾がボーンビーの群れに直撃し、皮肉なことに“蜂の巣”にされていった。
流石は現代兵器といったところか、戦車とは火力とは違うがそれでもこの装甲車が持つ火力はすさまじい。
次々と倒れていく中、生き残った数十体のボーンビーは尻尾の針を前に突き出しながら、決死の覚悟で突撃してくる。
「各車撃ち方止め!第一、二小隊、下車戦闘用意!前へ!」
師団長はボーンビーの数が減った事によりオーバーキル気味の射撃を停止させ、さらにかなり肉薄してきているボーンビー対しては、装甲車に乗っている歩兵を降車させ生き残ったボーンビーに再び銃撃を加えるよう命令を下す。
「下車戦闘開始!第一小隊は9時方向の敵を、第二小隊は2時方向の敵を攻撃せよ」
装甲車の後方から一斉に飛び出した歩兵達は指示された敵に向けHK416を射撃しながら近寄らせないようにそれぞれの指示目標目掛けて突っ込んでいく。
「よっしゃ、私も!」
「え?ちょっと!」
歩兵達が突っ込んでいくところを見たエレザは喜々とした顔で、今度は背中に差していた剣を引き抜き突っ込んでいってしまった。
その自由奔放なエレザの様子に、俺は驚きを隠せずにいる。
対して降りて来た歩兵たちが撃つ無数の弾を何とも思わずにまっすぐ突っ込んでくるボーンビー。
そして最後の一体が歩兵へ襲い掛かる瞬間、俺は『タキオンソニック』を発動させて即座にボーンビーを切り刻んだ。
「これで……、終わりか?」
いまさらだが、これまで百を超える魔物と相対したとき何千の兵がまとめて掛かっても30分くらいはかかっていたが、王国軍はそれをものの数分で成し遂げてしまうことに俺は拍子抜けしていた。
「そのようだな、全く出てくるならもっと大量に出てきて欲しいものだな」
そんな俺に対して、歴戦の彼女にとってはこれほどの敵の数では物足りないようで、不満のようなものが漏れ出ていた。




