66話 青剣姫と復讐の力
飛空艇の甲板にて、青髪の女性は剣を構えて近づいてくる。
「よくここまで来れたわね。どうやって来たか教えていただいても?」
「ジャンプしてここまで来ました」
「なんですって?」
俺が素直にここへ来た方法を答えると、青髪の女性は一瞬啞然とするが、直ぐに元の冷静な顔に戻る。
「……まぁいいわ。私はエルクベレ・ブルメといいます。あなたは?」
「オゼットと申します。所属はないですが“イスフェシアの勇者”って呼ばれています」
「勇者?」
これも正直に言ったらブルメと名乗る女性は何を言っているんだこの人と可哀想な人を見る目をする。
どうやら帝国の一部の人にはイスフェシアの勇者を名乗っても通じない時があるらしい。これはこれで悲しくなってくるなぁ。
「ま、まぁここまで来たことは褒めてあげるわ。でもこれ以上先には進めさせないわよ」
ブルメは俺に一気に近づいて剣を振る。剣を受け止めると『紫電の太刀』の効果で電流がブルメに流れるがブルメは耐えながら剣を振り切って俺は態勢が崩れてしまう。
すかさずブルメは剣で突こうとするが『タキオンソニック』でかわして背後を取る。
「何!?」
「終わりだ」
ブルメに剣を振ると横から矢が飛んできてその矢を斬ると爆発する。矢を放ったオレンジ髪の女性は物陰から出て来た。
「あちゃ~、今ので仕留めたと思ったんだけどなー」
「お前は……」
「やあイスフェシアの勇者、元気してた?」
物陰から現れたのは前回イスフェシア城で起きていた殺人事件を解決するために一時的に協力していたが実は帝国の軍人でレイブンの仲間でもあるルアール・アリルだった。
「この戦争はお前達の仕業か?」
「そうだよー。普通だとコンダート王国の奴らに勝つことができないから、あたしが協力したって訳。大変だったのよー、砲弾一つ一つにあたしの能力で爆弾に変えるのは……」
なるほど、道理で戦車に鉄球が落ちて爆発したのはこいつの能力の所為だったのか、ガイルの話だとこの人は触れた物に魔力を注ぐことでその物を爆弾に変えられる能力者らしい。
「しかもあなたが生きているって知ったから中佐に報告しなきゃならないね、もーあたしの仕事を増やさないでよー」
「話は終わりましたか?では参ります」
ブルメは再び剣で攻撃を仕掛けてきて応戦している間にルアールが矢を放ってくる。『タキオンソニック』で回避して一気に叩こうと電流を帯びた剣でブルメに攻撃するとブルメは見切って剣を避ける。
「馬鹿な!?」
「さっきので見切りました。確かにあなたは速く動けるみたいだけど、剣術が素人だわ」
ブルメの一閃を腹に喰らってしまう。音速を超える『タキオンソニック』を常人相手に見抜かれるとは……。
すかさず『ヒールリカバリー』で回復しようとするとその隙にブルメが斬撃でさらに傷が付く。
わかってはいたけど、モーレアやガイルみたいに剣術を極めた人や武術の達人とかが相手で『タキオンソニック』を見破れてしまうと後は遠距離による魔法戦か接近戦の実力勝負になる。そして接近戦に持ち込まれてしまうとまず勝ち目が無くなってしまうのである。
一応、イスフェシア皇国にいた時はモーレアにIMSPを使わないで剣の鍛錬とか武術の特訓とかして少しは強くはなったとは思うけど……目の前の人は間違いなく剣の達人だ。距離を取って魔法で攻撃を仕掛けようにも詠唱が間に合わないし、仮に魔法を発動しても避けられて近づいてくるので結局は接近戦になってしまう。
「流石ブルメちゃん、博士のマジックパウダーを注入しても自我を保つ程だもんね。これだとどっちが化物かわかんないや」
ルアールは矢で援護射撃をしながら少しずつ俺の行動範囲を狭めていく。そしてブルメの斬撃が四方八方に襲い掛かって避けれない。
「ぐっ!」
「これがあなたの実力ですか?イスフェシアの勇者とは名ばかりなのですね」
「な、なめるな!!」
『タキオンソニック』は音速から最大で光速までの速さで行動できる……そう俺の『タキオンソニック』の速さはこんなものではない!
スピードを上げていきブルメに斬撃を加え続ける、次第にブルメは防御が間に合わなくなっていく。目では捉える事は出来るみたいだが体が動きについて行けなくなったのである。
今までの『タキオンソニック』にはソニックブーム(衝撃波)の発生させない『ソニックバリア』を展開していたがスピードを上げ続けたことによってバリアが耐え切れなくなり、壊れてソニックブームが発生する。
飛空艇の装甲がギシギシと音をあげている。近くにいたルアールは壁まで吹き飛ばされ押し付けられた状態になってしまう。このままだと飛空艇が木っ端微塵になると思い直ぐに『ソニックバリア』を展開し直す。
そしてブルメが無数の斬撃を喰らい続けてついに膝をつく。
「こんな素人に、私が負ける?」
「剣術は素人だけど、俺はここで負ける訳にはいかない」
「私だってこんな所で、ジークフリートの仇をとるまでは……終われないのよ!!」
ブルメは首に付けていたペンダントを両手で握りしめ、その後ポケットからある物を取り出す。色は黒色で違うがそれは俺がとても身に覚えのある端末だった。
「馬鹿な!それは!!」
「本当はこの戦いに勝利した後、コンダート王国に向かって国王を殺すときに使うはずだったのだけれど……あなたでこの力を試させてもらうわ」
彼女は黒いIMSPの電源ボタンを押す。すると画面は赤く光り、「ReverseEvolution」の文字が表示される。
彼女の髪色と目の色は赤く、青いドレスは漆黒に染まり“魔王”と呼ぶに相応しい姿になった。




