64話 動き出す転移者達
挨拶を終えて、本題に入る。
ワタ、メリア、レナに事の顛末を話す。正直、コンダート王国にはいろいろ驚かされたがワタもデスニア帝国にもう一人元の世界から転移者がいると聞いて驚く。更にその男には時を止める事が出来る事を話すと深刻な顔する。
「“時を止める”か……何か対策はできないか?」
「戦ってみて思いましたが時を止められたら何もできないです。唯一通用した攻撃方法と言えば、油断した瞬間に地雷魔法を発動させたり、奴を掴んで一緒に上級魔法を喰らった時ぐらいです」
「では、遠距離からの暗殺でどうだろう。例えばスナイパーライフルで狙撃とか」
「わかりませんが、奴は相手が攻撃した瞬間に自動的に時を止めて相手の位置を特定する『タイム・カウンター』っていう技があるらしいので暗殺は難しいと思います」
考えれば考える程レイブンに勝つ為の攻略方法が思い浮かばない。仮に奴の頭上に核爆弾を投下しても時を止めて『フィールド・テレポーテーション』などの転移魔法で逃げられてしまえば元も子もない。
「厄介な奴だ。近日中に行われる作戦に支障がでなければいいんだが……」
コンダート王国は近日中に帝国東部に侵攻し領地を占領する計画があるらしく、その部隊の手助けをして欲しいとのことだ。この計画が成功すればイスフェシア皇国まで作戦区域を伸ばすことができ、皇国奪還への近道になるはずだとワタは言う。
「協力してくれるか?」
「わかりました。イスフェシアの勇者の実力を篤とご覧になってください」
俺は手を差し伸べるとワタはそれに応じて握手をする。
一方、ディシアにある919小隊の事務所にて、ラピスはレイブンに報告書を提出する。その内容はコンダート王国の軍が帝国の東部に進軍している情報が入ったこのことだ。
「東部を管轄していた陸軍のエレクサンドラ・ガンテ大将は、王国東部にあるウルス城攻略時に王国軍の攻撃によって戦死しています。今は代理としてガンテ大将の従弟が指揮官として配属されているので、統率は取れていますが、攻略時に東部地域から多くの兵を動員してしまったので、今の兵力では帝国東部は簡単にコンダート王国に占領されてしまいます」
「ほう……、陛下は何と仰っていた?」
「“いつも通りに”と申しております」
「なるほど。ではブルメ中将だったか……奴は元帝国海軍第一艦隊の艦隊司令だったらしいな。奴を使おう」
レイブンの発言にラピスは不思議な顔をする。エルクベレ・ブルメという人物はエンペリア王国と国境を接する帝国エルクベレ公領で生まれ、幼いころから軍の幹部でもある両親の影響もあって武芸に打ち込みそのままの勢いで軍の士官学校に入った。
卒業後は領土の大半が海に面しているので船とかかわることが多くあったので海軍に仕官し、元々の才能もあって順調に階級も上げて行き帝国海軍第一艦隊の艦隊司令の座に付いていた。
彼女は別名“青剣姫”と呼ばれる士官学校一の剣術に長けていて実力だけならジャックと同等かそれ以上との噂だ。そして彼女が指揮していた帝国海軍第一艦隊はコンダート王国によって壊滅させられ、婚約者であるオイレンベルガ・ジークフリートの命を奪われたらしい。
「んで、陛下の命令で様子を見てこいと言われ向かったら、仲間達に裏切られて殺されそうなっていたから俺が助けたって訳だ」
「しかし、彼女は陸軍の指揮なんて出来ないと思いますが……」
「なに……相応しい場はこちらで設ければ良い。奴の復讐を手伝ってやろうじゃないか」
レイブンは連絡石を使ってゼルンに協力を求める。それを聞いたゼルンは「面白いネ!良い実験になりそうだ」と言って早速、準備に取り掛かった。
一方、オゼットはレナ大佐と共に帝国東部に向かう為、車で拠点地へと向かう。ワタとメリアと真理はイスフェシア皇国奪還の作戦を練る為にコンダート王国に残った。
この車を運転しているレナ大佐は元々ワタやオゼットと真理と同じ世界からこの世界に“転生”してきたと言う。正直、この世界では転移者はいるけど転生者はいないだろうと思っていたから驚いている。
「間もなく、拠点地に到着します」
今回進軍するゲルシュタイン、テュルタ、ローレライという区域は帝国が占領していたのだが、コンダート王国軍が侵攻してきた。
しかし、その区域の防衛軍が抵抗してこの区域を死守しているらしい。
今回の作戦はその防衛軍の殲滅をして欲しいとのことだ。そうすることで完全にこの区域を我が物しようと考えているらしい。
車を降りると一人の兵士がレナに近づいて敬礼する。
「お待ちしておりました。大佐殿!」
「戦況はどうなっているの?」
「はっ! 敵はこの霧の奥にいるようで特に動きはなく、こちらの様子を見ているみたいです」
「部隊の準備は?」
「いつでも行けます!」
レナは彼女が指揮する混成戦車連隊という部隊(計240両の戦車と12機の戦闘ヘリ、歩兵戦闘車32両、歩兵2640名)を前進するよう命令する。
ある程度前進すると敵の姿を発見、レナは任意の発砲を許可すると戦闘ヘリは機関銃で敵の部隊を殲滅し始める。とても一方的でこれ俺の出番ないんじゃね?と思い始めた。
敵の悲鳴が戦場に響き、それをかき消すように戦車の砲台と戦闘ヘリの機関銃の弾幕が敵に降り注ぐ。これがコンダート王国の力なのか。
「敵、後退していきます」
「第二部隊、第三部隊は左へ周りこんで敵を挟み撃ちにして!」
「了解」
戦車と戦闘ヘリの一部は先に走って行く、このまま続ければ敵の全滅は直ぐに出来るだろう。
レナは俺の方を見て「いかがでしょうか?これが我が国の力です」と言ってきたので、とりあえず俺は苦笑いをした。
数時間後、帝国軍の敵は全て死体となり戦争というレベルにもならずに一方的に終わった。
拠点の確保も完了し、後はコンダート王国に連絡すれば帰還して王国のベッドで寝ることができる。俺は特に何もしていないがな。
レナはホットココアを飲んで兵士達に戦車の損傷や死傷者の確認を指示する。数十分したら指示された兵士が戻ってきて死傷者なし、戦車の損傷も見られないと報告を受ける。まさに完全勝利という訳だ。
「では、あなた達はこの拠点の防衛を任せる」
「イエスマム!」
兵士に指示を出した後、レナは王国に帰還しましょうと車に戻ろうと向かう。
「結局、俺のいる意味なかったですね……」
「本当はあなたの実力を見たかったのもありますが、あの程度の戦力でしたら私達だけで充分でしたね、オゼットさんには我々の実力を見ていただければ、イスフェシア皇国の奪還も夢じゃないと確信できたでしょう」
「いや~本当に凄いですね。これだと例えこの大陸全ての国を敵に回しても敵にすらならないですね」
笑いながらいざ車を走らせようとした時に怪しげな雲が空を覆い始める。今日はこの後雨が降るのか、そうなる前に帰りましょうかとレナは言うが、あの雲は雨雲じゃない。そう思ってIMSPを起動しスキル『魔力探知』を発動するとあの雲は魔力の塊で出来ている事がわかった。
その後、どこからか霧が発生して周りが見えづらくなってきた。そして近くでズドンッと大きな音がなり数秒後、何処からか爆発音が聞こえた。
俺とレナは急いで車を降りて兵士に状況を確認する。
「どうした!何があったの!?」
「敵襲です!!戦車1台大破しました」
「なんですって!?」
その大破した戦車に近づくと戦車の前部分は何かに当たったような凹みがあり、全体火だるまになっている。凹みを見る限りまるで大きい鉄球に当たったみたいだ。
コンダート王国の戦車の装甲は海賊船の砲弾が当たっても凹みはするが爆発して大破することはないぐらいの頑丈さらしいが、そもそも帝国の兵士は全滅していたはずだし、この霧の中で戦車に命中させることなんて至難の業だ。
「いったい何処から攻撃されたのだ!?」
「不明です。レーダーが使用不可能です。無線も使えないことから、何かしらの電子妨害攻撃を受けているかと」
試しに無線機で他の部隊に連絡を試みるが兵士の言う通り繋がらない。しかし帝国がそんな最新技術を持っているはずはない。
「おそらくこの霧は通信阻害の効果があるみたいですね」
魔力探知を続けると大きな雲以外にも空から“何か”を検知する。霧の中から雄叫びが聞こえ、近づくと戦車の1台が竜騎士兵に襲われていた。竜騎士は戦車に鉄球を真上に落とすとその魔石が着弾した瞬間に爆発する。
レナはすかさず竜騎士兵をアサルトライフルで撃ち落とす。一人の竜騎士兵がレナの後ろに回って槍で刺そうとしている。
「くっ!」
「『タキオンソニック』!」
竜騎士兵の槍をライフセイバーで断ち切り、竜の首を落とし竜騎士兵に電撃魔法で感電させ気絶させる。
「大丈夫ですか」
「あ、ありがとうございます。助かりました」
どうやらこの戦争はまだ終わっていなかったらしい。
さっきの竜騎士兵を見る限り、敵は何故かこの霧の中でこちらの位置がわかっているようだ。
……さて、どうやってこの状況を乗り切りましょうかね。




