63話 酒は飲んでも飲まれるな
新幹線から降りると近くには駅員と兵士達が待っている。
「ようこそイスフェシアの勇者様。お越しいただきありがとうございます。私はこの国の駅長のアネッサと申します」
「初めまして、オゼットです。よろしくお願いします」
「それではご案内いたします」
アネッサについて行くと駅の外に出る。あたりの景色を見渡すと遠くでも大きな城が見える、あれがこの国のシンボルとも言えるアルダート城か。
外には黒いキャデラックが止まっている、どうやらこの車でアルダート城に向かうらしい。アネッサはドアを開けて乗車させようとしたところで俺は待ってほしいと言う。3人が首を傾げると後から2の女性がこっちにやって来た。それを見た兵士達は銃を構える。
「そこで止まれ!貴様ら何者だ!」
「ちょっ!?撃たないで!」
「待ってください!彼女は私と同じ世界から来た転移者です。そしてイスフェシア皇国の女皇でもあった人です」
俺の話を聞いた兵士達は銃を降ろし「失礼しました!」と真理に敬礼をする。
「とりあえずお疲れ様、お互いにここまでたどり着いたみたいだな」
「そうね」
「ちなみにそちらの女性は?」
俺は真理の横にいる女性を見るとその女性は会釈して自己紹介をする。
彼女、アステラはこの国に移住する目的で真理と一緒に住んでいた村からやって来たという。それを聞いたヴィアラは不動産屋の場所を教えるとアステラは感謝の言葉を述べてお辞儀をする。
「真理さん、いろいろとありがとうございました」
「私の方こそありがとうございます。アステラさんのおかげでここまで来ることが出来ました」
「もし良かったら新しい私の家に来てくださいね。真理さんならいつでも歓迎します」
「ええ、全てが終わったら遊びに行きますね」
アステラは皆に挨拶をするとヴィアラから教えてもらった不動産屋へと向かう。
そして俺と真理はキャデラックに乗るとアルダート城へと走り出した。
数時間後、車から降りるとイスフェシア城と同じぐらい大きな城の前に到着する。
ヴィアラとカレンは城門を城内の迎賓館の寝室へと案内される。
「あれ?国王と面会は?」
「王はお二人が長旅でお疲れと思いましたので、本日こちらでごゆっくりお寛ぎください」
「それでは失礼します」
二人は部屋から出ると俺と真理はポカンとしてしまう。てっきり直ぐに国王と会えるものだと思っていたのでこれは予想外である。しかも辺りを見るとこの世界では存在しないはずの日本酒が置いてあり、ベッドはダブルサイズになっている。
「まぁ確かに真理がコンダート王国に来るって知らないからベッドは一つしかないよな」
「さて、これからどうする?」
「そうだな、情報共有はさっきフェリシア空間で話したからとりあえず明日までゆっくりするか。俺はそこのソファーで寝るからベッドは真理が使ってくれ」
俺はソファーで寛ぐと真理はワインセラーをジッとみて中からワインを取り出し、テーブルに置く。
「そういえば、私達って二十歳になってから一緒にお酒を飲んだこと無かったわよね?」
「そうだな」
「翼ってお酒強いの?」
「まぁ、ある程度なら飲めるかな。真理こそ普段は甘い物しか食べないからお酒飲めないんじゃないの?」
真理は俺の言葉を聞いてカチンときたのかワインをグラスに注いで一気に飲んでその後ドヤ顔をする。俺は真理に拍手して彼女が持っているグラスにワインを注ぐ。それに続けてもう一つのグラスにワインを注いで飲んでみると何と説明したらよいか、ぶどうの果実感とまろやかな味がしてとても飲みやすい。
真理はこのワインが気に入ったのかグラスに注いでは飲んでを繰り返してあっという間にボトルに入っていたワインを飲み干してしまう。彼女の顔色は普段よりも赤くなってきた。
「おい真理、大丈夫か?その辺にしてもう休んだ方がいいと思うぞ」
「大丈夫~大丈夫~まだまだ飲めるんだから~」
「ま、真理さん?」
ああ、これは完全に酔っていますわ。早くベッドで休ませてあげようと真理にワイングラスを取り上げると真理はぷくーと頬を膨らませる。
「何するのよ~!」
「明日は忙しくなるし今日はもう寝よう」
「じゃあ~ベッドまで連れていって~」
俺は真理を抱えてベッドまで運んで寝かせる。真理から離れようとすると彼女は俺の手を強く引っ張って俺はベッドに倒れこんでしまう。真理はそのまま抱きついてくる。
「ちょっと真理さん、俺はソファーで寝るから放してくれません?」
「いいじゃな~い、小さい頃よく二人でお風呂は入ったり一緒に寝ていたんにゃから今更恥ずかしがることなんてにゃいよ」
真理はギュッと強く抱きしめる。彼女の柔らかい胸が体にあたって胸元の服もはだけている……この状況はやばい、早く抜け出さないと理性が持たない。
ふと頭から二つの声が囁いてくる。よく漫画やアニメとかで見たことがある天使と悪魔の囁きだ。
悪魔俺「今なら真理を好き放題出来るぜ!どうせ酔っているんだからバレやしないさ」
天使俺「ダメだよ悪魔の俺。そんなことをしちゃいけないよ」
悪魔俺「何言ってんだよ、本能に従って獣化しちまえば快楽が待っているんだぜ」
天使俺「でも本当いいの?もしそんなことしたら…………後で真理にこの世とあの世では生温い、閻魔もびっくりな拷問を発明して実施し兼ねないと思うけど」
悪魔俺&俺「「!!!」」
よし、この状況から脱出しよう!
俺は真理を起こさないようにそっとベッドから抜け出してソファーで寝るのであった。
翌日、真理は何事もなかったかのように起きて昨日は酔っていた所為でシャワーを浴び忘れてしまったのでシャワー室に入ってお風呂に入る。
俺は二日酔い気味だったので水を飲んでゆっくりしているとコンッコンッとドアからノックが聞こえたので開けるとメイドが挨拶に来た。
「おはようございます。昨日はごゆっくり出来ましたか?」
「おはようございます。ええ、久しぶりにぐっすり寝ることが出来ましたよ」
「それはようございました。朝食の準備が整いましたので、食堂へとご案内致します」
「待ってください。もう一人が今風呂に入っていますのでその後でもよろしいでしょうか?」
「かしこまりました。では準備が整いましたらお声掛けください」
メイドは部屋の外で待機している。丁度良いタイミングで真理がシャワー室から出てきたので事情を話すと彼女は直ぐに準備をしてメイドと一緒に食堂へと向かう。
数時間後、食事を済ませた俺達はメイドと共に王の執務室へと案内される。
この部屋まで案内されている途中、周りには帝国に対して圧倒的軍事優勢を有しているにもかかわらず、警戒を怠らないように常に廊下や重要幹部などの部屋の前にはアサルトライフルを持った完全武装状態の警備隊が立っていた。
メイドは執務室のドアをノックし部屋に入る。
「失礼します陛下、イスフェシアの勇者及びその関係者をお連れ致しました」
「ご苦労様、下がっていいよ」
「はい、失礼します」
俺達の目の前には一人の女性と獣人の女性、そして中央には俺達と同じ日本人が座っている。
「初めまして、レナです」
「わたくしはこの国の女王、コンダート・メリアよ」
「そして俺がこの国の王で君達と同じ世界から来たワタだ」
「皆様初めまして、柊真理です。イスフェシア皇国ではマリー・イスフェシア女皇の代理として国の全てを取り仕切っていました」
「俺は尾崎翼。この世界では“オゼット”と呼ばれているので、そう呼んでいただけると幸いです」
簡単な挨拶を済ませると3人は俺達を歓迎するようにこう言った。
「「「ようこそわがコンダート王国へ!!」」」
次回から毎週金曜日4時に投稿させていただきます。




