62話 アルダート城を目指せ!
真理はアステラと馬車で南に進み続け、ガレアにたどり着いた。
馬車を門前に置き、町に入るとアステラはまるで別世界に来たかのように驚く顔をする。それもそのはずでアステラがいた村とは明らかに違う建物がレンガで出来ていて街灯もある。
「凄いですね!コンダート王国は」
「そうね~イスフェシア皇国と同じくらい発展しているわね」
辺りを見渡すとベリアと何処か似ている為か懐かしく感じる。もしコンダート王国と同盟関係を結んでデスニア帝国からイスフェシア皇国を取り戻したら皆でコンダート王国に旅行に行くのもいいわね。
「あの鉄の馬車?もイスフェシア皇国にあるのですか」
「どれどれ……って噓ぉ!?」
アステラが指をさした方向を見ると思わず目を疑った。
そこには元の世界にいた“駅”と“電車”、“新幹線車両”があるのだ。しかも駅員の服装も元の世界と何も変わらないのである。
「流石にあれはイスフェシア皇国にないわね……」
「凄いですね!コンダート王国は!あの馬車は見たこともないです。是非乗ってみたいですね!!」
「あはは……そうね」
確かにコンダート王国の国王は私達と同じ世界から来た転移者だとフェリシアから聞いていたけど、まさか自分の国をここまで発展させるなんていったい何者なのだろう?
駅に近づくと元居た世界で見慣れた自動券売機があり、駅の電光掲示板にはちゃんとコンダート王国の首都であるアルダート行の新幹線が出ていることが表示されている。
一応、イスフェシア皇国の女皇として活動していた時にアーガイル大陸に流通する全国のお金は持っているので乗る事が出来るはずだ。
幻想の宝玉を発動し魔法『アイテム・ポケット』で空間からお金を取り出し、そのお金で二人分の硬券を買い改札機を通過する。
ガレア駅は2層に分かれており、上が新幹線ホーム、下が在来線ホームになっている。
改札内に入りエスカレーターで二階に上がると、そこには久々に見た”新幹線”が丁度入ってくるところだった。その新幹線の行先が書いてある場所には「アルダート」と書かれていた。
これを見ているだけで元の世界に戻って来たのではないかという錯覚に襲われる。
一先ず、この新幹線に二人は乗りこむ。アステラにとっては何もかもが新鮮で見たこともない光景なので興奮を隠せずにいる。
そして発車時刻になると何処かで聞いたことがあるメロディーが流れてドアが閉まり、最初はゆっくりと走り次第に加速していく。アステラは思わず席を立って叫びだす。
「凄いですね!馬車とは比べ物にならない速さで動いていますよ!!いったいどんな魔法を使っているのでしょう?」
「たぶん、魔法は一切使っていないと思うわよ」
「えっ、魔法を使わないでこんなに速く動けるのですか!?コンダート王国は未来に生きていますね!!」
「アステラさん、落ち着いて」
周りの人達の視線が自分達に向いている事に気付いてアステラは我に返って席に座り顔を隠す。
私はしばらく窓から見える光景を見ながら眠りに付くのであった。
一方、オゼットはコンダート王国の南にあるベルン港に到着する。いずもを降りると二人の軍人が待っていた。
その二人が軍人とわかったのは、元居た世界で軍人等が来ていた礼服を着用していた事と、腰にはサーベルと拳銃を携行していたからだ。
さらにその後ろには二人を警備する為の兵士達が完全武装で待機していた。
「初めましてイスフェシアの勇者さん。私はガンダルシア・ヴィアラです。こちらはカレン。あなたをアルダート城までご案内致します」
このガンダルシア・ヴィアラという女性は、コンダート王国の海軍大臣というかなりのお偉いさんなのだそうだ。
そういった立場の人が直々にお出迎えとは頭が上がらない。
「カレンです。よろしくお願いします」
「初めまして、オゼットです」
お互い挨拶を終えると早速ある場所に連れて行かれる。
そこは元の世界でいう駅と新幹線車両があった。普通なら驚くがこれまでの出雲国の艦や俺を助けてくれた全身黒ずくめの人達が持っていた銃等を見てしまった所為かもう何が来ても驚くことはないと思う。
「この新幹線を見て驚かないとは……流石はイスフェシアの勇者と呼ばれる男だけありますね」
「ええ……まぁね」
ヴィアラとカレンと一緒にベルン駅から新幹線に乗りアルダートまで向かう。予定では7時間掛かるそうだ。
ここまで長旅をして来た所為か睡魔が襲ってくる。
「すみません、少し休んでもいいでしょうか?死ぬほど疲れてるもんで」
「わかりました。ではアルダート駅に到着しましたらお声掛け致しますので、それまでごゆっくりとお過ごしください」
「ありがとうございます」
ヴィアラのお言葉に甘えてオゼットはそのまま眠りにつく。
気が付くと覚えがある空間にいた。この空間に名称がなくて呼びにくかったからこれからは“フェリシア空間”と呼ぶことにしよう。
いつものようにテーブルと椅子があるがいつもとは違ってフェリシアともう一人座っている人物がいる、それは真理だった。
「真理!!」
「えっ、翼!?無事だったのね!」
「ああ、何とかな。まさかこんな所で会うことになるとはな」
「“こんな所”で悪かったですね」
フェリシアは紅茶を飲んで一息つく。
「フェリシアさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです真理様、私がお渡ししたペンダントを上手く使いこなしているようですね」
「ええ、しかしあの幻覚は人を殺めてしまうかもしれませんのでもっと力を使いこなす必要があります」
「ところでフェリシアさん。何故今になって俺達にコンタクトを取ったんです?出来ればもっと早く話がしたかったのですが……」
「それはあなたがIMSPを帝国に取り上げられたからですね。翼様のIMSPと真理様の幻想の宝玉、これを所持している状態でなければ私が二人をこの空間にお呼びすることができません。仮に何者かに奪われたとしても強く念じれば手元に戻ってきますので以降、ご認識ください」
なるほど、だから帝国の船で死にかけた時に手元に現れたのか。正直もっと早く言って欲しかったとツッコミを入れたいがそれよりも聞きたい事は山ほどある。
「真理、イスフェシア皇国はどうなっている?皆は無事なのか?」
「それについては私が話します」
フェリシアは翼がガヘナに行った後の事を話し、現状のイスフェシア皇国について語る。
イスフェシア皇国は洗脳されたマリー・イスフェシアに寄ってデスニア帝国と同盟関係を結ぶ。そしてテレン聖教皇国の皇帝であるハーゲン・テレンも後に洗脳されてこの3つの国は他の国に和平という名の支配活動をしている。
イスフェシアの仲間に関してはモーレア、ウインチェルがイスフェシア城の牢獄に捕まっており、アルメリアは帝国側へと移りミーアとラルマはラーシャの監視下で制限はあるものの普段と変わりない生活をしているそうだ。
「早く皆を助けなくては!」
「慌てる必要はまだありません。あなた達はこれからアルダート城に向かい国王と協力してイスフェシア皇国の奪還を実施してください」
「でもフェリシアさん、どうやって奪還すればいいのですか?帝国にはあの巨大なゴーレムがいるし、マリーさんやハーゲン皇帝が洗脳されているのでは奪還は難しいですよね。」
「しかもモーレアやウインチェルが捕まっている以上、人質として利用される可能性はあるしマリーさんも人質にされたら下手に動けないよな」
二人が何か方法がないかを考える中、フェリシアが答える。
「それについては二人の力を上手く使えば解決できます。まず巨大なゴーレム……ジンマに関しては翼様が持つ『オメガ・アイギス』でジンマを倒してください。洗脳された二人に関しては脳に特殊な魔法で洗脳されていますので真理様の幻想の宝玉の力で魔法を無力化すれば正気に戻ります」
確かにジンマに関しては『オメガ・アイギス』に触れて手が光粒子に変換したのを確認できたから倒すことは可能だと思う。しかし『オメガ・アイギス』は3分しか維持ができないのでレイブンによる妨害を防ぐ方法を考えなければならない。
「しかしフェリシアさんよ、いつぞやは給料が減るからこの世界の介入はしないって言っていたが今回は助けてくれるんですね」
「少し事情が変わりまして……この世界は私が管轄しているのですが、何処かの神がこの世界に介入し歴史を歪めようとしていることが分かり、その神を特定し処罰せよと上司に言われましてね……ですからこれからは私も可能性な範囲で二人を助けさせていただきます」
給料の話があったから薄々思ってはいたが、まさかの女神の口から上司という言葉が出てくるとは……。とはいえ女神自らの支援があるのは心強い。
「では改めてよろしくお願いします」
「はい。二人には私のボーナ……いえ、この世界を守ってほしいですので女神として当然のことをするまでです。それでは二人共、お目覚めください。アルダート城まで後少しで到着しますよ」
フェリシアは扉を出現させて二人を誘導させる。さりげなくボソッと何か言った気がしたが聞こえなかったことにしよう。真理とはアルダート城で合流する事にして俺は扉の先に進むことにした。




