61話 出雲国の海軍
ガレオン船の船員達としばらく牢屋で大人しくしていると出雲国の軍人に連れられて外に出る。
先程までは海しか見えなかったが今は木造の建物や遠くに元の世界でいう日本の城らしき建物が見える。まるで江戸時代にタイムスリップしたみたいだ。
まぁ、先程の船や周りにいる軍人の服装を見ると違和感を感じますがね。
「へぇ~、イスフェシアやテレンとは違う和を感じる国ですね」
「ここは出雲国の縦須賀っていう町で米の上に鰻をのせた鰻重っていう料理が美味しいぞ」
「ポーラ船長はここに来たことがあるんですか?」
「おうよ、任務で武器の運送をしていたのだが、せっかく外国に来たんだから何か美味いもんが食いたいと思って適当な店に寄って食べたんだ」
「静かにしろ!お前らは観光客じゃなくて捕虜だって事を忘れるな」
「へいへい」
出雲国の軍人に護送車に乗せられてしばらく走行すると海軍基地に到着する。
ところ変って縦須賀海軍基地司令部
伝令兵が司令執務室に入って来た。
その伝令兵は帝国軍人の捕虜に成功し収容所に入れた事を報告する為だ。
報告する相手は部屋の机でのんびりと緑茶を飲んでいる彼、秋山忠孝海軍中将である。
彼はこの縦須賀海軍基地司令と、最近コンダート王国海軍の援助によって発足したこの基地を母港とする第一艦隊の司令も務めている。
「失礼します!」
「ご苦労様です。拿捕した帝国の船の乗組員から何か情報を聞き出せましたか?」
「はっ!どうやら拿捕した船はある人物を送り届ける為にコンダート王国に向かう最中だったとのことです。」
「本当ですか?」
普通に考えたら帝国船が単艦で王国に挑めばそのまま迎撃されて捕虜にされるか無駄死になるとわかるはず、偵察にしてもお粗末過ぎる行動だ。リスクが高いのにその様な行動をするのは何の意味があるのか?
「興味深いですね。その人物をこの部屋に連れて来てくれますか?」
「はっ!!」
出雲国の軍人は部屋を出て捕虜がいる収容所へと向かう。
数時間後、司令執務室に2人の捕虜が連れて来られた。2人は手錠を掛けられて後ろには5人の出雲国軍人に銃を向けられている。
「初めまして、あなた方の名前と所属を教えてください」
「俺はポーラ・デュオス、ガレオン船の船長だ」
「オゼットです。所属は特にないです。強いて言えばイスフェシアの勇者と呼ばれていました」
秋山はオゼットの言葉を聞いて耳を疑う。コンダート王国の情報員からイスフェシア皇国の情報を聞いたことがあるが、その中でイスフェシアの勇者という人物はテレンの騎士団約6万人を一人で制圧したという化物だと聞いていた。まさかその人物が目の前にいてこんな若造だったとは信じ難い話だ。
「君がイスフェシアの勇者だと言うならそれを証明することはできますか?」
「証明……具体的に何をすればいいですか?」
「そうですね、例えば今この状況を抜け出すことは可能ですか?」
秋山中将が言うとオゼットはIMSPを起動し『タキオンソニック』を発動すると後ろにいた出雲国の軍人達が持っていた銃を真っ二つに斬り、彼らが腰に付けていた手錠を奪って拘束する。そしてポーラ船長に掛けられた手錠を壊して自由にする。
「これで証明できましたか?」
にっこりとオゼットは笑いそれを見た秋山中将は開いた口が塞がらない。半分冗談で言ったつもりが一瞬にして実現されるとは思わなかった。
「……なるほど、確かに凄まじい力ですね」
「安心してください、逃げたりはしません。話を聞いてもらいたいだけです」
オゼットは秋山中将に事の顛末を話した。それを聞いた秋山中将は伝令兵に通信でコンダート王国に確認するようにと命じる。
数十分後、コンダート王国から連絡が入りヴェルケーニの作戦でガレオン船を使い帝国からの目を避けながらコンダート王国に送り届けるという事実確認をとる事ができた。
秋山中将は出雲国の軍人にオゼット達をコンダート王国まで送り届けられるよう手配を命じる。
少し遠回りになったがこれで予定通りコンダート王国にたどり着く事ができる。
「出航の準備をしますので、それまではこの縦須賀を見て回るといいでしょう」
「わかりました。ありがとうございます」
「ちょっと待て、俺の船員達も解放してもらうぜ」
「そうですね、この度は作戦を妨害してしまい申し訳ございませんでした」
ポーラは仲間達を解放した後、任務を出雲国の人達に引き継いでミュンシェンに戻るらしい。任務を完全に引き継ぐまではこの国を満喫しようと考えているのでそれまでの間、一緒に縦須賀を回ることにした。
ポーラと一緒に海軍基地から出て縦須賀の町を見て回ると近くにそば屋があったのでそこで昼食を取ることにした。この世界に来てからまさか和食に出会えるとは思いもしなかったので楽しみだ。
そういえばモーレアは出雲国の出身って聞いたことがあるな、たまにミーア達におにぎりやうどんもどきを作っている所を見たことがある。今度モーレアに出雲国の料理について聞いてみよう。
「へい、お待ち!!」
考えている間にそば屋のおばちゃんがそばを持ってくる。
実に元の世界以来だ。
「いただきます!」
早速そばを頂くと頭に稲妻が横切る。
なんと説明すればいいのか、元の世界にいたチェーン店が出すそばとは違う素の味が出ている。
しっかりとしたコシがあって歯ごたえがあるのだ。
「う、うまい!」
「いや~デスニアやコンダートでは食べられないから、縦須賀に行ったら必ず出雲料理を食べたくなるんだよな~」
「こんなにうまいそばを食べたのは初めてですよ」
少し声が大きかった所為かそのそばを作っていた料理人に聞こえてしまったみたいで、それを聞いた料理人は少し照れる。そして気が付いたら自分の目の前のそばは無くなり、いつの間にか完食してしまっていた。おかわりをしたいが、ポーラが持っていた出雲国のお金で食べているので自重をする。
「よし、腹ごしらえもしたし戻るか」
ポーラは勘定を済ませて店を出る。今度この戦いが終わったらイスフェシアの皆と一緒に出雲国に旅行しに行くのもいいな。
二人で海軍基地に戻るとものすごく大きな灰色の艦が海岸に止まっている。前回俺とガレオン船の皆をこの縦須賀まで運んだ艦だ。
この艦の名前を近くにいた兵士に聞くと“いずも”というそうだ。
何でもこの艦はコンダート王国から有償軍事援助によって得たもののようで、コンダート王国側のはからいで国名と同じ名前の艦を一番先に提供してくれたらしい。
「お待ちしておりました、イスフェシアの勇者殿。これよりあなたをこの“いずも”でコンダート王国までお送り致します。どうぞこちらへ」
兵士に艦の入り口に繋がる階段まで誘導されるところをポーラとガレオン船の船員達が集まって見送ってくれる。
「じゃあな、オゼット!また機会があったらミュンシェンに遊びに来いよ!俺達ガレオン船のメンバー全員がお前を歓迎するぜ!!」
「皆さんありがとうございます!イスフェシア皇国に戻って落ち着いたら皆で遊びに行きますね!」
ガレオン船の船員達に手を振りながらいずもに乗る。数10分後、いずもは動き出しコンダート王国に向かうのであった。




