60話 遭遇と偶然
アンデッドを全滅させた後、ポーラ船長と乗組員達をガレオン船に運んで回復魔法で怪我を癒していく。
「すまないな、助かった」
「いえ、こちらこそ皆さんがいなければ力を取り戻すことが出来ませんでした。ありがとうございます」
「そうか……」
ポーラ船長は安心した所為か眠りにつく、他の乗組員達も続くように眠る。
これでガレオン船の船員は一人も脱落することもなくコンダート王国にたどり着けそうだ。
そして二つ疑問がある。一つはあの帝国の船にいたアンデッド達、何故帝国の船員達はアンデッド化したのだろうか?後でもう一度帝国の船に行って調べてみよう。
二つ目の疑問は……まぁ後で解決できるけど、ポーラ船長と乗組員達が全員寝てしまったことでどうやってこの船を動かせばいいのかわからないのだ。しかもこの深い霧の所為でどの方角に向かえばいいのかもわからない。
とりあえず、帝国の船に戻って調べてみますか。
帝国の船に戻って船室を隈なく調べると船員のベッドにある物が見つかる。これはアーザノイルの精肉工場で見た白い粉……“マジックパウダー”だ。なるほど、先程の帝国の船員達はアンデッドではなくマジックパウダーを摂取して凶暴化してしまったという訳なのか。
『ファンタジー・ワールド』の話だが、アンデッドの攻撃を受けた者は数時間後にアンデッドになる特殊デバフがあった。もしこの世界でも類似する効果があったら全員にアンデッド化を無効化にする解除魔法やアイテムを使えば問題ない。しかし俺はその解除魔法を持っていないし、アイテムは持ってはいるが数が少ないので乗組員全員分はないので全員無事にコンダート王国にたどり着くのは不可能だったろう。
ともかく原因がはっきりしたので安心した、ガレオン船に戻って乗組員達が起きるまで俺も休むか。
帝国の船室を出てガレオン船に戻ろうとした時、この世界では異様な存在とも言える船がこちらに近づいてくる。現れたのはものすごく大きな灰色の船で、その船の上部がほとんどが平らになっていて、その上にはヘリコプターが止まっていた。
そして、俺らが乗っている船の上に円を描くように2機のヘリコプターが飛んでいた。
「久々に見たな……」
俺は過去、テレビで見た同じような船が脳裏に浮かび、懐かしさを感じていた。
拡声器で「止まれ、さもなくば即撃沈する」と警告を発せられていた。
一方、ディシアの研究所にてゼルンは啞然としていた。さっきまで研究対象であるイスフェシアの勇者が持っていたスマートフォンと呼ばれている物が目の前でサンプルケースから消えてしまったのだ。
すぐにこのことをレイブン中佐に報告するべく、ディシアの軍病院に向かう。
「中佐殿!大変だ!」
部屋に入るとレイブンは私服に着替えていた。
「中佐殿、あなたの怪我の完治は3ヶ月程掛かると聞いておりましたが?」
「イスフェシアの勇者とコンダート王国軍の将校が脱走してのんびりとしてられないと思ってな、地味にキツかったがCCSの力を使って俺自身の時の流れを進行させて自然治癒させた。そして……」
レイブンはCCSのボタンを押すと“Reverse”と書かれたモードになり、スタートボタンを押すと全身に電流が走るような痛みがくる。
「ぐっ!」
「中佐殿!?」
「痛って~、これで3ヶ月分若返って元の健康状態に戻ったって訳だ。さぁ博士、話があるんだろう?」
レイブンは病室に置いてあった仮面を被る。その後、ゼルンの話を聞きながら自分達の事務所へと向かった。
一方、この世界では有り得ない技術を使っている“船”というより“艦”に遭遇したオゼットはガレオン船のポーラ船長と乗組員達を起こして現状を報告する。
ポーラ船長はその船を見るとおそらく出雲国の海軍だろうと語る。その船から灰色の小さな船に乗った黒い戦闘服に身を包んだ軍人達が向かってきた。
彼らはいつでも撃てるように、銃を向けている。
「待て、俺はこの船の船長を務めるポーラ・デュオスだ。ヴェルケーニ大尉からの任務でこの者をコンダート王国に送っている」
「黙れ、この船とあそこにある船は帝国の物と見受けられる。お前達は帝国軍人であろう。動けばここにいる全員を射殺する」
話で何とかなるかと思いきや話の通じない堅物が来たか……、相手の数はざっと20人といったところで『タキオンソニック』を使えば倒すことは出来る。しかしこいつらがコンダート王国と同盟関係を結んでいるならここで危害を加えるとコンダート王国の国王に報告されて敵対関係になるかもしれない。ここは何とか穏便に行きたいところだ。
「全員両手を頭の後ろに置き、ゆっくりと座れ。変な真似はするなよ」
「わかった、わかった。大人しくするから後で俺達の話を聞いてくれよな」
ポーラ船長達はゆっくりと出雲国軍人の言う通りにする。すると出雲国軍人はポーラ船長達に手錠を掛けてその船へと連行する。
「おら、早く歩け」
一人の軍人が俺に手錠を掛けて尻を蹴りながら艦へと連れていく。正直イラっとする。
「何だその目は、死にたいのか?」
「別にその銃で撃っても構わないけど……撃ったら同時に貴様らの“最期”になるから気を付けるんだな」
憎悪で目を見開きながら軍人を見ると一瞬軍人は怯むが、その後鼻で笑い牢屋へと入れられた。




