6話 魔導戦士、半覚醒
あれから30分が経過し、オゼットは目が覚めた。どうやら寝落ちしていたらしい。窓を覗けばもう日が暮れて夕方になっている。
「ミーア達はまだ遊んでいるのか?そろそろ暗くなるし、部屋に戻るように言いにいくか」
外に出て、ミーア達を探しに行く。しかし彼女達の姿は見当たらない。一体何処へ行ってしまったのか。
「キャーッ!!」
屋敷の中で悲鳴が聞えた。オゼットはすぐに屋敷に戻る。部屋に戻ると、鎧をまとった男が1人と盗賊が5人、そして縄で縛られているウインチェル、ミーア、ラルマが捕らえられていた。ウインチェル達には黒い首輪が付けられている。
「誰だ!?貴様は!?」と盗賊の一人が叫ぶ。
「お前たちこそ、何者だ!?」
「貴様に教えるものか、おい、あいつを殺せ!」
5人の盗賊がオゼットに襲い掛かる。オゼットはその場から逃げ出す。
「待てえ!!」
「待てって言われて待つアホがどこにいるんだよ!!これでもくらえ!!」
オゼットは近くにあった大きい壺を盗賊に投げる。盗賊達は体制を崩し、その隙に全力で走り、外に出て森の中の林に隠れる。
「痛ってえ、あの野郎、絶対に殺す!!」
「まて、あいつは後回しだ。今は任務に集中するぞ」
鎧の男が盗賊達に命令する。盗賊達は屋敷に戻っていった。
「助かったが……これはまずい状況だ。」
今城に戻って助けを呼んだとしても、時間がかかり過ぎる。そうしている内に彼女達が殺されてしまうかもしれない。しかし今、助けに行ってもあの人数を一人で倒すのは不可能だ。せめて複数体でも戦える武器があれば…。
「…これは賭けだな」
オゼットは敵にバレないようにゆっくりと屋敷に戻っていった。
鎧の男は、報告書を書いている。今回の作戦の内容と結果をまとめているようだ。盗賊達は金目の物がないか探している。ウインチェル達は抵抗をしようにも縄で縛られ、首についている黒い首輪の影響で魔法が使えない状況に陥っている。
「あなた達の目的は何?何故、私達を殺さず捕らえるの?」
「教える必要はない」
「教えろー!教えろー!」
「そーだ!そーだ!」
「うるせえ!ガキども!!死に急ぎてぇか!?」
盗賊の一人が痺れを切らせ、怒鳴り、ミーア達の口を布で縛る。ミーアとラルマは今にも泣きそうになっている。
「よせ、俺達の目的はほぼ達成した。後はこの報告書を祖国に届ければ任務は完了する。そうすれば、お前達は多額の報酬がもらえる、そうだろ?」
「でも、イーゴの旦那、いいんですか?こいつらを殺さなくて」
「この者達を祖国に連れて行き、こいつらの魔法の情報を聞き出せば我が国の魔法が更に発展する事ができるだろう。利益になればお前達の報酬も上がると思うぞ」
イーゴと呼ばれる騎士は盗賊達を説得する。盗賊達も金がもらえるならといいやと騎士の言うこと聞く。
「でもよ~、少しくらいなら遊んでもいいっスよね?この女、胸もそこそこあるし、楽しめそうだ」
盗賊の一人がウインチェルの胸を触る。
「ひっ」
「そんな事をする暇があるなら、先程の逃げた男を探せ!」
「ちぇ、旦那も堅物ですぜ」
そう言って盗賊は外に出て、探索しに行った。
「先ほどは失礼をした。すまなかった」
「あなたはあの盗賊の人達とは違いますよね?何故手を組んでいるのですか?」
「私とて本当はこんな事はしたくない。しかし陛下の命令なんだ」
「皇帝。やはりあなた方はテレン聖教皇国の…」
「……少し、喋りが過ぎたな。大人しくしていろ、そうすれば命の保証はする」
イーゴは報告書を作成し終わり、持ち場に戻る。そして盗賊達を集め、計画の最終段階に取り掛かろうとしていた。
「全員集まれ!これよりこの者たちを連行し、皇国に帰還する。後は陛下に報告すれば任務は完了、君達は報酬を貰える」
「逃げた奴はいいんスか?」
「放っておけ。増援を呼んだ所で奴らがここに付いた頃には、我々はもう国に到着している」
盗賊はウインチェル達を引っ張っていく。
「ちょっと待った!!」
彼らが外に出ようとした瞬間、オゼットが彼らの前に立ちはだかる。
「あ、あいつはさっき逃げた奴!」
「はっ、たった一人で何ができるっていうんだよ?」
盗賊達は笑いながらナイフを出して戦闘態勢を取り、その内の一人はウインチェルの首にナイフを突き付けて人質にした。オゼットは右手に持ったIMSPを前にかざす。
「ダメです!その端末はまだ修理が完全ではなくて、起動出来ても10秒しか持たないのですよ!?」
たった10秒で盗賊達を倒すのは不可能だと誰もが思う。しかし、オゼットはニヤリと笑う。
「10秒もあれば…こいつらを倒すのは充分だよ」
オゼットはIMSPの電源を入れる。オゼットの周りに光りが包み込む。
「なめやがって!!!」
盗賊の一人がオゼットに蛮刀を振るが光の壁で防がれる。そして光りが消えたがそこにオゼットの姿はなかった。
「な!?奴はど…」
次の瞬間、襲い掛かった一人目は吹っ飛んで窓ガラスが割れて外まで飛んでいき、ほぼ同時に二人目は下に叩きつけられる様に倒れて地面にめり込み、三人目は上に飛んで天上にめり込む。飛んで行った仲間達を見た瞬間、四人目は壁に飛んで激突して気絶し、ウインチェルを人質にしていた五人目は持っていたナイフが突然消え、持手の関節が外れている。
「ぎゃああああああ!!!」
盗賊の悲鳴が聞え振り向こうとした瞬間、イーゴの前にオゼットは現れ、イーゴが剣を振る。しかし瞬時に背後に回われ、持っていた剣の刀身がなくなっている。なくなった刀身はオゼットが持っていて、オゼットは剣をイーゴに向ける。
「何故……殺さない?」
「子供たちの前で殺生をしたくない」
イーゴはミーア達を見る。
「なるほど……それは私も同感だ。認めよう、我々の負けだ」
イーゴは刀身がなくなった剣を捨て、その後にオゼットの服装が元に戻る。いつの間にか盗賊達は一ヶ所に集められて腕と足を縛られていた。オゼットはウインチェル達の首輪を外し、縄をほどく。
「おにいちゃん!!怖かったよ~!」
ミーアは泣きながらオゼットに抱きつく。
「たった10秒で……皆倒すなんて……」
「な、充分だっただろ?」
「もし私がIMSPを起動できる状態まで直してなかったら、どうしていたのですか?」
「そしたら、俺達の負けだっただろうな。俺は君がこの端末を直していると信じて戦っただけだよ。…無事でよかった」
「なっ……」
ウインチェルは顔を赤くする。ミーアは捕まえた盗賊達を連行する為に、外でスライムナイツとゴーレムを召喚している。
オゼット達は捕虜となった盗賊達を連行する為に城に戻る事にした。ウインチェルは術式を展開し、魔法を発動すると、屋敷の下に黒い空間が広がって屋敷が沈んでいく。それを見てオゼットは啞然とする。
「す、凄い…」
「私が留守にしている間に、またさっきみたいな人達が来ても困りますからね。本当はこの場所が好きだったのですが…仕方がないのでベリアに家ごと引越しする事にしました。」
「家ごとって……」
「さて、まずは城に行ってこの人達を連れて行かないとですね。皆さん、私の近くに集まってください。」
言われた通りにオゼット達はウインチェルの近くに集まる。
「ではいきますよ、フィールド・テレポーテーション!」
ウインチェルの下に魔法陣が広がり、一瞬にして全員が消える。気が付いたらオゼット達は首都ベリアにいた。
「転移魔法が使えるとは、やはりウインチェルさんは只者ではないですね」
「うーちゃんは、魔法は何でも使えるんだよ!あたしも転移魔法を覚えたい!!」
「何でもではないですけどね。さて、城に行きましょう」
ウインチェルが城に向かおうと歩くと、ラルマが何か思い出し、彼女の袖を引っ張る。
「ねぇねぇ、もーちゃんにガイルさんに会って伝言を伝えて欲しいって頼まれたのだけど……」
「ガイルさんの所に?じゃあ私とミーアちゃんでこの人達を連れて城に向かうから、ラルマ君とオゼットさんでガイルさんの店に行くってのどう?」
「うん。わかった!うーちゃんも気を付けてね。 オゼットさん行こう」
「ラルマ君も気を付けてね」
オゼットとラルマは、ウインチェル達と別行動でガイルがいるという店に行くことにした。