57話 捕虜救出作戦
準備ができた戦闘偵察部第一大隊とブラックベレーD大隊A中隊は、隠れ家から帝国空軍から奪ってきた竜にまたがりアーザノイル城を目指していた。
わざわざ現代兵器を使わず竜を使うのは、航空機に関しては全てエンジン音がするため飛行中に帝国軍に見つかってしまうという事、さらに現代兵器を使ってしまっては帝国国内にいるはずのない王国軍がいるというのがバレてしまうからだ。
その為、隠密行動をとるためには竜騎兵を使うのが一番有効だと判断した。
救出部隊は日が暮れるまでにはアーザノイル城近くに用意していた拠点に集合していた。
そして作戦は日が落ち夜になってから開始された。
まず、現地に既に潜入しているブラックベレーの隊員数名がアーザノイル城の裏門の警備兵をテーザーガン(スタンガンの一種)で動けなくなったところを捕縛し、彼らが着用している装備を全て剥ぎとり、その装備をブラックベレーの隊員が着用し警備兵を装い、これから通るブラックベレーの隊員の裏門の通行を容易にする。
そして、裏門から部隊を侵入させる前に表門前で待機していたブラックベレーが陽動として表門を襲撃、この時に王国軍とばれないように反政府武装集団のような恰好になり、ナイフや片手剣を使って戦う。
そして味方が表門を攻撃している間に、本隊が裏門から侵入、侵入する全隊員も王国兵とばれないようにナイフやクロスボウを装備しているが、万が一に備えて何名かはサプレッサーを着用した状態のMk18やMP7、HK45Cを携行する。
抵抗もなく城に侵入した本隊はまっすぐ捕虜が収容されている牢獄へと向かう。
途中巡回していた警備兵が複数いたが、全員誰に何をされたのかを知る前に永遠の眠りについていった。
そして、地下の牢獄へと到達した救出部隊はその牢獄から放たれる異臭に顔を顰めた。
中にはその酷い臭気に吐き気をもよおしその場で吐き出してしまうものをいた。
その臭いにたまらず、隊員たちはガスマスクを着用し事なきを得たが、次に隊員に襲ってきたのはその牢獄の惨状だった。
「……なんてひどいことを……うっ!」
「隊長!しっかりしてください!」
そこで救出部隊が見たのは、恐らく拷問や虐待によって命を落としてしまった遺体や白骨化した死体だった。
「おい、なんてことだ……この人俺達と同じ王国兵だぞ」
「こちらもです……」
ライトでその遺体や白骨化した死体を調べてみると、なんと自分たちと同じコンダート王国の兵士達であった。
その周辺にあった遺留品がかなりボロボロになっていることから、相当ひどい拷問を受けそれが原因で命を落としてしまったのだろう。
彼らは先の大戦で帝国軍に捕らえられ、情報を抜き出すためここに入れられていたのだろう。
その後は特に用がなくなったので、放置され、飢えに苦しみながら息絶えていったのだろう。
「しかも結構階級も上の方々だ……、後で回収しよう」
衣服には階級章が縫い付けられていて、それを見ると少尉~少佐の士官だと分かった。
遺留品や遺骨等を回収して、できるだけ彼らの故郷、そして遺族の元に送り届けたいという気持ちでいっぱいだった。
しかし、敵地の中心にいて非常に危険なうえ、その前に生存している可能性がある目標を助け出さなければならないので、残念ながら、それは叶わない。
「それよりまず生存者を手分けして探しだせ!第一目標が先だ!」
「了解!」
牢獄はかなり広くつくられており、20区画ほどある牢屋は一区画に20部屋あり、その一部屋に3名ほど収容できるようになっている。
途中、中にいた看守や城の警備兵と遭遇したが、彼らは酒を飲んでいるか、鎖につながれた女性と行為にふけっているところで非常に無防備だった。
隊員たちは彼らを捕縛し、空いていた牢屋に詰め込んでやった。
牢獄の中心には拷問部屋や処刑室、看守室があり、特に処刑室からは強烈な腐敗臭が漂っていた。
他の部屋には様々な種族の裸の女性が入れられており、恐らく彼女達はここの看守や城の兵達の“おもちゃ”になっているのであろう。
さらに奥に行くとそこは比較的綺麗(とはいえ最低限)なつくりをした部屋になっており、ここにはある程度立場が上の人たちを収監するのに使っていることがうかがえる。
そして、そこには旧陸軍や旧海軍の将校が着ていた礼服を纏った人たちがいた。
「あ、貴方は、もしやハミルトン・トルドー大将ではありませんか?」
隊員が声を掛けた部屋の中には、長くボサボサの白髪で無精ひげを生やした60歳ぐらいの男がいた。
その男はかつて先の大戦で帝国軍との最前線で直接指揮を執っていた、王国陸軍北部方面軍司令官のハミルトン・トルドー大将その人で、彼は現在の陸軍大臣をしているハミルトン・エレシアの父であり、ハミルシア・ノアの叔父にあたる人物だ。
「貴様は誰だ?何しに来た?」
トルドー大将は、救出部隊が持つ見慣れない武器や装備に不信感を覚え、また帝国軍の変な実験に付き合わされるのかと思い、隊員にきつい態度で問いかけた。
「し、失礼いたしました。私コンダート王国陸軍特殊部隊“ブラックベレー”所属のA中隊の中隊長です」
「何を訳の分からないことを言っているんだ貴様は!王国にはそんな部隊は存在しないぞ!騙されないからな!」
トルドー大将がそう思うのはごく自然なことで、彼がいた王国にいた頃には彼らが持っている武器はなかったし、ブラックベレーという存在すらなかった。
しかし、何とか救出しに来たことを信じてもらうため、彼の娘さんの話、姪っ子さんの話をしてようやくコンダート王国の人間だと信じてもらった。
そして、その後他の部屋にいた第一目標であったエドナ―博士や生存者全員を保護し先に脱出させることにした。
生存者を回収した隊員たちは、すぐにアーザノイル城付近に用意してある集合ポイントへと向かっていった。
残った隊員は第二目標であるイスフェシア皇国の勇者を捜索することにした。
「目標と思われる男を発見!メディック!」
その目標と思われる男はもう一つあった拷問室の壁に両手を鎖でつながれた状態で発見された。
情報では外見の特徴として服装は黒いパーカーに藍色のジーンズ、150㎝程、20歳ぐらいの黒髪とあり、拷問によってその見た目をかえてしまっているが、ほぼ間違えはないだろう。
「オゼットさんですか?」
「……あ、ああ」
オゼットと思われる男は、水分をとっていないのか唇は酷く乾燥した状態で、さらに喉も乾燥しているのか声が出そうにも出せない状態にあるようだ。
「我々、コンダート王国陸軍の者です、貴方を助けに来ました。もう安心ですよ」
彼は昨日か今日に拷問をされたのか、至る所に切り傷や酷い炎症を引き起こしている箇所がある。
一先ず、彼の腕の鎖を大型のチェーンカッターで切り離し、隊員が持っていた水筒の水を飲ませてあげた。
「あ、ありがとう……」
助けが来たことと、水が飲めたことによって安心しきったオゼットはそのまま意識を失ってしまった。
「メディック!早くこっち来い!」
ここで死なれては元も子もないので、急いでメディックを呼ぶ。
すぐに駆け寄って来たメディックは最初に脈を測っていた。
「大丈夫だ、彼はまだ死んでない、意識を失っているだけだ。それより早く運ぼう」
隊員たちはオゼットが意識を失いぐったりとしているので、担架に乗せすぐにこの牢獄から脱出し、裏門で待つ味方の元へと足早に向う。
無事抵抗を受けることなく裏門を抜けられた救出部隊は、オゼットを一先ずアーザノイル城周辺にある隠れ家へと運んだ。そこで数日間女性軍医の治療を受け、意識と体力の回復を待った。
自力で動けるようになったオゼットは、帝国陸軍にいる協力者であるヴェルケーニ・エルヴィレッタ大尉と共に、彼が所有している飛竜を使ってアーザノイルから少し離れた人気のない場所から飛び立ち、ミュンシェンの港町へと送り届けるのであった。




