52話 神隠し村
あれから何日経過してここは一帯どこだろう。あの時、帝国の人達がイスフェシア城を襲撃して絶体絶命な時にウインチェルは私を逃がしてコンダート王国に助けを求める為に転移魔法で知らない地に転移させた。
辺りは緑が広がる平原、とりあえず町を探そうと歩き続けて数時間経つがそれらしい町や村は見当たらない。
「あつ~い」
日差しが強く喉が渇いてしょうがない。幸いフェリシアから貰ったサファイア色のペンダント(幻想の宝玉)のおかげで魔法が使えるようになったので、水の魔法を発動して飲むことは出来る。
問題があるとしたらこのドレスだ。イスフェシア皇国の女皇として活動していたためこの服装では外を歩くには向いていないし目立つ、コンダート王国に向かうならまずは町や村を見つけて着替える必要がある。後、可能ならシャワーを浴びたい。そう考えながら歩いていくとようやくそれらしい村が見えてきた。
村の入るとギルド施設の前に行列が出来ている。並んでいる村の住人はイラついている。中には列に割り込んで喧嘩をする人もいる。
「早く開けろ! いつまで待たせるんだよ!」
「仕事しろ!」
並んでいる村人のイラつきを見て近くの子どもが泣いている。その子どもに近づいてハンカチを使って涙を拭く。
「大丈夫?」
「うん……お姉ちゃんは誰? お姫様みたいな格好しているけど」
「私は真理って言うの。君は?」
「あたしはルリ」
ルリにあの行列は何かを尋ねてみるとあの行列は捜索願を届けた人達が相談に並んでいるという。しかしギルドは捜索を続けるが進捗がなく村人たちのクレーム対応で精一杯らしい。
「このままあそこの近くにいると危ないから離れましょう」
「うん、お姉ちゃん良かったら私の家にこない? 私の家は宿屋だからお泊りできるよ」
ここ最近ずっと歩きっぱなしだったから何処かでゆっくり休みたいと思っていた。ルリの提案に賛成し、一緒にルリの家に向かうことにした。
ルリの家に着くと入り口にはルリの母親が立っていた。ルリが帰って来たのを見ると走ってルリを抱きしめる。
「ルリ何処に行っていたの!? 家にいなさいって言ったじゃない!」
「だってずっと家にいるのは暇なんだもん」
「あなたも知っているでしょう、ここ最近神隠しにあって戻ってこない人がいるって……心配したのよ」
ルリの母親はルリの事を叱る理由はわかるがここにいるのは何か気まずい……。
「あ、あの~」
「あなたは?」
「この人はお客さんだよ」
私はルリの母親に挨拶をして1泊2日でチェックインした。ルリは私の手を引っ張って部屋まで案内する。部屋に入ると今までの疲れがドッときて思わずベッドに倒れ込んだ。
疲れている姿を見たルリは「夕食の時間に鳴ったら呼ぶね」と言い、部屋を後にした。
時は立ち夕方、ドアからコンッコンッとノックがする。扉を開けるとルリは約束通り夕食を持って来てくれた。夕食をテーブルに置くと同時にルリからグ~とお腹が鳴るのを聞いて良かったら一緒に食べないかと提案するとルリは喜んで賛成した。
「ねえ、お姉ちゃんは何処かの国のお姫様なの?」
「“お姫様だった”わね。今はある国まで旅をしているの」
「へぇ、どうしてお姫様やめて旅をしているの?」
「そうね、それは……内緒♪」
知りたいとルリは駄々をこねるが話題を変える、ルリの母親が言っていた神隠しについて詳しく聞く。
一週間前からこの村に住んでいた子どもや女性が次々と行方不明になる事件が起きている。ギルドの傭兵達は捜索を続けているが周囲の森や近場の村には行方不明者は発見できなかったらしい。
「お母さんは『これは魔女の仕業』だって言っていたよ」
「魔女の仕業?」
「うん、ここから北の森の奥に行くと魔女が住んでいる家があるらしいの。でもね、北の森に入ると何故か道に迷っちゃって誰も魔女の家にたどり着いた人がいないの」
魔女の家か……確かに怪しいけど、何かが引っ掛かる。例えば北の森に入ると道に迷って誰も魔女の家にたどり着いた人がいないのにも関わらず、どうやって北の森の奥に魔女の家があると分かったのか? ルリに尋ねると知らないと言われてしまうがおそらく一人以上は魔女の家にたどり着いた人物がいる、もしくはその情
報が虚偽である可能性が考えられる。虚偽である場合はその情報を流した人物が怪しいわね。
調べてみたいけど今日はもう遅いので明日にしよう。
「じゃあルリちゃん、私はもう寝るね」
「お姉ちゃん、もし良かったら明日もいっぱいお話しようね」
「うんいいよー、約束ね」
ルリは「おやすみなさい」と言って部屋を出る。私はシャワーを浴びてもう一度ベッドで深い眠りにつく。
翌日、目が覚めてルリとルリの母親に挨拶をしようと部屋を出て階段を下ると二人の姿が見当たらない、何処か買い物にでも出かけたのだろうか。
とりあえず、お腹が空いてしまったので店の外で食べ物を買ってこよう。
外に出て村を歩き周るとパン屋を見つける。
「いらっしゃいませー、出来たてのパンはいかがでしょうか~」
「美味しそう! おすすめは何ですか?」
「このサンドイッチは如何です? ウサギ肉とレタスと胡瓜を挟んでとても美味しいですよ!」
私はバターロールとおすすめのサンドイッチを買う。女性の店員は「ありがとうございました!」と元気に見送ってくれた。早速、サンドイッチを食べながら私は北の森へと向かおうと歩くと一人の老人が話を掛けてくる。
「お前さん旅の者ですかな?ここには何の用で?」
「はい、旅の途中でこの村に辿り着いて一休みをしていました。あの……おじいさんは?」
「村の長ですじゃ、知っているかもしれませんが最近この村では神隠しにあう人々が続出してのぉ、悪いことは言わないからこの村から立ち去った方がいい」
「お言葉感謝致します。ですが調べたいことがありましてこの村から北側にある森の奥には魔女の家があると、私はその人物に会って話がしたいのです」
「なんと!? お前さんやめたほうがいい、あの魔女と会えば生きて帰れるかわからんぞ」
「おじいさんその魔女とこと知っているんですね? 宜しければその魔女について詳しくお話を聞かせてもらえませんか?」
「わ、わしは何にも知らん!」
おじいさんはそう言うと私から急いで離れて行く、明らかに怪しいが今は本人に会って話をしよう。もしこの神隠しの原因が魔女の仕業なら人々を返してもらうように言ってやらなければならない。
気を取り直して私は森に入って魔女の家を探すことにした。
数10分後、私は道に迷った。なるほどルリちゃんが言っていた「誰も魔女の家にたどり着いた人がいない」というのは強ち間違いじゃないかもしれない。この森に入ってから違和感があったがどうやらこの森一帯に結界が展開されているみたいで、結界に入ると方向感覚が失われるみたいだ。イスフェシア城で女皇専属の魔術の先生であるウインチェルから教えてもらった結界の探知方がこんなところで役に立つとは思わなかった。
ここで魔力を消費したくないけど仕方がない。幻想の宝玉を使って結界の影響を一時的に無効化する。このペンダント、まだ使いこなせていないから長時間の使用はできないのよね。実際にこのペンダントの能力はフェリシアから聞いただけで試したことないし。
いろいろ考えながら歩くとそれらしい家にたどり着く。やはり誰もたどり着けなかった理由は結界が原因だったみたいね。
私は家の扉にノックする。しばらくすると扉から白い髪の女性が現れた。




