51話 仮面の裏側
圭一は亜紀を殺した二人の警官に止めを刺し、その魂は腕時計に入っていった。
女子高校生は目を覚ますと二人の警官の死体を見て悲鳴をあげる。
「大丈夫か?」
「あ、あなたは私を助けてくれたのですか?」
「まぁ結果的にはそうなったけど、ここからは違うかな」
「えっ」
圭一は警官が持っていた拳銃を拾い女子高校生の頭に向けて撃つ。女子高校生は倒れて体から出た魂が腕時計に入る。
「なるほど、やはりお主には見込みがあるな」
後ろを振り向くとそこには今まではなかった黒い扉が出現している。入ってこいって意味なのか。
黒い扉を開け、再びヴェノムがいるテーブル席に座る。
「合格だ。普通の人間なら人を殺めた時点で後悔し、そこで立ち止まってしまうがお主は違う」
「約束は守ってもらうぞ、俺が魂を集めてお前を召喚できた時は亜紀を転生させてもらうからな」
「ああ、約束は守るとも……今後もよろしく頼むぞ。では早速、デスニア帝国に行ってもらう」
デスニア帝国、ヴェノムが言うにはその異世界の国はアーガイル大陸の70%程支配しているらしい。
ヴェノムは再び黒い扉を召喚し扉を開けると黒い霧が俺を包み込む。段々と眠くなってそのまま深い眠りに着いた。
目が覚めると城の宮殿にいた。日本とは全く違う風景、まるで外国にでも来た気分だ。近くには一人の科学者らしき人物がいる。その青年は俺を見て急に喜び始める、何この人怖いんですけど。
「おお、実験は成功だ!! これでこの世界とは違う別の世界が存在することが証明された!」
「あ、あの……」
「ああ、自己紹介がまだだったね。私はゼルン・オリニック、この国の魔法科学を嗜んでいる者だ」
「俺は……」
名を名乗る前にゼルンは俺の手を握って全力で握手をする。その後、彼はこちらへと手を引っ張って玉座の間に向かうと暗くて見えづらいが玉座に女性が座っている。
「陛下、私の実験は成功しましたぞ! この通り異世界の住人を召喚しました」
ゼルンが陛下と呼ばれる人物に報告するとその人物はボソッと何かを喋っている。それを聞いたゼルンは「承知致しました」と言って俺の方に顔を向ける。
「陛下は君の実力をみたいと仰っている。早速だが付いてきてくれ」
ゼルンはそう言って俺は広場に連れていかれる。広場に着くと仁王立ちしている大男が待っていた。
男は俺を見ると鼻で笑って近づいてくる。
「おいおいおい、こんなヒョロっちぃガキが俺の対戦相手とか冗談だろ?」
「冗談ではないよレゼルグ君、今から彼と戦ってもらう」
「へっ、こんな奴殺すのに10秒も掛かんないぜ!」
レゼルグと呼ばれる男は俺を睨みつけて距離を置いて配置に着く。どうやらこの大男と戦わなければならないらしい。ちょうどいい機会だ、この腕時計の力を試してみよう。
「では始めてくれ」
「いくぞヒョロ野郎!うおりゃぁぁぁぁぁ!!」
ゼルンが試合開始の合図を出した瞬間に俺はCCSの力を発動する。するとレゼルグやゼルン、空を飛んでいるカラスなど動きが止まる。
ヴェノムが言うにはこのCCS(ClockControlSystem)は約60秒間時を止める能力『タイム・フリーズ』を発動することができる。ただし、連続でこの能力を発動すると止められる時間が段々と短くなってしまうらしく、元の60秒間止める為にはCCSに保存した1人分の魂を消費しなければならない。
俺はCCSの機能の一つ『武器召喚』を使い、手から大鎌『ソウルアウト』を召喚して大男の首を刎ねる。
60秒が経過して時が動き始めるとレゼルグの体は倒れる。その光景を見たゼルンは驚き興奮する。
「素晴らしい!! 実に素晴らしい結果だ!」
「こいつを殺すのに10秒も掛かんなかったな」
レゼルグの魂をCCSで回収した後、俺は近くで見学していた女王に向かってドヤ顔をする。それを見た女王はこっちに近づいてくる。
「気にいった。お前の名は何という? お前の望みは何だ?」
「俺の名は……」
名を名乗るのを一瞬ためらう。この世界でもし俺以外の転移者がいる可能性があるなら、本名や素性がバレるのは好ましくない。亜紀を転生させて元の世界に帰った時に支障が出るからだ。
ふと耳からカラスの鳴き声が聞こえカラスのいる方向をむく。その姿を見てこの世界で名乗る名を思い付いた。
「俺の事はレイブンと呼んでくれ、望みはたった一人の家族を取り戻すことだ」
時は戻りディシアの軍病院で目を覚ます。
「お目覚めですか。中佐殿」
近くにはラピスが椅子に座ってリンゴの皮をむいていた、やはりさっきまでの出来事は夢だったのか。
ラピスに俺が寝ている間に何が起きたかを聞くとイスフェシア皇国とテレン聖教皇国はデスニア帝国との同盟を結ぶことに成功、イスフェシアの勇者は捕虜にしてアーザノイルにある監獄に幽閉しているとのことだ。
そして俺の容態について医師が言うにはアバラと両足の骨にひびが入っているらしく、しばらくは安静にしないといけない。ある意味その程度で済んだのはCCSの機能の一つの『常時全身強化』と報告書に書いてあったイスフェシアの勇者の死亡者を出さない能力のおかげであろう。
「ですのでしばらくはルアールさんが中佐殿の代わりに919小隊の指揮をとります。中佐殿はゆっくりと休んでください」
「すまないな」
「いいえ、謝らないでください。何か情報があれば連携します」
ラピスはリンゴを切り終えるとフォークで刺してこちらの口元に近づける。
「何だ?」
「何って、“あーん”ですよ?」
「いや、それぐらい自分で食べるよ」
「何を言っているのですか、中佐殿は体を動かしてはいけないのですからこれから私が中佐殿のお世話をするんですよ」
確かに体の下半身に関しては足が上がらないから歩くなどの行動は出来ないが上半身は辛うじて動かすことが出来る。だからお世話をする必要はないとラピスに言うとしょんぼりとする。
「では、お手洗いに行きたい時は仰ってくださいね。尿瓶はありますから」
「そんな恥ずかしいこと言えるか!」
ラピスと話している最中にコンコンッと扉をノックの音が聞こえる。扉が開くとルアール、ジャック、ラーシャが入って来た。
「やぁ中佐殿、元気してた……ってお取込み中だったか」
「レイ兄ぃ、お見舞いにきたよ!」
ルアールはラピスが持っている尿瓶を見て察するが、これは誤解だと説明をする。ラーシャは尿瓶を見るのが始めてだったみたいでラピスが持っている物が何なのかわからないでいる。正直今この子に尿瓶の説明をしたくないので話題を無理矢理変える。
「ところでお前ら、ただ俺の見舞いにきただけじゃないよな?」
「そうだ! レイ兄ぃに渡すものがあるの」
ラーシャは俺にいつも付けていた仮面を渡す。そういえば目が覚めた時に何処にも見当たらないと思ったら、あのイスフェシアの勇者との戦闘後に壊れてしまったらしい。ジャックが俺を軍病院に搬送した後、ゼルンに頼んで仮面を修復し持って来てくれたとラーシャは言う。
この仮面に特に思い入れはないが、この世界でレイブンとして行動するのであればこの仮面を被った方が俺と同じ世界から来た者や敵対者などに素顔を特定されず済む。
「やっぱりこの仮面を被ってないと中佐殿らしくないよね」
「うん、レイ兄ぃはこうでなくちゃ」
「中佐殿、これからも我らは中佐殿についていきます」
「そうですね。私達はもう家族みたいなものですから」
家族か……確かにこいつらとは今まで共に戦い、笑い、悩み、四六時中行動して来たもんな。いつかその家族ってやつに亜紀を入れさせてやりたいな。
「皆、ありがとうよ」
4人に感謝をするとルアールが茶化しに来て皆は微笑んだ。
亜紀……待っていろよ、もう直ぐお前を蘇らせてやるからな。この新しい家族と一緒に……。




