49話 仮面の記憶(後編)
翌日、亜紀は高校に行き圭一は仕事先へと向かう。亜紀は教室に入って自分の席に座る。ダラッと席に眠りにつこうとすると先生が教室に入って一限目が始まる……と思いきや何やら深刻な顔をしている。
「皆さん、おはようございます。今日は一限目を始める前にお知らせがあります。昨日から北条さんが家に帰ってないそうです」
「えっ」
そんなはずはない、優奈は昨日あたしと途中まで一緒に帰ったはず……。
「昨日の夜、ご両親が家に帰宅後、北条さんがいなくて電話をしたのですが、電源を落としているのか繋がらなかったらしく、朝になっても帰って来なかったので警察に捜索依頼を出したそうです」
生徒達はざわめく、優奈は確かに友達の家に泊まったり徹夜でカラオケをしに行ったりするが、その時は親に必ず連絡をするし、そもそもスマホの電源を切っているのもおかしい。もし充電がきれてしまったのなら一緒に帰っている時、寄り道なんてしないで速攻で充電しに家に帰るはずだ。
亜紀は試しに優奈に電話してみる。しかし繋がらず、電源が切れているか電波が届かないとアナウンスが流れる。
「こら黒井さん! 大事な話をしているときに何を……」
「マジだ。優奈のスマホに繋がんない……」
亜紀の一言で生徒達は更にざわつき始める。先生は生徒達に「静かに!」と言ってその場を落ち着かせる。
「とにかく! 北条さんは警察が捜索しているので皆さんも不審者には十分に注意をしてください。もし不審な動きをしている者がいれば決して近づかず、警察に通報してくださいね。そして今日の放課後は寄り道せず、真っ直ぐ家に帰宅してください」
先生はそう言うと一限目を始める。生徒達は勉強どころではなくスマホで不審者の情報や優奈に連絡を試みたりなどして授業を放棄した。
放課後、亜紀は先生に職員室に呼ばれる。職員室には昨日男達に絡まれたところを助けてくれた2人の警官がいた。
警官は亜紀に昨日出来事を話して欲しいと事情聴取を始める。亜紀はありのままの事を話すと2人の警官は昨日の男達が怪しいと考え、その男達がいたゲーセンに向う事にした。
「ご協力、感謝します」
「いえ、優奈のことお願い致します。」
「わかりました。あなたも気を付けて帰宅してくださいね」
警官はパトカーに乗って学校から離れて行った。亜紀は真っ直ぐ家に帰って部屋に籠る。しばらくして圭一が家に帰ると亜紀は優奈のことを話した。
翌日、学校は休校になった。優奈は見つからず捜査は続いている。亜紀は優奈と会った商店街で手がかりを捜す。一番怪しいと思ったのは前回男達がいたゲーセンだ。もしかしたらあの男達が優奈を誘拐している可能性はある。しばらくするとゲーセンから亜紀達に絡んできた男達の一人が出て来た。
「よし……」
亜紀は気づかれないように男を尾行する。もし優奈を誘拐しているならその場所いくだろう。現場を見つけて警察に通報すれば、優奈を助けることが出来る。
慎重に動き、男にバレないように隠れながら尾行を続ける。男はきょろきょろと周りを見渡しながら進んでいく、これは明らかに怪しい。
しばらく尾行をすると男は放置された廃墟アパートに向かった。間違いない、優奈はここにいる!
亜紀は警察に通報し来てもらうように伝える。ただし、サイレンを鳴らすと男達に逃げられる可能性があるためパトカーのサイレンは鳴らさないように頼む。しばらくすると複数台のパトカーが到着し、警官が来た。
「君は……あの時の」
「おまわりさん、あそこに優奈がいるかもしれません。私たちに絡んできた男の一人があのアパートに入ったのを見たんです!!」
「なんて無茶なことを! 情報提供はありがたいが、危険な真似をしては駄目だよ」
警官達はゆっくりと廃墟アパートに侵入した。約1時間後、5人の男が手錠をかけられてアパートから出て来る。
「おまわりさん。優奈は!?」
「ここにはいなかったが、こいつらは不法侵入罪及び公務執行妨害で逮捕した。これから署で取り調べを始めるところだ」
「ちっ」
男達はおとなしくパトカーに乗っていく。
「あんた達! 優奈を何処にやった!!」
男達は亜紀の声を無視する。無視されたのをイラついて男の顔面を殴ろうとすると警官に止められる。
「やめなさい!」
「だって」
「彼らから必ず被害者の行方を聞き出す。もう少しだけ待ってくれ」
警官の一言で亜紀は泣き崩れる。警官は彼女にハンカチで涙を拭き、捜査に協力したことから特別に家まで送って行った。
家まで送られ警官と一緒に亜紀がいた光景を見て圭一は驚く、警官から事情を説明されると圭一は亜紀に危険な行動したことを叱り、強く抱きしめた。
その日の夜、圭一は亜紀のために料理を作ったが亜紀は食欲がなく料理を食べなかった。亜紀は部屋に入って優奈に連絡を取ってみるが未だに繋がらない。大丈夫だ。今頃は警察の人達が取り調べをして優奈を監禁した場所を特定しているところだろう。
亜紀は優奈の無事を祈って眠りについた。
そして数時間後、ふと亜紀は目を覚ます。スマホを見ると時間は午前2時47分、何だか眠れなくなって部屋から出て圭一の部屋を覗くと圭一は部屋で爆睡をしている。仕事の疲れが溜まっているみたいだ。
「ふふ、兄貴の寝顔可愛い」
次に亜紀は、のどが渇いたので冷蔵庫を開ける、中には麦茶しかなかった。これだと明日の朝食がないと気づいた亜紀は麦茶を飲んでコンビニに向かうため、外に出た。
コンビニで明日の朝に食べる弁当と飲み物を買う、コンビニから出て家に向かう途中であの警官に会った。
「あ、おまわりさんこんばんは」
「君は……駄目じゃないか、こんな夜遅くに出歩いてちゃ」
「ごめんなさい、明日の朝食を買おうと思って……」
「まったく、夜は危ないんだから外出は控えなさい」
「はーい」
「家まで送ってあげるから入りなさい」
警官は亜紀をパトカーに乗せて走らせた。家の近くで止めてもらおうとするが、パトカーはそのまま走り家を過ぎ去ってしまう。
「え、おまわりさん?」
「言ったでしょ…………夜は危ないんだって」
警官はパトカーを急に止めるとその反動で亜紀は前のめりになる。すかさず警官は亜紀の首にスタンガンでショックを与えて気絶させた。
ふと目が覚めると亜紀は産婦人科の検診台に座っていた。両手両足は手錠を掛けられて動くこと出来ない。ここはどこだろう?
「目が覚めたんだね」
警官がコーヒーを飲みながら亜紀に近づく。離れたくても手錠が邪魔して動けない。
「無駄だよ」
「何で……あなたは警官でしょ?」
「そうだよ、警官だけど正義の味方ではないんだよ。警官はあくまで仕事としての役職だからね」
警官は亜紀の頬を触る、とても気持ちが悪い。亜紀が警官に向かって唾を飛ばす。
「なかなか強気な子だね。でもいつまで続くかな? 直ぐに金髪の子と同じようにしてあげるね」
金髪の子……まさか優奈を誘拐したのはあの男達ではなく、この警官だったのか。
「あんた!! 優奈に何をしたの!?」
「ナニって、僕たちと一緒に気持ちよくなってもらっただけだよ」
「僕たち?」
警官はカーテンを開けると隣の産婦人科検診台に優奈が座っていた。もう一人の警官が優奈の胸を撫でている。亜紀は優奈に声を掛けるが返事がない、生きてはいるがまるで魂が抜けた抜け殻のように動かない。
「さぁ、お嬢ちゃんも気持ちよくなろうね」
警官は亜紀の腕に注射器の針を刺す。段々と体が痺れて意識が朦朧とする。警官はゆっくりと亜紀の服を脱がしていった。
亜紀の頭の中で圭一の笑顔が横切る。「助けて」と言おうとするが頭が痺れて声が出ない。意識は闇の中へと消えていった。




