46話 終焉のカウントダウン(後編)
ゼルンが取り出した拳銃によって倒れていくモーレアとウインチェル、ミーアとラルマには当たらなかった……というより当てなかったみたいだ。真理はゼルンに問う。
「何故、あなたがそれを!?」
「これかい?これは中佐殿からもらったんだ。君がいた世界の武器で『M9』という名称らしい。さぁ聞き分けのない子にはお仕置きをしないとね」
「真理……逃げろ……こいつはやべぇ」
「ミーア……ラルマ、あなた達も逃げな……さい」
「二人共、今回復させるから!!」
「おっと、動かないでくれるかな?」
ゼルンは真理に銃を向ける。モーレアとウインチェルは立ち上がって真理を庇おうと前に出る。
「嫌だ、うーちゃん達を置いて逃げるなんて!」
「そうだよ、僕たちも戦うよ!」
「いいから逃げ……な……さい……そして真理さんと……一緒にコンダート王国に行って……国王にこの事を伝えなさい」
「でも!」
「させませんよ」
ゼルンは銃でウインチェルを撃つ、ウインチェルは咄嗟に魔法で防御壁を展開するが貫通し肩に命中する。
「うぐっ!」
「やめろー!!」
ラルマはサイコキネシスでゼルンが持っている拳銃を破壊しようとするが、その前にラピスがラルマに雷の魔法を放ちラルマは痺れ気を失う。それを見てミーアは我を忘れ大量にスライムナイツを召喚し攻撃を仕掛ける。
「フリーズ・ウィンドウ……」
ミーアの後ろから激しい冷気が通り、スライムナイツを凍らせる。後ろを振り向くと複数の騎士を連れたアルメリアがいた。どうやら彼女が放った魔法みたいだ。アルメリアは騎士達に真理達を囲み、拘束させるように指示する。
「アルメリア……てめぇ……裏切ってたのか……」
「裏切るも何も、私は最初からマリー様の忠実な僕よ。全員、武器を捨て投降しなさい。そうすれば命の保証はするわ」
「こら、おとなしくしなさい」
「放して!!エッチ!!」
ミーアは騎士からの拘束に抵抗し体当たりする、騎士はよろけてその隙に逃げようとすると、ラピスは睡眠魔法でミーアを眠らせる。
このままではウインチェルとモーレアは出血多量で失血死してしまう。
真理は投降を決意しアルメリアにウインチェルとモーレアを治療するようにお願いをする。アルメリアは同意し真理の腕に“魔封じの腕輪”という装備すると魔法や能力が一切発動することが出来ないアイテムを付けようとする。
それを見てウインチェルは最後の力を振り絞り、真理に向かってフィールド・テレポーテーションを発動する。
「ウインチェルさん!?」
「真理さん、あなたと……オゼットさんに……この国の命運を……託し……ます。どうか……この国を救ってください」
真理は光に包まれて姿が消える。
「あなた、彼女を何処に転移させたのですか?」
「さぁ? 逃がす……ので必死でしたので……ごほっ!! 少な……くともイスフェシア皇国には……いないでしょう……ね」
「死にたいのですか?」
「待ちなさいラピス、反逆行為を働いたとはいえこの方々は私の大切な人達です。アルメリア、彼女達の治療をお願いします」
「承知致しました。あなた達、彼女達に魔封じの腕輪を付けて医務室に運びなさい」
「はっ!」
騎士達はモーレア、ウインチェル、ラルマ、ミーアに魔封じの腕輪を付けて担架で医務室に運ぶ。
マリーは玉座まで歩く、かつてこの玉座は自分が座っていたが長い間この城を留守にしていた所為か懐かしく感じる。玉座に座って一息つくとゼルンにイスフェシア皇国とデスニア帝国は同盟関係を結んだことをエメキア・ディエナ女帝に伝えてと依頼する。ゼルンは「仰せのままに」と言い、アイテムを使って黒い扉を出現させてデスニア帝国へと転移した。
一方、ガヘナではオゼットが放った『ホーリーウォーターストリーム』によって湖のような地形へと変化している。オゼットは湖から陸へとあがる、ずぶ濡れになった服がとても重く感じる。服を絞りながら平地まで歩く。そしてその場に倒れるように仰向けに寝る。
オゼットが持つエメラルド色の剣が光り出し点滅している。この剣『ライフ・セイバー』はファンタジー・ワールドだと装備している間、所持者のHPを少しずつ回復し続ける効果を持つ。この世界では傷や疲労を回復してくれるみたいだ。
レイブンとあのゴーレムは湖の中だろう。『ホーリーウォーターストリーム』の水圧で地面を削って湖の深さは約200mぐらいだと思うから少なくともゴーレムは地上に上がっては来ることは出来ないはずだ。
「真理達は大丈夫だろうか?」
ふと、頭の中で真理の姿が横切る。
『アブソリュート・ゼロ』で帝国兵はほぼ全員が氷結して動くことが出来ないしゴーレムは湖の中に沈んだからテレン聖教皇国の騎士団は再び帝国に攻撃を仕掛けると考えられる。
イスフェシア皇国は帝国の攻撃に備えて臨戦態勢をとっていてもしも帝国兵が襲撃し皇国内に侵入、またはレイブンが皇国に現れた場合は仲間達が連絡石で教えてくれる手筈になっている。特に連絡が来ていないということは今のところは問題ないと思って大丈夫だろう。
今は休んで回復しきったらテレン聖教皇国の騎士団と共に帝都ディシアに侵入し、マリー・イスフェシアを救出して帝国の女帝を倒す。そうすればイスフェシア皇国は平和を取り戻して俺と真理は元の世界に帰れるだろう、しかしこの世界での暮らしはとても充実している。元の世界に帰える必要はあるのだろうか?
そう考えているうちに地震が起き始める。揺れは段々と激しくなってきて思わず立ち上がると湖からブクブクと泡が上がって来てその後、あの巨大なゴーレムが浮上してきた。
「ウオォォォォォォォォォォォォ!!!!」
「馬鹿な!?」
まさか泳いで浮上してきたのか?いやあの装甲に等しい強度の皮膚や重量的に無理だ、よく見ると腕が地面についているということはこのゴーレム……いやジンマという名前だったか、こいつはここまでよじ登って来たという事になる。『アイアンドーム』は『ホーリーウォーターストリーム』によって壊れてしまって、それが裏面になるとは考えもしなかった。
正直、レイブンとの戦闘で体力も僅かで疲労も激しい、まともな戦闘は難しい。しかしここでこいつを止めなければイスフェシア皇国とテレン聖教皇国が危ない。
「ヒールリカバリー!」
自身に回復魔法を使い、力を振り絞ってジンマの足に剣を振る。
ガキンッ!!
相変わらず、剣が奴の皮膚に刺さらない。ジンマはオゼットを無視し前進し始める。方角的にテレン聖教皇国へ向かっているみたいだ。どうすればこいつを止められる?魔法も物理攻撃も効かないチート能力がある限り、こいつを止めるなんて海にでも沈めて窒息させるぐらいしか考えられなかったからレイブンごと湖を作って底に沈めたのに……。
「どうすれば、どうしたらいい!?」
少し頭が熱くなり過ぎて考えが思いつかない……、一旦冷静になろうと深呼吸をする。
まずはもう一度『アイアンドーム』で動きを封じよう、こいつの始末の方法を考えるのはそれからでも遅くはない。
地面から巨大な鉄壁を召喚しジンマの動きを止めようとするがジンマは学習したのか、地面から出て来る鉄壁が上りきる前にジャンプしてヒョイッと鉄壁を通り越して前進を続ける。そんなの有りかよ……。
とにかく別の方法を考えよう。あのチート能力を持ったゴーレムを止める、もしくは倒すには同じくらいのチート級の方法を使うしかない。
「チート級……とんでもないやり方……何かないか」
一度IMSPの画面を開いて自分が持っているスキル、魔法、武器の一覧を表示して閲覧を始める。相手の能力を無効化するスキルや魔法は持っていないし、『アブソリュート・ゼロ』などの究極呪文は発動に時間が掛かるし発動すれば少なくともジンマから逃げて行ったテレンの騎士団に被害が及ぶ、下手するとテレン聖教皇国まで届いてしまう可能性もあってそうなると国が滅びかねない。
そういえばレイブンは「こいつには物理攻撃と魔法攻撃は効かない能力がある」と言っていたな、攻撃は効かないが“魔法の効果”は通用するのか?例えば相手を火傷状態にしたり、毒状態にするデバフ系の魔法とか……試してみる価値はある。
「『ポイズンミスト・ウイルス』!!」
この魔法は霧を発生させ霧を吸った対象者を毒状態にするデバフ系の魔法だ。ジンマが呼吸しているかどうかは先程、湖から上がってくる時に気泡が出ていることが確認出来ているから呼吸はしていると思う。
「続けて、『リーディング・ステータス』!」
『リーディング・ステータス』は対象者のステータスを見ることが出来る補助魔法だ。目の前にジンマのステータス画面が表示される。毒状態には……なっている! つまりこいつは魔法の効果は通用するということが分かった。ならば、人間相手に使うのを躊躇っていたこの武器であの化け物を倒す!
「-目覚めよ、黄金の魂! その魂はあらゆる絶望から生命を守る希望の光なり! 降臨せよ! オメガ・アイギス!!-」
左手を目の前にかざして詠唱を唱えると光が集まり、黄金の盾が具現する。
この盾『オメガ・アイギス』は防いだ攻撃を無力化し、盾の表面または盾から展開されるフィールドバリアに触れたあらゆる物を光粒子に変換する効果を持つ。ただし、この盾には制限時間が存在し、3分が限界でそれ以上使用し続けると使用者が光粒子に変換されるデメリットがある。
本来この盾はあらゆる攻撃を防ぐための武器ではあるが、この盾を使って相手に突撃して盾の表面に触れてしまえば、相手は光粒子になる。
「行くぞ! おりゃああああああああああああああああ!!!」
『オメガ・アイギス』からフィールドバリアを展開しジンマに突進する。ガヘナは激しい光に包まれた。




