45話 終焉のカウントダウン(中編)
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」
ゴーレムの近くまで移動し、まず奴の進行を阻止するために足を切り落とそうと剣を振る。
ガキンッ!
なんて硬い、もはや皮膚というより装甲に近いな……そして今の一撃でゴーレムがこちらに気付いた。
ゴーレムは地面を叩いて地割れを起こす。すかさずゴーレムから距離を取るとゴーレムは割れた地面を掬い取りオゼットにいる方向に投げる。
「おらぁ!!」
飛んできた地面を真っ二つに斬り、再びゴーレムに近づいて今度は頭を刺そうとするが剣の刃先が刺さらない。
ゴーレムは頭に乗っているオゼットを腕で払う。オゼットはそのまま地面に激突した。
剣による攻撃がまるで効かない。ならば魔法での攻撃ならどうだ。
「龍炎双牙!!」
両腕から炎の竜がゴーレムの頭に喰らいつく。ゴーレムは視界を奪われて立ち止まるが、炎が消えたとたんに何事もなかったかのように動き出す。
「あははははは!こいつは愉快だな」
ゴーレムの近くにレイブンが現れる。
「レイブン!このゴーレムはお前の仕業か!」
「そうだ、こいつはジンマというこの世界に伝わる古の巨人兵だ。こいつには物理攻撃と魔法攻撃は効かない能力がある。さぁジンマよ。思う存分に暴れてこい!!」
「ウガァァァァァァァァ!!」
ご丁寧に能力を説明してくれるとはなんて親切な野郎だ。しかも物理攻撃と魔法攻撃が効かないとかどんなインチキ効果だよ。こいつに弱点とかないのか?
ジンマはオゼットを無視してテレン聖教皇国に向けて前進する。このままではテレン聖教皇国が滅茶苦茶にされてしまう。
「そうはさせるか!アイアンドーム!!」
ジンマの周りの地面から巨大な鉄壁が出て来てジンマを包み込む。これで少しは進行を阻止できる、後はレイブンを倒してこいつの倒す方法を聞き出してやる。
オゼットは『タキオンソニック』を発動してレイブンに近づき剣を振る。しかしレイブンは斬撃を避け、大鎌で反撃をする。
「覚えが悪いな、そんなの俺には通用しないって」
「まだまだぁ!」
レイブンに向かって剣を振り続けながら詠唱を唱える。するとレイブンの周りに複数の魔法陣が展開される。
「またあの時みたいに地雷魔法を発動する気か? その手には乗らねぇ」
レイブンは距離を取って『グラビティ・プレッシャー』でオゼットの動きを鈍くする。その後、手のひらから黒い球体を作り出しオゼットに目掛けて放つ。
「グラビティ・キャノン!」
「ぐあぁ! ……魔法陣開放! プロミネンスフレア! プラズマチェーン! ロックレイン!」
先程展開した魔法陣から炎の渦と電気を帯びた鎖がレイブンを襲う。
レイブンは瞬時に別の場所に現れるがその先に拳サイズの岩石がレイブンのもとに降ってくる。即座に大鎌を回転させ岩石を弾くが、余りにも数が多すぎて捌ききれない。
何回か戦ってわかってきたが、どうやらレイブンの能力は2つのタイプが存在するみたいだ。一つはこちらが攻撃すると必ず防ぐ、もしくはかわしてくるタイプ、もう一つは相手の背後に回るか別の場所に瞬時に移動するタイプだ。一つ目のタイプは連続で能力が発動できるみたいだが、二つ目のタイプは連続で能力を発動することが出来ないようだ。次の能力を発動出来るまで約3~5秒ぐらいのタイムラグが発生する。奴を倒すにはその隙を狙うしかない。
オゼットは『タキオンソニック』でレイブンに近づいて拘束する。
「抱きついてくんな、気持ち悪い!」
「悪いが、ここでお前を確実に倒す。……天の泉よ、その聖水で邪悪な闇を洗い流せ!!」
オゼットはレイブンを拘束したまま詠唱を唱える。すると天上に巨大な魔法陣が出現し、回転し始める。
魔法陣から球体状の水の塊のような物が出て来る、この水は全て魔力で出来ている。魔力の塊は破裂して、こちらに目掛けてすごい勢いで流れ落ちてくる。滝と言うよりも巨大なウォータージェットに近い。
「名付けて、『ホーリーウォーターストリーム』!!」
「ダサい!!」
レイブンとオゼットはこの『ホーリーウォーターストリーム』に直撃する。魔力の水は周辺の大地に激しく飛び散りそこの一帯は雨のように降り始めた。
一方、イスフェシア皇国ではデスニア帝国の兵士達が攻め込んで来ても迎撃出来るように騎士団を配置し、国の周囲には防御魔法の結界を展開している。真理達は城の中でテレン聖教皇国と連絡を取りつつ、北西の方角に突如として現れた巨大なゴーレムについて調べていた。
「どう?ウインチェルさん、何かわかりましたか?」
「ダメですね、書物庫ではあのゴーレムについて書かれている資料はありませんでした」
「そうですか……テレン聖教皇国の人達にもあのゴーレムについて調べてもらっているのですが、連絡はまだ来ていません」
ウインチェルは使い魔を使ってガヘナを中継し、水晶でオゼットがゴーレムを鉄の壁で進行を防いでレイブンと戦っている描写が映し出されている。いくら彼が異常な強さを持っていてもあのゴーレムに勝てるとは限らない、早く対策を考えなければテレン聖教皇国とこの国はゴーレムによって滅ぼされてしまうであろう。
「うん?」
「どうしたの、ミーアちゃん?」
「あれ……」
ミーアが指をさす方向に黒い球体が浮いている。少し様子を見ると黒い球体は扉の形に変わり、扉が開くとラピス、ゼルン、ラーシャが現れた。
「ごきげんよう、皆さん」
モーレアとウインチェルは直ぐに真理の前に立ち武器を構える。
「どうして?イスフェシア皇国には転移魔法が使用できないように結界を展開しているのに」
「結界? ああ、先程結界を維持していた石を見つけましたので、全て破壊させていただきました」
「は! 敵拠点のど真ん中に来るたぁ、良い度胸じゃねぇか。まとめてぶった斬ってやるぜ!」
「いえ、今回は戦いに来たわけではありません。皆さんとお話をしに来ました」
ラピスは黒い扉に手を差し伸べると扉から誰かの手が出て、それを掴み優しく引っ張ると一人の女性が現れた。青黒い髪の女性を見て全員が驚く。その中でも一番驚いたのは真理だった。
「あ、あなたは」
「こうしてみると本当にそっくりですね、まるで鏡を見ている気分です。初めまして真理さん。私はイスフェシア皇国第三女皇、マリー・イスフェシアです」
「何故……何故陛下が帝国の者達と一緒にいるのです!?」
「久しぶりですねモーレア……でも“陛下”だなんて他人行儀ではなくて、いつものように“マリー”って呼んで欲しいな」
「っつ!?」
「マリー様……」
「ミーアちゃん、ラルマ君、心配かけてごめんね。でももう大丈夫よ。私は帝国の女王とお話をして和平を結んだの。これからはもう帝国と争う必要はないのですよ」
マリーの一言で二人は衝撃を受ける。帝国は二人の住んでいた村を焼き、両親を殺した敵である。村を焼かれた後、ベリアを彷徨っていた二人は飢えて死にそうな所をマリーに拾われた。その命の恩人が自分達の両親を殺した者達と一緒にいる上に和平を結んだと言う。
「な、何を言っているのマリー様?」
「だって帝国は何度も村に襲ってきて……僕たちのお母さんとお父さんを殺した敵なんだよ?そんな国と仲良くなんてできないよ!」
「確かに帝国とは幾度も戦い、多くの命を落としてきました。しかしこの負の連鎖は断ち切らなければいせません。平和を願って戦った者たちのためにもデスニア帝国とイスフェシア皇国……いえ、全ての国は武器を捨て、手を取り合う必要があるのです」
マリーが話した後に合わせてゼルンとラピスが前に出て詩を歌うかのように発言する。
「そこで我々帝国はイスフェシア皇国を始めにテレン聖教皇国とエンペリア王国、コンダート王国とも和平を結び、やがては世界中の国と手を取り合って争いのない世界にしようと計画しているのです」
「さぁ、皆さん武装を解除してください。そしてテレン聖教皇国にも話をして共にこの世界から争いを無くしていきましょう」
突然の展開に皆動揺を隠せないでいる。今まで帝国がしてきたことを考えればその言葉を信じることなんてできるはずもない。現に帝国は巨大なゴーレムを使ってテレン聖教皇国を襲撃している中、和平を結ぼうといっている。嘘を言っているようにしか聞こえない。
「ではあのゴーレムについてはどう説明してくれるのですか?あんな巨大な兵器を所持している帝国と和平を結びたいと思う国はいないと思うのですが……」
「あのゴーレムは戦争を無くす抑止力です。戦争をしようとする国にはあのゴーレムを使って戦争する意欲を失わせる、そして話し合って戦争をするが無意味だとわからせます」
「……俺はとても信じることはできない話だな」
モーレアは剣を握り構えるとそれに続いてウインチェル杖を持って構える。
「ハーゲン皇帝から聞いたぜ、帝国からイスフェシア皇国の領地を奪わなければテレン聖教皇国をこの地図から消すと脅されたってな」
「それにアーザノイルの精肉工場でマジックパウダーを製造し、モンスターや人を凶暴化させた人物が言うことを信じることなんて出来ません」
「そうだよ!マリー様は帝国に騙されるんだよ!!」
「もしかしたら、操られているかもしれない。だったら僕たちが助けなきゃ!」
ミーアとラルマも武器を構える。それを見たゼルンはやれやれとため息をついた後、マリーに攻撃の許可をもらうと白衣から真理やオゼットがいた世界の武器である拳銃を取り出し、モーレア達を撃った。