41話 皇国サイド
レイブン達の襲撃から1週間が経ち、アルメリアの治療魔法安静のおかげで体の怪我や痛みはほとんどなくなっていたが、アルメリアからはフェリシアと同じように今後IMSPの長時間の使用と連続での使用は控えるように言われた。彼女が言うには検査の結果、俺の体の神経や筋肉に傷があるのが発覚したらしく、長時間の激しい行動をし続ければ傷は拡大して筋肉組織はボロボロに……最悪な場合は脳神経に深刻なダメージを与え、記憶障害になる可能性があるらしい。
「……想像するだけで恐ろしい」
「なら言うことを聞くことね。ちなみに真理ちゃんの伝言でこの後、王宮の間でミーティングが有るから忘れずに参加してね」
アルメリアは他の患者の所に診察しに行く。とりあえず王宮の間に向かうことにした。
王宮の間に向かうと真理、モーレア、ウインチェルが集まっている。3人の所に近づくとウインチェルが気づいて挨拶をする。
「アルメリアは患者の診察が終わった後に来るから先にミーティングを始めるか」
モーレアは3人に資料を配ると近日中にイスフェシア皇国で起きた事を話す。
レイブン達の襲撃の影響によってベリアでは商店街や路上の一部などが破壊されてしまった事から商店街の店員とソルジェスのメンバー達が協力して街の修理をしており、イスフェシア城も城壁や城門などが破壊されてしまったのでモーレアが率いる騎士達で復旧作業に取り組んでいる。
負傷者に関しては商店街とその周囲に住んでいる人々に怪我人はいないとのこと、イスフェシア城では負傷者は32名、死者は19名で負傷者は城の医務室で応急処置を受けた後、近くの医療施設に搬送された。
エンザントではベリアとの間にある高山にトンネルを作る計画が進行している。予定では後1ヶ月半で作業が完了するとのことだ。無事にトンネルが完成すればベリアとエンザントでの物質の輸送が容易になる。
次にウインチェルがテーブルを召喚し、水晶を置くと水晶から映像が流れ始める。これは前回ベリア中に召喚した使い魔の一匹がオゼットとレイブンが戦闘しているところを記録したものだと言う、これをどうやって録画したのかを質問すると使い魔の脳から記憶を取り出し、水晶に保存したらしい。
「これを見てください。レイブンがオゼットさんを攻撃する時に瞬間移動して大鎌で斬っているのですが、知っての通りこの国には私とミーアちゃん、城の魔術師達の協力で国中に転移系の魔法や能力が発動できないように結界を展開しています」
確かにこの国内には離れた場所に瞬時に移動、転移できるテレポートやゲートなど転移魔法やそれに類似した能力は使用できないはずなのだが、レイブンは結界の効果の影響を受けずに発動している。この水晶の映像を見る限り“何か”違和感がある。
改めて説明をすると魔法を発動するにはいくつかのタイプがある。例えば詠唱して魔法を発動するキャストタイムタイプ、これは魔法陣を展開して詠唱をすることによってその魔法が発動できるというものだが、低級魔法なら詠唱しなくても発動はできる。しかし中級~上級魔法になるにつれて詠唱時間は長くなる。ウインチェルみたいに魔法を熟知していれば詠唱しなくても発動できる者もいるがレイブンはそのタイプには当てはまらない。
次に詠唱なしに魔法を発動できるリキャストタイムタイプ、詠唱なしで瞬時に発動ができる代わりに同じ魔法を再度発動できるまで時間が掛かるタイプの魔法だ。これもレイブンが使っていた転移魔法には当てはまらない。
そもそも結界の中で転移系の魔法や能力が発動できる時点でおかしい。この謎を解かないとレイブンに勝つことは難しいだろう……何か弱点とかないものか。
「次にこの転移魔法を発動~発動後の移動についてコマ送りします」
ウインチェルは水晶を操作し、映像を0.1秒ごとにコマ送りをする。とても難しい顔をしながら水晶を操作するとレイブンが転移魔法を発動して0.1秒も立たずにオゼットの目の前に現れている。もしもこれが俺のスキル『タキオンソニック』みたいな高速移動タイプの魔法、能力ならば同じ高速移動タイプを発動している状態の俺の目に奴が移動している姿が見えないのもおかしい、『タキオンソニック』は音速から最大で光速までの速さで行動できる。つまりレイブンは『タキオンソニック』より速い……もしくはそれ以外の魔法か能力を使っているとしか考えられない。
「何か考えられる魔法、能力はないかな?」
「これはトリックだよ、分身を使ってそこにいると見せかけて本体は透明化の魔法を使って常に相手の隣にいる。そして分身解除と同時に本体が現れて斬る!っとか」
「それだと城門前にいた騎士達を斬った説明ができないですよ。あの時レイブンは城門前まで瞬間移動してきて大鎌を一振りしたのですが、大鎌では届かないはずの騎士までも斬ったのですからそれは考えにくいです」
「連続で発動しているっぽいから魔法ではなく能力の可能性が高いよね。」
「連続で発動しているって、そういえば……城門前で奴が俺達に重力系の魔法を使った時……俺が立ち上がって奴に斬り掛かろうとした時に同じ魔法を使ったよな?あれもおかしくないか?」
「確かに……リキャストタイムタイプの魔法なら低級魔法以外の連続発動は不可能ですし、仮に魔法を熟知して詠唱時間を短くできたとしてもあんなに早く同じ魔法を発動するのも出来ないはずです」
「まるで、詠唱時間を消し飛ばしているみたいだね」
真理が「詠唱時間を消し飛ばしている」と言った時、レイブンが腕に付けていたG-〇HOCKに似た腕時計を思い出し、脳でキュピーンっと閃く。
「奴は俺のIMSPみたいな物を持っていた。もしかして奴の能力は時間を消す……いや、“時を止める”事が出来る能力なのでは?」
オゼットの発言でその場にいた皆が固まる。モーレアがそんなのあり得るのかと聞き返すとウインチェルはレイブンがオゼットと同じ様に召喚された転移者なら充分あり得ると答える。もしも本当にレイブンの能力が“時を止める能力”ならどうやって対抗すればいいのだろうか。
一方、ミーアとラルマは食堂でラーシャの事を考えていた。彼女は帝国の人間でレイブンの仲間だった。しかしエンザントの妖精の森で共に妖精を助けるために盗賊と戦い、この城で遊んだり食堂で一緒に料理を食べた友達でもある。今後、彼女と会った時にどう接すればいいのかわからないでいる。
「ラーシャちゃんはあたし達のことどう思っているのかな?」
「わからない……でもあの時、ラーシャちゃんの電撃魔法を受けたけど、あれが本気だったら僕は死んでいたかもしれない」
「あたし、あのままラーシャちゃんと戦ったら……」
「ミーアちゃん……」
ラルマは震えているミーアの手を優しく握る。そんな二人のテーブルにフルーツタルトが置かれる。
「二人共、元気ないね。どうかしたのかい?」
「料理長さん」
彼はこの城にある食堂の料理長、いつもこの城の騎士達の昼食は料理長が率いる料理チームが作っている。最近は陛下が食堂で食事をしていることから騎士達からの注文が殺到して忙しいらしい。そんな料理長は二人が落ち込んでいる姿を見て心配してフルーツタルトをサービスしに来たのだ。
ちなみに料理長は自身の名前を何故か教えてくれない。
「どうしたんだい。友達と喧嘩でもしたの?」
「どうなんだろう……友達なのか敵なのかわからないんです。」
「一緒に遊んだことがあるなら“友達”だと思うよ」
「でも……その人を殺そうとしたんだよ?もう次に会ったとしても仲良くできないよ……」
ミーアは涙目になりながら言う。料理長は優しく微笑みながらハンカチで目元を拭く。
「大丈夫だよ。喧嘩したならまずはちゃんと謝って、それから仲直りをしればいいんだよ」
「仲直り、できるかな?」
「できるよ。ミーアちゃんとラルマ君だって何回も喧嘩したことあったでしょう?そしてその度に仲直りできている、だから二人ならその友達とも仲直りできるよ。」
「…………うん!!料理長さん、ありがとうございます!!」
「いただきます!! うん!おいしい!!」
ミーアとラルマはフルーツタルトを食べて、その後部屋へと戻ってラーシャと仲直りする為の作戦会議を始めるのであった。
話は戻り王宮の間にて、レイブンの能力が仮に“時を止める能力”なのであればそれに対抗できる手段はあるのか、それぞれ意見や提案が飛び交うが時を止められてしまえば何も出来ないので有効な手段が見つからない状態である。そんな中、アルメリアが王宮の間に到着し、到着したことでミーティングは次の段階に進む。
アルメリアは先程オゼットに言ったIMSPの件の話を3人する。その上でウインチェルにIMSPをより安全に改良できないのかを提案するとウインチェルは試してみると了承してオゼットからIMSPを借りて研究室に向かおうとする。
IMSPの改良が完了するまで暇になったので久しぶりベリアを散歩しようと考えたが、真理に一旦止められる。
「どうした?」
「せっかくだから私も一緒に行くわ」
それを聞いてウインチェルは振り向く。
「え、二人で……ですか?なら私も」
「ウインチェルちゃんは残念だけど私と一緒に楽しい研究の時間よ」
アルメリアはしょんぼりな表情をしたウインチェルを引っ張って研究室に向かう。
オゼットは真理と一緒に城を出てベリアを散歩しに行くのであった。




