4話 イスフェシア皇国へ
狼を倒し、都の商人二人とギルドの傭兵レバンを助けたオゼット(翼)は、彼らと一緒にイスフェシア皇国の首都であるベリアに向かうことになった。
「ここが、ベリアだ」
「賑やかな町ですね、何かとても良い匂いします」
そういえば、ここの世界に来てから何も食べてないと思い、香ばしい“何か”の匂いを嗅ぐとお腹を鳴らしてしまう。その音を聞いた女商人はクスッと笑う。
「ふふふっ、ここベリアの名物はウサギのハーブ焼きがとても美味しいですよ」
「へ~、ウサギの肉ですか? 食べたことがないなー」
「ここの観光は楽しいですよ? それと良かったら私の店にも寄ってくださいな。サービスしますよ」
「話の途中、すまないが着いたぞ」
到着した場所は、ギルド施設『ソルジェス』、ここはモンスターの討伐や素材、物資の調達、護衛任務など様々な依頼を引き受けている。今回レバンは、女商人の依頼でテレン聖教皇国からイスフェシア皇国まで護衛をしていたらしい。
「あなたも無茶苦茶な依頼をするよな。護衛任務を俺一人でやらせるんですから」
「あら、その代わりにお礼は弾むと言ったら一人で行くとおっしゃったのはどなたでしたっけ?」
「最初は良かったけど、最後のは危なかったですよ。もしオゼットさんがいなかったら私達は今頃、狼の胃袋にいることになっていたでしょう」
「それもそうね、命あっての物種ですし、次からは気を付けるわ」
そう言って女商人はレバンに今回の依頼の報酬を払う。レバンは報酬を貰った後、受付にいって何やらカードを渡している。オゼットは気になってレバンに尋ねてみた。
「そのカードは何ですか?」
「これは、ギルドカードだよ。知らないのか?」
「すいません。世間知らずな者なので……」
「マジかよ。このカードには特殊な魔石か組み込まれていて、中にはランク、戦績、今まで受けた依頼の履歴や今受けている依頼の内容などの個人情報が入っているんだよ。」
なるほど、いわゆるそのカードの魔石はICチップみたいな役割をしているのか。
「教えて頂き、ありがとうございます。そして今回はお世話になりました。では私はこれで……」
オゼットはレバンに一礼をして、その場を立ち去ろうとする。早く真理を見つけないと殺人鬼やモンスターに殺されるかもしれない。しかし、レバンに肩を捕まれ、止められる。
「まあ、待てよ。お前さん人を探しているんだろう?なら俺達のギルドに入いらないか?」
確かにギルドに所属すれば真理や殺人鬼の情報が入ってくるかもしれない。所持金の確保もできる。しかし所属した場合、行動出来る範囲が限られてしまうのではないか?
「私はいろんな国を渡らなければならないので、この国で探している人が見つからなかったら直ぐにでもこの国を出るんですよ。申し訳ありませんが……」
「そうか?ギルドカードを持ってれば、身分証にもなるぜ。この先、宿とか武器屋に行くんだったら必要にな…」
オゼットとレバンが話をしている時、入口の扉をドンっと強い力で開けて誰かが入って来た。よく見ると10歳ぐらいの子どもだった。少女はオゼットを見たとたんに走って近づいてきた。
「やっとみつけました!!」
「へ? 俺?」
「そうです!! あたしが召喚した勇者様!!」
「召喚?勇者様?」
何を言っているのかわからなかったが、そういえばあのクソ女神が言うには俺をこの世界に召喚した召喚士がいるって言っていたな。しかもその召喚士の願いを叶えなければ、元の世界に帰れないとか。オゼットと少女の会話にレバンが割って入ってくる。
「おいお嬢ちゃん、悪いけど今取り込み中なんだよ。それにここはお嬢ちゃんが来る所じゃな…」
「お嬢ちゃん?…ぶれいもの!!あたしはイスフェシア皇国の王女様の召使い。ミーア・プレリーだぞ!!」
「ミーア・プレリーだって?あの皇国最年少の大召喚士って噂の? それにしては、いくら何でも幼すぎだろ。噓をついちゃ駄目だぜ、お嬢ちゃん」
「噓じゃないもん!本当だもん!! おいで!スライムナイツ!!」
ミーアが右手を上げた瞬間、下から騎士の姿をしたスライムが5体召喚され、レバンを囲む。
「これは、見たこともない召喚獣だ。しかもキャストタイム(詠唱時間)なしで!」
「えっへん!すごいでしょー!!」
ミーアは自慢げに言う。魔法を発動するにはいくつかのタイプがある、例えば詠唱して魔法を発動するキャストタイムタイプ、これは魔法陣を展開して詠唱をすることによってその魔法が発動できるというもので低級魔法なら詠唱しなくても発動はできるが、中級~上級魔法になるにつれて詠唱時間は長くなるが、魔法を熟知していれば詠唱しなくても発動できる者もいる。
次に詠唱なしに魔法を発動できるリキャストタイムタイプ、詠唱なしで瞬時に発動ができる代わりに同じ魔法を再度発動できるまで時間が掛かるタイプの魔法だ。基本的に魔術師はこのタイプを使用する事が多い。
他にもアイテムを消費して発動できるタイプや武器の能力を使用して発動できるタイプなどいろいろあるがこの幼女は詠唱をしないでモンスターを複数体召喚したのだから只者ではないだろう。
「でも、無暗に人に剣を向けるのは危ないよ。良い子だから召喚獣を戻して、ね。そして三人でお話をしようか?俺はオゼットだ、よろしくね。あそこにいるのはレバンさんだ」
オゼットはミーアに優しく問いかける。ミーアは召喚したスライムナイツを戻し、テーブル席に着いた。レバンは安心したのか、その場で膝を着いた。少し落ち着いたら二人はミーアが座っているテーブル席に座る。
「ミーアちゃんは何か飲みたい物ある?」
「ココア!!」
「そんなのこのギルドにはないって」
ミーアはレバンの言葉にショックを受け、落ち込む。落ち込んでいる姿を見た受付のお姉さんがミーアにオレンジジュースを提供する。ミーアは元気になり、お姉さんにお礼を言う。
「さて、話を整理しようか? まずはミーア、どうして俺を召喚したんだい?」
「えっとね、今イスフェシア皇国は大変な事になっているの。隣の国の人達がね、戦争するって言うの」
「隣国と言えばテレン聖教皇国か、冗談にしては笑えないな」
「噓じゃない!隣の国に行っている時に騎士達が話をしていたんだよ!この国を乗っ取って、この国の人達を殺し、自分の国にするって……だからあたしは急いでお城に戻って、師匠から教えてもらった勇者召喚の儀式をして勇者様に助けてもらおうとしたんだけど…失敗しちゃって……」
ミーアの眼は段々、涙目になって必死に泣くのを堪えている。なるほど、だから俺は森の中で目覚めたというわけか、オゼットは涙目になっているミーアの頭を撫でる。ミーアは泣き崩れオゼットに抱きついた。
「辛かったよね、よく頑張ったね。えらい、えらい」
「いきなり信じろってのは難しいけど、その話が本当ならかなりやばいな」
レバンはオゼットに彼女の話を信じるのかを問いかける。正直に言うとわからないけど、この子が噓を言っている様には思えない。そしてこの話が本当ならば今の内に対策を練らないとこの国は大変な事になるだろう。
「よーしわかった。確かにこの嬢ちゃんは只者じゃなさそうだし、信じるよ。俺はこれから情報入手しにテレン聖教皇国に行って来こようと思う。何かあればギルドに伝書鳩を送って連絡する。ただ、ギルドの伝書鳩の手紙を見るためにはギルドカードがいる。だからギルドカードを発行してくれ。そうすればお互いに得をするだろ?」
「わかりました。あまりギルドのメンバーとしては活動出来ないですが、それでよろしければ…後、少しお願いがあります」
オゼットはレバンに真理と殺人鬼の特徴を話し、その情報を集めて欲しいと頼んだ。
「わかった。じゃあ、これからもよろしくな!」
そう言ってレバンはギルドを出ていった。オゼットは受付に行きギルドカードを発行し、ミーアと一緒にイスフェシア城に向かうことにした。
城に向かう最中、オゼットはある事を思い出し、ミーアに尋ねる。
「ところでミーアちゃん、君が俺を召喚したんだよね?これのこと何か知っているかな?」
オゼットは最初に目を覚ました時に持っていた、an○roid似の端末を見せる。
「それはね、うーちゃんが作ったIMSPだよ!」
「うーちゃん?IMSP?これはどんな物なのかな?」
「えっとね、それを持っているとね、おにいちゃんがいた世界の魔法が無限に使えるんだよ!!」
さらっとミーアは答える。魔法が無限に使えるのは普通にすごいが、俺がいた世界には魔法が存在しない。しかしさっきの狼との戦闘では俺がやっていたゲーム『ファンタジー・ワールド』の武器と魔法が使えた。もしかすると俺がいた世界ではなく、ファンタジー・ワールドの世界の武器と技、そして魔法が無限に使えるのでは?と考えた。
「でもそのIMSP壊れちゃっているね」
確かに、この端末は未だに電源が入らない。狼に襲われた時は一瞬だが電源が入って機能した訳だが…。
「後でうーちゃんの所に行って直してもらおうよ。」
ミーアはそう言って城の入り口まで走っていく。オゼットも彼女を見失わない様に後を追っていくと、城の入り口までたどり着き、門番に門を開けてもらう。ミーアはオゼットに振り向いて楽しそうに言う。
「イスフェシア城にようこそ!おにいちゃん!!」
ミーアはオゼットの腕を引っ張って玉座の間に向かう。そこには女皇と思われる女性とミーアと同じくらい年齢の男の子と角が生えた大柄な女性がいる
「マリー様!!勇者様を連れて来ましたよ!!」
女皇を見た瞬間、オゼットは自分の目を疑った。まるで一瞬、時が止まった様に凍りつく。
「な…」
「初めまして勇者様、私はマリー・イスフェシア。この国の女皇です」
青黒いロングヘアで落ち着いた態度、見間違えるはずもない。その女性はオゼットが昔からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染……真理だった。