39話 転移者VS転移者
真夜中の街で鉄と鉄のぶつかり合う音や魔法で発生した爆発音が聞こえる。普通なら爆発音や騒音が聞こえれば、周辺に住んでいる人々は起きて様子を見に来るだろう。
オゼットは予めに『サイレント・エア』という特殊な結界を展開している。この結界はその中で騒音が鳴っていても結界の外からは聞こえない仕組みになっており、そのおかげで街の人々はこの戦いに気づいてはいない。
「同じ転移者とはいえ、この程度の実力で帝国に刃向かってんのか、もっと俺を楽しませてくれよ」
この男の魔法もしくは能力がわからない。この国にはウインチェルとミーアが転移魔法を封じる結界が展開しているのにもかかわらず、この男は転移魔法か何かで瞬時に近づいてくる。タキオンソニックを発動しても発動した瞬間にカウンターをしてくるかのように攻撃してくる。いったいどんなトリックを使っているんだ。
「このっ!!」
こちらが剣を振っても避けられるか防がれれて相手にダメージを負わせられない。魔法も範囲攻撃で攻めれば当たるかもしれないが、それだと街に被害が出てしまう。迂闊には使えない。
レイブンの大鎌による激しい攻撃が続く、タキオンソニックで距離をとってもすぐに近づいてくるので、攻撃を回避することができない、防戦一方の状態だ。
「『ダークネス・パニッシャー』!!」
レイブンが魔法を唱えると上から黒い魔力の塊がオゼットに落ちてくる。体が痺れて重くなっていく。
「ぐああああああ!!」
「つまらないな、そろそろ終わりにするか」
大鎌を肩に担いてゆっくりと近づいて来る、レイブンの使うあの力を解明しなければ勝つことはできないだろう、……一か八かだがやってみるしかない。スキル『アイテムゲート』を使用して空間から煙玉を持つ、それを地面に投げると周囲に煙が舞う。
「ふん、小賢しい」
レイブンは大鎌で煙を薙ぎ払い、オゼットがいる場所まで接近する。オゼットはライフ・セイバーで応戦するが攻撃が弾かれて、腹を蹴られ吹き飛んだ。オゼットが吹き飛んだのを見て「ざまぁないぜ」と笑うレイブンの足元から魔法陣が現れ、光出した後に爆発する。
なにが起きたかわからずに爆発に巻き込まれたレイブンにすかさずオゼットは近づきライフ・セイバーでレイブンの体を斬る。初めて奴にダメージを与えた瞬間だった。
「……何が起きた?」
「煙玉を投げた後に『フレア・マイン』……つまり、魔法の地雷を仕掛けさせてもらった。お前は調子に乗って俺に近づいて罠に掛かったって訳だ。へっざまぁないぜ」
「きさまぁあああ!!……うぐっ!?」
レイブンが反撃に出ようとするが、先程のダメージが効いた所為でよろけてしまい膝をつく。このチャンスを逃すまいと連続で魔法を放ってダメージを与える。
「『ブリザードランス』!『サンダーインパルス』!『フレイムストーム』!『アクアレーザー』!『スターダストメテオ』!!」
「ぐおあああああ!!」
「これで止めだ! 秘技、『閃光雷刃』!!」
タキオンソニックで近づき横一線の斬撃を入れるとレイブンは倒れた。ゆっくりと近づいて生きているかを確認すると仮面越しではあるが呼吸をしていることがわかる。この男を捕まえて元の世界に帰り“連続誘拐殺人犯”として警察に突き出せばもうこいつによる犠牲者が出ることはないだろう。
念のためにこいつの装備品を探ってみる、こいつが俺達の世界から来たなら俺のIMSPと同じか似たような物があると思ったからだ。マントの中からは連絡石しか見つからず、他に何かないかを見ると手袋で隠れていいて今まで気が付かなかったが腕にG-〇HOCKに似た腕時計をしていた。
「それに触れたらダメだよ」
腕時計に触れようとすると後ろから声が聞こえ、振り向くと白衣を着た男が立っている。その男は以前アーザノイルの精肉工場で出会ったゼルン・オリニックだった。
「それは彼がこの世界に転移した時にとある神から貰った大事な物なんだ。君もここに来た時にフェリシアから何かを貰ったのだろう?」
「へぇ、何故あの自称女神様から何か貰ったことを知っている?それにあの女神の事を知っているとはあんた何者なんだ?」
この男はウインチェルと同様、神様の存在に気づいている。それにこの男が声を掛けて来るまでまったく気配を感じなかったし、よく辺りを見渡すと先程捕まえたラピス、ラーシャ、ルアール、ジャックの姿が見当たらない。どうやらこの男が救出したのか。
「なに、私は帝国で働いているただの科学者だよ。そんなことよりも彼を渡してくれないかね?この後、彼には大事な仕事をしてもらわないと困るのだよ」
「お断りだ」
ゼルンはポケットから試験管を取り出しオゼットの前に捨てるように投げる。試験管が割れると中に入っていた液体が光出す、眩しくて何も見えない。
光が消えるとゼルンとレイブンの姿が見当たらない。逃げられてしまったようだ。
「ちくしょう!!」
苛立って地面を殴る。ここまでレイブンを追い詰めたのに逃げられるなんて……。
奥の方で足音が聞こえる。モーレア達が走ってこっちに向かっている。オゼットは合流して現状を報告しようと立ち上がろうとすると急にクラっとめまいがした。地面に向かって倒れる。
「翼!!」
地面に倒れたオゼットを真理が抱える。今日はいろいろあったから疲れた。意識が朦朧とし、目の前が真っ暗になった。
気が付いたら黒い景色、白い地面の空間にいた。近くにはテーブルと椅子があり、フェリシアが座って紅茶を飲んでいる。オゼットは空いている椅子に座って一息つく。
「こんばんは、もしくはおはようございます。ここの空間は時間がわからないので挨拶に困りますね」
「気にしなくていいですよ。ここは夢みたいな空間だと思ってください」
「さて……話したいことがいっぱいありますが、まずはあの白衣の男について聞いてもいいですか?」
「ゼルンですね。彼は私みたいに他の神から何か頼みを聞いているかもしれません。そして彼があの仮面の男を召喚した張本人でしょう。」
「その頼みとは?」
「わかりません」
不明な点が多いがあのゼルンという研究員は今後警戒した方がいいだろう。
次にフェリシアに帝国が持っていた銃について質問してみる。この世界の技術ではあんな武器を作ることは不可能なはずだ。フェリシアは水晶から映像を見せる。そこにはコンダート王国の兵士達がガトリングガンを使ってデスニア帝国の兵士達を殲滅している光景だった。
「これがコンダート王国から召喚された転移者の力です。帝国はこの力に対抗するためにレイブンを使ってあなた達の世界に戻り、あの武器達を盗んで研究していたみたいです」
フェリシアの話を聞いて啞然とする。もし帝国が俺達の世界の武器を武装して戦争しに来たら、もしコンダート王国の転移者がイスフェシア皇国に攻撃を仕掛けに来たら……イスフェシア皇国に勝ち目などない。
「デスニア帝国といい、コンダート王国といい、何で転移者はこんなインチキ能力を持った奴らしかいないんだ」
「あなたがそれを言いますか。そしてあなた、私の警告を無視してIMSPを使い続けましたね?」
「使い続けたと言っても2時間以上は使っていないですけど?」
「何故あなたが意識を失ってここにいると思います?今あなたの肉体は城の医務室に運ばれてアルメリアが治療をしているのですよ」
前にフェリシアは俺にIMSPを長時間使用し続けると肉体が膨大な魔力に耐えられなくなり、神経や細胞、肉体がボロボロになると言った。そして最悪の場合は死ぬらしい。それを聞いてからなるべく長時間でのIMSPの使用は控えている……つもりだったが、最近は戦闘が多く、使用せざるを得ない状況が続いていることもあって体の負担が掛かっていたようだ。
「今後はIMSPの使用は控えてくださいね。もしあなたが倒れてしまえばイスフェシア皇国は文字通り“終わり”をむかえてしまうのですから」
「……以後、気を付けます」
「では、これからもよろしくお願いします」
フェリシアがそう言うと空間が揺らついて辺りが白くなってくる。まるでゲームをしている時に画面がゆっくりとホワイトアウトするかのように意識が遠のいていく……。
目が覚めるとベットで寝ていた。どうやらフェリシアが言った通り、レイブンと戦って倒れて医務室に運ばれたようだ。しばらくするとアルメリアが点滴の補充をしにやってくる。
「目が覚めた?」
「はい」
「私達がレイブンを追ってきた時に急に町が光り出してね、行ってみればあなたが倒れていたのよ」
「すみません。奴を追い詰めたのですが、逃げられてしまいました。」
「それは仕方ないわよ、それよりも無事でなりよりだわ。一応治療は終わったけど、まだ安静が必要だからしばらくは休んでいてね」
アルメリアは点滴を補充し終わったら、他の怪我人達の所に向かう。今回の一件でレイブンによって怪我を負わせられた騎士達を手当てしているようだ。本当は起き上がって状況を把握したいとは思うが、体がだるくて動けない、今はお言葉に甘えてゆっくり休むしかないか……そう思い俺はゆっくりと目を閉じて眠りについた。




