38話 逃走
レイブン達が城の城門前にたどり着くとそこにはウインチェルと数十人の騎士達が待ち構えている。
「そこまでです。これ以上好きにはさせません」
「いいや、好きにさせてもらうぜ」
レイブンはラピスにラーシャを預けると彼女の傷の手当てを指示してその後、城門前にいた騎士達の前まで転移して大鎌で騎士達の首を一気に跳ねる。しかし城門は塞がっており城から出るには門を壊さなければ通ることはできない。
騎士の一人がラピスに攻撃を仕掛ける。ラピスは魔法で応戦するがラーシャを抱えながら戦っているため本領発揮ができないでいる。
「ちょっとまずいですね、このままではまた牢獄生活に逆戻りになってしまいます。せめてラーシャちゃんだけでも逃がしてあげたいです」
「大丈夫だ、もうすぐ仲間が来る。このままラーシャの治癒を続け、城門の前で敵を引き付けてくれ」
「仲間?……そういうことですね」
ラピスはレイブンの言っていることを察して城門前で騎士達を釘付けるように魔法で弾幕を張る。それに対してウインチェルは騎士達にバリアを展開して攻撃を防ぐ。
「無駄です。城門が開かない限り、貴方達はこの城から出ることはできません。大人しく投降なさい」
「それはどうかな?」
ウインチェルがレイブンを拘束しようと魔法を展開するが、レイブンはラピスを連れて城の入り口へと走る。その後、連絡石を取り出して合図を出すと城門の周りから連鎖的に爆発が起きる。すると城門は倒れ騎士達は城門の下敷きになる。
門の上からルアールが歩いてレイブン達と合流する。
「やぁ、中佐殿とラピス。元気してる?」
「ええ、ルアールさんもお元気そうで何よりです」
「話は後だ、ラピスは引き続きラーシャの治癒を専念しろ。ルアールはラピスと共にこの国から脱出しろ」
「中佐殿は?」
「俺はここで足止めをする。ついでにジャックに連絡が取れないから様子を見てくるわ」
「OK」
ルアールはラピスを連れて城外に出で走っていく。それを追おうとウインチェルが魔法で攻撃をするが、レイブンに弾かれてしまう。
城の入り口からミーア達が追いついてウインチェルと合流する。
「ウインチェル、状況は?」
「すみません。数はこちらが有利でしたが誰もあの仮面の男を止めることができませんでした」
「いや、ここまで時間を稼いでくれれば上出来だろ。よし、ミーアとアルメリアは負傷した騎士達を城内まで運んでくれ。ラルマとウインチェルは俺と一緒にあいつを叩きに行くぞ」
モーレアがレイブンに斬りかかると同時に他のメンバーも動き始める。ミーアはスライムナイツとゴーレムを大量に召喚する。ゴーレム達は倒れている城門を持ち上げてその隙にスライムナイツが負傷した騎士達を城内に運び、その後アルメリアが治癒魔法で騎士達を順番に回復していく。
ウインチェルは魔法でモーレアを強化しつつ、レイブンに攻撃する。レイブンは右手から黒い魔法陣を展開して魔法を発動する。
「うぜぇな、グラビティ・プレッシャー!!」
黒い波動が全体に広がり、急に体が重くなる。必死に立ち上がろうとするが全く動くことが出来ない。
続けてレイブンはポケットからカードを取り出し、地面に投げるとジャイアントオークとゴブリンの大群を召喚される。
「そのまま、おねんねしてこいつらの餌食になってな」
「ま……ちやがれ!!」
モーレアは何とか立ち上がってレイブンに斬り掛かろうする。
「しつこい奴だな、もう一回……グラビティ・プレッシャー!!」
「うごっ!!」
「じゃあな」
レイブンはルアール達の後を追っていく、このままでは逃げられてしまう。
王宮の間から白い羽が落ちてくる。上を見上げると真理が白い翼を広げてこちらに向かってきている。
「よせ、お前も押しつぶされるぞ」
「幻想の翼よ、皆を守って!」
白い翼が輝き、重力の波動を消し去っていく。次第に体が軽くなり立ち上がれるようになった。
「すまねえ、助かったぜ」
「さあ、あのモンスター達を倒して後を追いましょう」
「ああ、だが真理はここにいてくれ、あんたはこの国の“王”なんだ。陛下自ら敵国の者と戦うなんてしてこの国に住んでいる奴らに見られたら大騒ぎになりかねない」
「いいえ、私もこの国を守る為に戦います」
「二人共、話は後にして。今は目の前の敵に集中しましょう」
ジャイアントオークとゴブリンの大群が真理達に襲い掛かる。真理達は応戦した。
一方、ルアールとラピスはラーシャを治療魔法で回復させながら国から脱出する為に走り続けている。
このイスフェシア皇国は国と言ってもそんなに広くはない。国の半分は岩山とテレン聖教皇国と戦争していた場所であるカタカリ大草原で出来ている為にこの国の首都ベリアを脱出が出来れば、後は転移魔法でデスニア帝国に帰ることが可能なのだ。
走っている最中に先程ルアールがウィルの部下と戦った場所に戻る。そこには三人の男が倒れている。
「ジャック兄!」
ラーシャはジャックの所まで走ると治療魔法をかける。背中に入っている弾丸を取り除き、傷口を塞ぐとジャックは意識を取り戻した。
「……私は、負けたのでしょうか?」
ジャックの質問に対しルアールが答える。
「パッと見だけど相打ちって言った所だね、あの筋肉オカマも重症を負っているし」
「そうですか」
ジャックは起き上がるとガイルの前に立つ。ルアールが止めを刺そうかを聞くと今はやめておこうと言い、ルアールに状況を聞く。
ラーシャは連絡石でレイブンに連絡をとり、ジャックと一緒に脱出することを報告する。ジャックが状況を整理した後、ガイルとウィルの部下が持っているアサルトライフルを回収し4人はカタカリ大草原へと向かう。
しばらく走るとカタカリ大草原が見えてきた。近くに一人の男が立っている。
「黒いコートとエメラルド色の刀身の剣……奴が“イスフェシアの勇者”か」
「皆、どいて!」
ルアールは弓矢を放つ、オゼットが矢を切ると切った矢が爆発する。
「やったか?」
ルアールが様子を見ようと動いた瞬間に煙からオゼットがルアールに近づき剣で弓を切断し、束でみぞおちを打つ。
「ルアール!!」
ジャックは魔法石で白い鎧を召喚し身にまとう。斬撃を飛ばしながらオゼットに切りかかるが一瞬にして後ろに回られる。オゼットの剣が鎧にちょんっと触れた瞬間電撃が走りジャックは気絶する。
二人が倒れている所を見てラピスはラーシャを抱えてカタカリ大草原まで走る。
オゼットは『タキオンソニック』を発動してラピスに追いつき肩を掴み手から電撃を流すと二人は倒れた。
全員が気絶したのを確認すると前以って用意しておいた荷台に乗せて城まで運ぼうとすると上空から大鎌がオゼットに向かって降ってきた。大鎌を避けると誰かが暗闇からゆっくりとこちらに歩いてくる。
「おいおい、俺の仲間に何してんだよ」
「レイブン……」
「おっと、そう剣を構えるなよ。ここでお前との決着をつけるつもりはないからな」
「……では、大人しく帝国に帰ってくれ、この人達は城の牢獄まで運ぶ」
「いやいや、そういう訳にもいかんのよ。仲間達を返してはくれないか?」
大鎌まで近づいてよっこらせと持ち上げながら提案してくる。それに対してオゼットは剣を構えるとレイブンはため息をついた。
「そうか、なら仕方ないな。ここで死んでもらおうか」
風がレイブンの周りに集まってくる。大鎌を振るうと集まった風がかまいたちになりオゼットを襲う。怯んだ隙に後ろに回り込み大鎌を振るうとオゼットは剣で防ぎ、ガキン!!と街中に激しい音が響いた。




