37話 交差する魔法、交差する想い
暗闇の中、イスフェシア城の地下牢獄に男が入ってくる。その男はゆっくりと一人の少女が捕まっている牢屋へと近づく。
「久しぶりだな、ラピス」
「あなたは……ウィル?」
ラピスの前に現れた男は腰に付けたホルスターからハンドガンを手にし、構える。
「お前の能力のおかげで俺たちの居場所が帝国にバレてまた逃げる羽目になっちまってな。その腹いせと俺たちの安息の為に死んでもらうぜ」
「私は陛下の指示に従っただけですよ」
「そうか」
ウィルはハンドガンをラピスの頭に目掛けて引き金を引きダンッ!ダンッ!ダンッ!と牢獄中に銃声が響く。
直撃したかを確認するとラピスは何事もない。
「へいへ~い、お前の探し物はこれか?」
声がする方向に振り向くとレイブンが先程撃ったハンドガンの弾丸をお手玉しながら近づく。
ウィルはレイブンから離れてハンドガンを向ける。
「レイブン!?貴様ぁ!」
「まさかこんなところで会うとはな。帝国から試作段階の武器を盗んだ挙句、俺の仲間を殺そうとしたんだ……覚悟はできているか?」
「死ねぇ!!」
ウィルはハンドガンを連射する。撃ったはずの弾丸はレイブンの手のひらに転がる。レイブンはウィルに近づいて腹を殴る。怯んだ隙に顔面に膝蹴りを喰らわすとウィルは倒れる。
レイブンは倒れこんでいるウィルの髪を掴む。
「おいおい、さっきまでの威勢は空元気か?滅茶苦茶弱いじゃんお前。お前が率いた暗殺部隊ってのは敵に見つかると子犬みてぇに大人しくなっちまうのか?」
「うっ……」
レイブンがウィルを殴っている最中に奥の階段からモーレアとアルメリアが降りてきた。
モーレアはこの状況を見てどうなっているんだと啞然とする。それに気付いたレイブンはモーレア達に振り向いた。
「よお、悪いが今取り込み中だ。お前らとの戯れは後にしてくれ」
「だったら他所でやれ、ここはお前らの国じゃない」
モーレアは剣を構えるとレイブンはため息をつきながら空間から大鎌を掴み、ラピスがいる牢屋の鉄格子を斬り、ラピスに付けられている魔法封じの手錠を壊す。
「さあラピス、この場所は結界を貼られていて転移魔法が使えない。正面から突破するぞ」
「ウィルはいかがなさいますか?」
「武器だけ回収し、始末しろ。そう陛下から命令されている」
「かしこまりました」
ラピスはウィルに近づいて頭を掴む。
「永遠に眠りなさい」
頭に魔力を流し込むとウィルはゆっくりと目を閉じて眠る。アルメリアは何をしたのかをラピスに聞くと彼女は魔法で眠らせて、能力で夢の世界に閉じ込めたと言う。彼女が解除しない限り、ウィルは二度と目を覚まさない。
「さて、お待たせしました。次は貴方達が私の牢獄に入る番です」
ラピスとレイブンは二人に襲い掛かる。
一方、ラピスの事が心配でイスフェシア城に向かったラーシャは騎士達に殺人鬼が牢獄に向かっているから牢獄の場所を教えて欲しいと言い、場所を教えてもらい牢獄へと向かう。
「ラーシャちゃん……」
牢獄に向かう最中に二人組のこどもが道を塞いでいる、ミーアとラルマだ。二人はガイルの連絡石からジャックの話を聞き、牢獄へと向かう為のこの通路で待ち伏せをしていた。
「ミーアちゃん、ラルマ君……そこを通して」
「ダメだよ。ここには帝国の人が捕まっている。ラーシャちゃんはその人の仲間だったんだね」
「ねえ、ラーシャちゃんはその人を助けた後どうするの?この国を支配するために攻撃してくるの?」
「それは……」
言葉が詰まる、だがここで引き下がる訳にはいかない。
「お願い、そこを通して!ラピ姉を返して!!私の大切な人を奪わないで!!」
「先に大切な人を……マリー様と私達のママとパパを奪ったのは帝国じゃない!!」
ミーアはスライムナイツを召喚し、ラーシャに攻撃する。スライムナイツの剣がラーシャ身体に触れると電撃が走り、スライムナイツは感電する。その後、火球で追撃しラーシャは避けてサンダー・ショットでミーアを攻撃する。
「ミーアちゃん危ない!」
ラルマはミーアを庇ってサンダー・ショットを受ける。
「うあああああああああああああ」
「ラルマ君!」
ラルマは気を失い倒れる。それを見たミーアは我を忘れ、怒りに取りつかれたかのように魔法を打ち続ける。ラーシャはかわしながら電系魔法を繰り出す。
「ファイアマグナム!アクアカッター!ストーンクラッシュ!シャイニングバニッシュ!!」
「うっ、サンダー・ショット!スパークウェーブ!ライトニングスピア!!」
お互いに魔法を放ち喰らい続けながらも攻撃を止めない。ミーアはスライムナイツを召喚し、突貫させながら遠距離で魔法を打つ。ラーシャはスライムナイツ諸共、ミーアに雷系魔法で範囲攻撃を仕掛ける。
「これで、終わりよ!ブラッディ・スパーク!!」
赤い稲妻が部屋全体に走り、スライムナイツは次々と灰になる。電流はミーアにも襲い掛かり、感電させてミーアは黒焦げになって倒れる。
ラーシャがミーアに近づくと倒れていたミーアの体は液体になって消滅する。
「!?」
「“終わり”はこっちのセリフだよ」
ラーシャは後ろを振り向くとミーアが傍にいた。先程消滅したミーアはスライムナイツで作った分身だったのだ。彼女は手のひらに光の球体を持ってそれをラーシャにぶつける、すると球体は激しく光出しラーシャを壁際まで吹っ飛ばした。
「きゃああああああ」
ミーアはラーシャに近づき杖を構え、魔力を込めて最後の一撃を加えようとする。敵を捕獲し、マリー様の場所を聞き出せればマリー様を救える……敵を…………敵って誰?
「ラーシャちゃんは……」
ミーアが戸惑っている最中に牢獄側の壁が爆発し、その中からレイブンと牢獄にいたはずのラピスが出て後から傷だらけのモーレアとアルメリアが二人を追うように出てきた。
「レイ兄、ラピ姉!!」
「ラーシャか、随分と苦戦していたみたいだな。敵討ちをしたいのは山々だがその前にこの城から脱出するぞ」
「待ちやがれ!!この変人仮面!!」
モーレアはレイブンに突撃し大剣を振るうが大鎌で受け流される。その後、レイブンはモーレアの足を斬りつけて膝を着いた瞬間に腹に目掛けて蹴りを加え、アルメリアがいる所まで飛ばす。ミーアは思わずその場から離れてアルメリアがいる所に向かう。
「ぐあっ!」
「しっかり、今治療するから!」
アルメリアがモーレアの足に治療魔法を使うと足の傷口が塞がっていく。レイブンはラーシャを抱えてラピスと共に城の出口へと向かっていく。
アルメリアは急いで連絡石を使ってウインチェルに連絡し、騎士を城の出口に配置させるように指示を出した。
「モーちゃん、大丈夫?」
「ああ、アルメリアのおかげで何とか立てる様になったぜ」
「う~ん」
「ラルマ君、気が付いた?怪我していない?」
「大丈夫だよ、とっさにサイコキネシスでバリアを展開していたから……。それにラーシャちゃんが放ったあの魔法は本気じゃなかったみたいだしね」
ラルマは「よいしょ」と立ち上がる、ミーア達はレイブンの後を追うのであった。




