35話 帝国の新兵器
二人の男が持っている武器によって状況は劣勢になる。ジャックとルアールとガイルは逃げ回って壁際に隠れる。
「なんなのよ、あれは!?」
「あれは、“アサルトライフル”という帝国の新兵器です。試作段階と聞いていたのですが、ここまでとは……」
「ちょっと、何であんた“あれ”について知っているわけ?」
「話は後で、今はあの二人を倒す方法を考えましょう」
ジャックはルアールに合図を出すとルアールは矢に魔力を注いでその矢で相手に向かって放つ。男はその矢を避けるが、避けた瞬間に矢が爆発する。
「ぐあっ」
「これが私の能力、触れた物に魔力を注ぐことでその物を爆弾に変え、意のままに爆発させることができるの。さあ、盛大に花火をあげようか!」
「この異能者がぁ!!」
男の一人は爆風で吹っ飛び、近くの木箱にぶつかる。もう一人の男が武器を乱射し、弾幕を張っている。
「これじゃあ、近づけないわね」
ジャックは連絡石を使ってラーシャを呼ぶ。
「ラーシャ、あなたの能力が必要です。援護をお願いします」
『……わかったわ、ジャック兄。すぐに向かうね』
ラーシャとの通信を切りジャックは地面に転がっている石ころを拾って男に投げつける。男が怯んだ隙に倒れているディズヌフまで走り、抱えて壁際にまた隠れる。
「どうするの?」
「ラーシャが来るまでここを持ちこたえます」
「あの子にこの状況を打破できるの?」
「あの武器にはいくつかの弱点がありますが、ラーシャの能力を使うのが一番速く確実だと思いました」
「わかったわ、信じるわよ」
「ジャック、その人の回復は任せたわよ。私はあいつらを黙らせるわ」
ガイルとジャックは壁に隠れてディズヌフの応急手当てを行う。ルアールは弓矢で攻撃して相手の付近に刺さった矢は爆発させる。
一方、ジャックとの通信で援護に呼ばれていたラーシャは少し顔を俯く。深呼吸し、勇気を出してラルマに近づく。
「ラルマ君……お願いがあるの」
「どうしたの?」
「あのね……ごめんなさい!」
ラーシャは顔を赤くしてラルマにぎゅっと抱きつく。それを見たミーアは「ふぇっ!!」と取り乱す。
「こ、こんなと時に何しているの!?」
「ん……」
ラーシャはラルマの後ろ首を噛み、血を吸う。ラルマは思考停止して自分が何をされているのかわからない。ラルマの血を吸い終わるとラーシャの目は赤く染まり、周囲に電気がビリビリと走る。
ウインチェルはこの現象を見てラーシャが能力者だと確信する。
「ジャック兄のところに行ってきます」
ラーシャの体は電気に包まれて輝き、ジャック達がいるところまで飛んで行った。
血を吸われてふらついていたラルマは数分後に我に返って何が起きたのかをミーアに聞くが、ミーアは「知らない!」と頬を膨らませ不機嫌になり、ラルマから離れていった。
一方、オゼットは男が持っているサブマシンガンから放たれる弾幕を避けながら近づく。
「お前、何者だ?この武器の弾丸を避けたり、弾を斬るとか反則だろ!」
「俺の質問に答えたら教えてやるよ。その武器は何処で手に入れた?」
「へ、誰が教えるかよ」
男は走りながらサブマシンガンのマガジンを交換し、再び乱射する。弾幕を弾きながら近づき男が持っているサブマシンガンを両断する。
「もう一度聞くけど、何処で手に入れた?」
「つっ……それは……」
男は話すと見せかけて懐からハンドガンを取り出しオゼットの腹部に打ち込む。オゼットはそのまま屋根から落ちて行き、男はやったかと屋根の下を除くと落ちたはずのオゼットは男の後ろに立っていた。
「バカな!?」
「これが最後のチャンスだ、教えてくれないか?」
オゼットは剣を男の背中に刺さらないように軽く当てる。男は手に持ったハンドガンを地面に捨てて、ゆっくりと両手を上げる。
「わかったよ。俺の負けだ……教えてやるよ」
話を聞くと男は元デスニア帝国の暗殺部隊の一員だった。男は忠実に任務を遂行してきたが帝国のやり方に気に入らなかったらしく仲間達と一緒に帝国を脱走し、そのついでに帝国の研究所から試作段階であったこの武器を盗んだらしい。
その脱走を計画したのがリーダーであるウィル・ノクトン、彼はこの部隊を連れてイスフェシア皇国に密かに住む予定だったが、以前ラピスの能力で夢の世界に引きずり込まれて居場所がばれてしまった為、ラピスを暗殺しようと目論んでいた。今までの被害者はこの武器の性能や使い方を知るために試した“実験”だったらしい。
「……で、そのリーダーは今どこにいる?」
「今頃、イスフェシア城に行ってラピスを殺っているだろうよ……だが、お前を行かせる訳にはいかない!!」
男はオゼットに抱きつくと体中に巻き付けてある大量のダイナマイトを着火させる。暗闇の中で盛大な光がオゼットを包み、街中に爆発音が響いた。
二人の男が弾幕を張っている中、北東の方角で凄まじい光と爆発音が聞こえる。
「何の音?」
「あれは凄まじい爆発だね」
爆発音が聞こえると男達は仲間に何が起きたのかを察する。
「一度、撤退するか」
「ああ、しかしウィルの奴には?」
「連絡石で通信を取っているが繋がらない。後で良いだろう」
「わかった」
男達は煙玉を投げて煙幕を張って逃走する。ガイル達が追うとアサルトライフルで弾幕を張り、近寄らせないようにする。
「待ちなさい!」
空中から電気を帯びたラーシャが急接近してくる。男達が弾丸を放つと彼女の身体には当たらず、すり抜けていく。
ラーシャは相手の血を吸うことで体が電気そのものになる能力が発動できる。
「これが私の能力、『雷電同化』……あなた達の攻撃は私には効かないわ」
ラーシャは男に電気を浴びさせてアサルトライフルを落とさせる。
「今よ!!」
ラーシャの掛け声でジャックとガイルが前に出る。怯みながらも男はナイフで刺そうとする。ジャックはナイフの束を蹴り上げてナイフを飛ばし、そのまま背負い投げをする。
もう一人の男は必死に走り、商店街の入り口まで逃げる。入り口を抜けようとしたその先にはガイルが待ち伏せしていた。
「逃がさないわよ。愛の……ラリアットォォ!!!」
男の顔面に上腕二頭筋がぶつかる。首からゴキッと嫌な音が商店街中に響き、男は派手に吹っ飛んだ。