34話 作戦開始
月が登り切り夜を迎える。ベリアでは真理が依頼したギルドの傭兵の活躍によって殺人鬼の話が話題になり、夜中に出歩く者はいない静かな街となる。
城の広場でラーシャとミーアはオゼットのスキル『マジックリンク』を使用して三人の魔力を共有し、その魔力を使って召喚獣を大量に召喚する。
「眷属召喚!」
「いでよ、スライムナイツ!」
召喚された眷属とスライムナイツ達は城から出てベリアを徘徊する。上空にはウインチェルが召喚した使い魔が飛び回って監視をしている。
今回の作戦は真理とモーレアが指揮を執っている。連絡石を使うことで情報を連携し、統率を図っている。
「こちらウインチェル、今のところ、殺人鬼らしき人物は見当たらないですね」
「わかりました。引き続き監視をお願い致します」
「こちらラーシャ、ルア姉そっちの状況は?」
『のんびりと散歩しているよ。周囲からは人の気配はないね』
「気を付けてね」
『ありがと』
ルアールは微笑みながらラーシャに返事をする。
同じ頃、オゼットとジャック、ディズヌフはベリアに不審な人物がいないか徘徊している。
「犯人は現れますかね」
「被害者の肩には嚙まれていた後が残っていました。つまり犯人は……」
「吸血鬼ってことかよ。じゃあ被害者を切り刻んでいたのはブラフで目的は吸血か」
「それはわかりませんが、吸血鬼なら」
「もしそうなら今夜も食事をするでしょう」
ジャックが言うには吸血鬼は人間や動物の血を吸う事で力を増幅したり生命を維持するが、必ずしも血を吸わないと生きていけない訳ではないらしい。ラーシャみたいに人族と同様に食事する吸血鬼もいるみたいだ。
しばらく歩きながら魔力探知スキルを発動し続けると約20m先に魔力を持った人を探知する。三人は壁際に隠れ検知した人物を覗こうとするが、白いワンピースを着ている女性なのか?しかし暗闇で姿が見えづらい。
「明らかに怪しいな」
「俺が奴に仕掛けてみるから、合図したら二人はそいつを捕まえてくれ」
オゼットとジャックはディズヌフの提案に同意すると、ディズヌフは白いワンピースを着た人物に近づいて声を掛ける。するとディズヌフは途端に悲鳴をあげる。二人は急いで向かうとそこには白いワンピースを着た…………ガイルがいた。
「あら三人共、こんなところで何をしているのよ」
「そりゃあこちらのセリフだ!何て格好で出歩いているんだ」
「何って犯人をおびき寄せるための囮になっているよ」
「だからお前じゃダメだろう!!」
ディズヌフとガイルが喧嘩している中、遠くでズドンっと爆発音が聞こえた。連絡石からラーシャの声が聞こえる。
『ジャック兄、ルア姉が戦闘している!早く爆発音がした方向に向かって!』
急いで爆発音が聞こえた場所に向かう。暗闇の中でルアールは誰かと戦っている。
「ルアール、無事ですか?」
「ジャック!こいつは……」
ルアールが何か伝えようとすると暗闇から鋭い閃光が彼女を襲って肩に刺さり倒れる。
「ルアール!!」
ジャックは倒れたルアールに向かうと暗闇から再び閃光がジャックを襲う、オゼットは『タキオンソニック』を使用して素早くジャックの前に立ち、剣で閃光を断ち切る。
連絡石でウインチェルに声をかける。
「ウインチェルさん、敵は補足出来ています?」
『……ダメです。何処にも見当たらず、魔力の感知も出来ません』
『お兄ちゃん、商店街でスライムナイツが倒されたよ』
オゼットはガイルとディズヌフと一緒に商店街に向かう。ジャックは倒れたルアールに治療魔法をかけるから先に行ってほしいと言いその場に残った。
商店街に向かうとバラバラになったスライムナイツと腹を切り裂かれた眷属の死骸が散らばっている。
「惨いわね……」
「敵は何処だ」
魔力探知スキルを使って敵の位置を探るが反応がない、逃げられたのか?
少し考えている隙に再び鋭い閃光がオゼットに向かって飛んでくるが、すかさず剣で閃光を切るとキラっと何かが光りそれを見てオゼットは驚いた。
「どうしたの、オゼットちゃん?」
「……まさかこの世界でこんなものを見るとは思いもしなかった」
オゼットは高くジャンプして真上に目掛けて閃光弾を放った。すると閃光弾が広範囲に爆発、激しい光が周りを照らすと約300m先の建物の屋根上で“何か”が光った。その場所に向かうとその閃光を放った男がいた。
男はオゼットに問う。
「どうしてここだとわかった?」
「お前が使っているその武器から放たれた物を切ったとき気づいた、そしてあんたが覗いているそのレンズの光の反射でここだとわかった。……被害者の肩には穴が開いていると聞いたときにてっきり吸血鬼だと思ったが、違っていて実はその武器を使って殺していたんだな」
「その通りだ。この”武器達”は素晴らしい、使っていると快感でたまらない」
「その武器を……どこで手に入れた?」
そこにはこの世界に存在しないはずのスナイパーライフルとサブマシンガンを男は持っていた。
男は無言でサブマシンガンをオゼットに向けて引き金を引いた。
一方、取り残されたガイルとディズヌフはウインチェルに連絡を取り、オゼットが何処に向かったのかを探してもらっている。
「ディズヌフさん」
「おお、ジャックとルアール、肩の傷は大丈夫か?」
「ええ、彼の治癒魔法のおかげで傷口は塞がりました」
「それは良かった。しかしどうなってんだ?魔力探知は効かないし、召喚されたモンスターや眷属はやられているしよ」
ディズヌフはため息をつきながら話すと連絡石からウインチェルの声が聞こえる。どうやらオゼットの居場所がわかったようだ。
『ディズヌフさん聞こえますか?』
「おお……で、オゼットは何処にいるんだ?」
『そこから北東300m先のところにいます』
「つまり敵はそこから狙って俺達に攻撃したってのか?そんな馬鹿な」
いくら補助系魔法を使ったとしても長距離から攻撃出来る魔法なんて知らないとディズヌフは言う。
『はい、しかも先程の攻撃には魔力反応がなかったので魔法による攻撃ではありません』
「なんだって」
300m先から飛んできた攻撃は魔法による攻撃じゃない……遠距離攻撃として考えられるのは長弓とかだがそれを使ったとしても50mぐらいまでしか狙えないだろう。
ディズヌフは周囲の地面を探してみると先程オゼットが両断した閃光の正体らしき物が落ちていた、縦長で細い金属みたいだ。
証拠品として拾った物をポケットにしまい、オゼットの援護に向かうとマントを身に付けた男が二人、前に立ちはだかる。
「おっとここから先は行かせんよ」
「お前らは?」
「これから死んでいく奴らに教えたところで何になる?」
男はマントから長細い杖のような物を出し、前に構える。
「そうか……なら力ずくで教えてもらおうか」
「ディズヌフさん待ってください!!」
ジャックがディズヌフを止めようとするがディズヌフは拳を構えて前に走る。
男の一人はその杖らしき物をこちらに向けて、ズダンという音と共にディズヌフは倒れた。




