33話 夕暮れのひと時
次回9月は4時に投稿致します。
宿屋に戻って少し時間が経ち、夕方。
ジャックはルアールにこれまでの状況と夜に行う作戦を説明する。
「なるほど、私は囮役を演じればいいのね」
「もしウィルが襲い掛かってきた場合は速やかに合図を出して、我々のところまで誘導してください」
「わたったよ。じゃあ、また後でね」
ルアールは自分の部屋に戻る。続いてジャックは連絡石という相手と通話を可能とする魔法石を使ってレイブンに連絡をとる。
「……ジャックか、どうした?」
「中佐殿、報告します。ウィル討伐につきましては、今夜に決行予定です」
「そうか、こっちはお前達が暴れている間にラピスを救出しその後、帝国に帰還する」
「わかりました。それと……」
「何だ?」
「ラーシャが昨日出来たご友人と遊んでいるのですが……」
「ああ、ラーシャにはすまない事をしているな。あの年頃なら友達の一人二人作って遊んでいるのが普通だよな。好きにしてやれ」
「はい。そしてそのご友人の家で遊んでいるのですが、その家というのが……イスフェシア城なのです」
「……マジで?」
レイブンは数分間沈黙した。まさかこれから潜入しようとした場所に仲間が遊びに向かっているとは……。
いったいどうしてこうなってしまったのだろうとラーシャは心の中で呟く。ミーアに手を引っ張られて連れて来られたのはイスフェシア城の城門前である。ミーアは門番をしている騎士に挨拶をしてラーシャと一緒に城の中へと入る。
入り口にはラルマが立っていた。どうやらあらかじめにミーアがラルマに連絡を取っていたらしい。
「こんにちは……いや、夕方だからこんばんはかな、こんばんは!ラーシャちゃん。イスフェシア城にようこそ!」
「こ……こんばんは」
ラーシャはぎこちなく挨拶をする。辺りを見ると宮殿内はメイドが仕事をし、騎士が巡回している。
ここに自分達の仲間であるラピ姉がいるのに助けにいけないのだろうか……。
「ラーシャちゃん、何して遊ぶ、何して遊ぶ!」
「その前に二人共、ごはんは食べた?」
ミーアの一言でラーシャは我に返り、ラルマの一言で二人のお腹が鳴る。ひとまずは食堂に向かおうとラルマは提案する。
食堂に入ると騎士が腹ごしらえをしている。ミーアはラーシャにメニュー表を見せながら何を食べようか考えている。
「ここの料理おいしんだよ!」
「おすすめはカレーライスかな、他の国だと食べれないと思うし」
「カレーライス?」
ラーシャは首を傾げる。イスフェシア皇国はパスタ料理が有名とは聞いていたがカレーライスという料理は聞いたこともないし帝国には存在しない。
気になってカレーライスを食べてみようと思い、受付カウンターに行き注文する。数10分後にミーア達が座っていたテーブル席に注文したカレーライスが置かれる。
「いただきます!!」
ミーアとラルマは美味しそうにカレーライスを口に頬張る。それを見てラーシャも恐る恐る口に入れると口の中で衝撃が走る。最初はピリッと来て口がヒリヒリするが後から肉や野菜のうま味が伝わってくる。
「おいしい!」
「でしょ!このカレーライスを食べるのはこの城だけなんだよ!」
「ガイルさんのお店でも出してもらおうとお願いしたんだけど、このカレースープに使われる“すぱいす”っていう材料がないから作れないんだって」
「でもね、この城の研究室にはその材料を作っている部屋があって大量に生産しているから今度、がーちゃんのお店に渡してカレーライスを出すんだって!」
ミーアとラルマは楽しく話してカレーライスを説明する。その時ラルマはふと気になったことをラーシャに聞いてみる。
「ラーシャちゃんの国の料理ってどういうのがおいしいの?」
「そうね……ヴルストとこのカレーとは味は全然違うけど、似たような料理でグヤーシュっていうスープがおいしいわ」
「ヴルスト?」
聞いたこともない名前を聞いてミーアは首を傾げる。その顔を見てラーシャは「ふふん」と言い、得意げな顔をしながら説明をする。
「この国でいうソーセージね。あとアプフェルシュトルーデルもおいしいわね」
「あぷふぇしゅっ……言えないよ~」
「リンゴをパイ生地の中に詰めて焼いたお菓子よ。バニラアイスと一緒に食べると最高なの!」
ラーシャは興奮気味に自分の国の料理を語る。それを聞いたミーアとラルマは自分たちも食べてみたいと言い今度、レシピを教えてもらって料理長に作ってもらおうと考えた。
楽しく食事を済ませて三人は食器を受付カウンターまで行き「ごちそうさまでした」と元気に言って食器を返却する。その後三人は食堂を出て、ミーアの部屋に向かうのであった。
一方、オゼットは真理達に今夜に行う作戦を説明し情報共有を行う。真理達の方では国民に殺人鬼の事を伝え、夜の出歩きを控える様にする為にギルドの傭兵にチラシを配る依頼をしたそうだ。
ウインチェルは使い魔を召喚しベリアに配置、不審な動きをしている人物がいないか監視しているらしい。
「これで、後は犯人が現れるのを待つだけです」
「犯人がベリアに現れたら教えてください」
「わかりました」
話をしている最中に騎士が王宮の間に入ってきて城門前にお客様がいることを伝えてきた。城門前に向かうとジャックとオレンジ色の髪の女性が立っている。
「初めまして、ルアール・アリルです。宜しくお願い致します」
「オゼットです。こちらこそよろしくお願いします」
お互いに挨拶を終えるとルアールは真理を見る、あの人がこの国の偽物の女皇様か……それにしても本物のマリー・イスフェシアによく似ている。
「どうかされましたか?」
「いいえ、イスフェシア皇国の女皇にお目にかかり光栄でございます。この度の作戦、必ずやこの国の平和を脅かす犯人を捕まえて見せましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
王宮の間に今回の作戦に参加するメンバーが全員揃い、城の広場に向かうのであった。




