32話 作戦会議
今から数時間前、ソルジェスで偶然にラーシャを見つけたミーアは彼女に近づいて声をかける。
「あれ、ラーシャちゃん?ラーシャちゃんだ、おーい!」
「ミーアちゃん?」
「こんにちは!どうしてここに?ギルドに依頼でもあるの?」
「えーと……」
ラーシャが戸惑っている時にジャックが失礼しますと横から割って事情を説明する。それを聞いたミーアは最後に被害があった現場を知っていると言い、良ければ案内をしようかと提案する。ジャックは同意してミーアと一緒に現場へと向かうことにした。
ソルジェスから馬車で15分、現場の近くにたどり着くと野次馬達が集まっている。ジャックは現場に入ろうと思ったが、子ども二人を連れて殺伐とした場所に入るのはいささか気が引ける。二人にはどこかで待ってもらおうと辺りを見回すと近くにカフェがある。
「ここからは私一人で充分ですので、二人はあそこのカフェで待って頂けませんか?」
「どうして?私も一緒に調べるよ」
「ここから先、子どもを連れては入れなさそうですし……あなたの友達を巻き込む必要はないでしょう」
「あたしは平気だよ?ラーシャちゃんの力になりたいし」
「ありがとうございます。しかし、ここは私に任せてください。」
ジャックはラーシャにお金を渡し、カフェに向かわせる。二人は渋々と近くにあるカフェ“ネバーランド”に向かい、二人を見送った後に現場に入ったのだった。
「……って訳だよ!」
ミーアはオゼットにここまでの出来事を、オレンジジュースを飲みながら説明する。その話を聞いてガイルは腹を立てている。自分が経営している店の近くで殺人事件があった影響で客が少なくなって困っているからだ。
「オゼットちゃん、私も協力するわ。犯人にはたっぷりとおもてなしをしてあげるわ」
「わ、わかりました」
「それで?そこのハンサムは夜になるまで待ってどういう作戦でいくのかしら?」
ガイルはジャックに問いかけると彼はギルドからもらった地図をテーブルに広げる。
「まず、バツ印付近にまた現れる可能性は低いと思いますので、犯人が狙いそうな場所を推測します。そして夜にラーシャのスキルで犯人が現れそうな場所を偵察しようと思います」
ラーシャには眷属を召喚する事が出来るらしく、その眷属をベリアに配置し犯人らしき人物を特定するという作戦らしい、それを聞いてガイルが眷属だけで首都全体を監視できるのかと尋ねる。すると横からミーアがオゼットの魔力を借りて召喚獣を大量に召喚すれば首都全体をほぼ監視はできると断言する。
「じゃあそれで決まりだな。犯人を見つけたら袋叩きにしてやろうぜ」
ディズヌフは早速ギルドに連携を取ろうと拠点に戻ろうとしたところをガイルが止める。どうせなら犯人を誘い出すのはどうだろうと提案する。まずベリアの警備を手薄な状態だと犯人に認識させる。そしてベリアでは囮を徘徊させラーシャの眷属とミーアの召喚獣で密かに監視してもらい、犯人を特定したところを捕まえるという作戦だ。
「ちょっと待って、それだと誰が囮役をするんです?」
「もちろん、囮役はあ・た・しよ!!」
「いやそれはダメだろう」
「なんで!私の何処がダメっていうの!?」
「全部だ」
ガイルは不満げにディズヌフに文句を言う。横からジャックが囮役は私の仲間でやりますと言い、場を落ち着かす。
作戦会議を終えるとディズヌフはギルドに戻っていった。
「じゃあ、後は夜を待つだけね。オゼットちゃん達はこの後どうするの?」
「一旦、皆のところに戻って今回の作戦を説明します。ジャックさんは?」
「では私達も宿屋に泊まっている仲間に連携して夜を待つとしましょう」
話を終えた後、ミーアがオゼットに相談してくる。
「ねえ、お兄ちゃん、夜になるまでラーシャちゃんと遊んでもいい?」
「それはいいけど、作戦には二人が必要だから余り遅くならないでね」
「それは私の部屋で遊ぶから大丈夫だよ。ラーシャちゃんは?」
「私はいいけど……」
ラーシャはジャックを見る。
「もちろん、いいですよ。何かあれば連絡くださいね」
「ありがとう!」
「じゃあ、早速あたし達の家で遊ぼう!」
「ミーアちゃんの家?それって何処なの?」
「あそこだよ!」
ミーアが指を指した方向を向くとラーシャは一瞬動きが止まる。ジャックも釣られてその方向を見るとそこは敵の本拠地であり、この国の象徴ともいえる“イスフェシア城”だった。
「えっ……」
「驚いた?驚いているね。あそこにラルマくんもいるから一緒に遊ぼう!」
ミーアはラーシャの手を引いて城へと走って行く。ジャックも驚きを隠せず思わず質問をする。
「失礼ですが、貴方は一体何者です?」
「一応ですけどこの国の騎士を務めています」
「聞いたことない?“イスフェシアの勇者”って、オゼットちゃんが加われば、今回の事件も楽勝よ」
「結構そのあだ名は恥ずかしいんですけどね」
ジャックの前にいる男はついさっきまで仲間だと認識していたが、“イスフェシアの勇者”という言葉を聞いて認識を改める。まさか、この男が我々の計画を邪魔している“帝国の敵”だとは……。
「ジャックさん、どうかしましたか?」
「……いえ、何でもありません。ラーシャのこと、よろしくお願いします」
ジャックはオゼット達と別れ、宿屋へと向かう。やれやれ今回の任務は一筋縄ではいかないらしい。




