31話 919小隊
港の宿屋に着くとレイブンとラーシャは予約した部屋に向かう。部屋に入ると帝国の白騎士と呼ばれているジャック・ウォーガンと帝国の爆弾魔、もしくはボンバーガールと呼ばれ能力者であるルアール・アリルが二人を待っていた。
この二人とレイブン、ラーシャ、ラピス、ゼルンの六人はデスニア帝国の特殊部隊である919小隊に所属している。この小隊は別名、異能者部隊とも呼ばれており、所属している者はレイブンを除いて全員能力者で編成されている。
ラーシャは二人に向かって走り出し、抱きつく。
「ただいま!ルア姉、ジャック兄ぃ」
「お帰り、ラーシャちゃん」
ラーシャはエンザントで起きた一日を話す。妖精を見に行こうと泉に向かったら盗賊が妖精を誘拐していたこと、その盗賊達をやっつけたこと、そしてお友達が出来たことを。
話が盛り上がっている中、レイブンがコホンッと咳払いをし、一同を注目させる。その後テーブルに一枚の似顔絵を見せる。
「今回、陛下からの命令でこの男を始末することになった。名はウィル・ノクトン、研究所から“ある物”を盗んで逃亡し、今はイスフェシア皇国の首都……ベリアに潜伏していることがわかっている」
ウィル・ノクトンの名を聞いてジャックは反応する。その男はかつて暗殺部隊に所属していたらしく、敵の威力偵察や暗殺活動をしていたのだが、彼には性格に難があってその癖が原因で不名誉除隊を強いられたが、そのことに彼は不満に思い姿を消したとされていた。
「この裏切り者はベリアで殺戮を繰り返しているらしいが、奴のおかげで国と城の警備が強化されラピスの救出が困難になっている」
「はた迷惑な話ですね」
「そこで……だ、まず三人は明日イスフェシアに行って奴の情報収集を頼む、奴が現れそうな場所を予測して出現したら始末し、盗まれた物質を回収してくれ。俺は城の地下牢獄にいるラピスを奪還する。では各自よろしく頼むわ」
話を終えるとレイブンは席を立って部屋の扉を開ける。ラーシャがどこに行くのかを尋ねるとゼルンからの依頼でレイブンがいた世界の住人を調達してほしいと言われているらしく、一旦元の世界に帰るらしい。
ラーシャはレイブンを見送り、その後部屋に戻る。
「私達も明日早いから寝よう」
「そうだね。でもその前にラーシャちゃんは私と一緒にお風呂に入ろうか」
「うん!」
ラーシャとルアールは風呂場に向かい、ジャックは自分の部屋へ戻る。
翌日の朝、三人は宿屋を出て馬車でイスフェシア皇国に向かう。皇国の入り口では門番が検問をしている。
ルアールは門番に通行証を見せ、皇国に入る。この通行証はあらかじめ帝国で作った偽物らしい。
「あたしは先に宿屋に行ってチェックインするから二人は情報収集をお願い」
「かしこまりました」
「ルア姉、行ってくるね」
ジャックとラーシャはウィルの情報を集める為にこの国にあるギルド施設“ソルジェス”に向かう。ソルジェスに入ると受付のお姉さんに最近夜に出没する殺人鬼について何かを情報がないかを尋ねる。
お姉さんはジャックの顔を見てうっとりするが数秒後、我に返って依頼書を見せる。
依頼書の内容は徘徊していた警備兵が何者かによって殺害され、それから毎晩1人ずつ殺害されている。この犯人を捕まえて欲しいというギルド長からの依頼だ。
「ギルドの傭兵や国の騎士達が調査をしているのですが、犯人の行方は解らず調査が難航している状況です」
「被害者が殺害された場所を教えてくださいますか?」
受付のお姉さんは地図を持って来て開き説明をする。地図にはバツ印が6個書かれている。国中にバツ印が書かれていることから活動範囲が広く、何処にウィルが潜んでいるか特定が難しい。
ジャックはこの依頼を受けると同時にこの件について詳しい人物がいないかを尋ねると、この事件を担当していて依頼を出したギルド長なら知っているのではないかと受付のお姉さんは答え、ギルド長は昨日の夜に事件があった現場にいると教える。
ジャックはお礼を言うとラーシャと一緒にギルド長がいる殺害現場に向かことにした。
「あれ、ラーシャちゃん?ラーシャちゃんだ、おーい!」
ギルドから出ようとするとラーシャを呼ぶ声が聞こえる。声がする方向を見るとピンク色の髪をした少女が彼女を呼びながら近づいてきた。
一方、イスフェシア城の王宮の間では真理、オゼット、モーレア、ウインチェルが集まってギルド長であるディズヌフから送られてきた報告書を読んでいる。
「毎晩起きている殺人事件ですか……」
「ベリア全体の警備は強化しているんだが、なにせ活動範囲が広すぎるし、誰もその犯人を見ていないときたもんだ」
「殺害された人物は6人……何か共通点でもあるのかしら?」
「まずは現場に行って調べるしかないな」
報告書を読み終えるとオゼットは王宮の間を出ようとすると真理は気を付けてと一声掛ける。オゼットは笑顔でわかったと答えて、最後に被害者が殺された現場へと向かう。他の三人はこれ以上被害が出ない為に警備兵の配置及び警備の強化を考える。
「では私はこの首都に住む民達に夜中の出歩きを控える様に注意を促します。モーレアさんはギルドと連携して夜中の警備を強化してください」
「わかった」
「私はベリアに使い魔を放ち監視をする為の準備をします」
「よろしくお願いします」
三人は方針が決まるとそれぞれの場所に向かう。
数分後、オゼットは昨日事件があった場所にたどり着く。周りには一般人が入れないように警備兵が見張っている。彼らにギルドカードを見せて関係者であることを証明し、奥に進むと今回の事件の担当者であり、ギルド長であるディズヌフ・ガングが調査している。
「こんにちはディズさん」
「おう、オゼットか。お前さんが来たってことは、報告書は読んでくれたみたいだな」
「はい、女皇も今回の事件には早急に解決して欲しいと仰せつかりました」
ディズヌフは死体についての資料を見せる。死体には刃物で切り刻まれた跡や何かが貫通した小さい穴があるらしい。
犯人についての情報は誰も目撃した者がいないので犯人の特徴が一切わからないらしい、調べようにも調べられない状態だ。
ディズヌフと話をしていると現場に一人の青年が入ってきた。
「失礼、貴方がディズヌフさんでしょうか?」
「おめぇさんは?」
「私は今回の依頼を引き受けさせて頂きました、ジャック・ウォーガンと申します」
「ああ、受付のお姉から連絡は来ているよ、よろしくな」
ジャックはディズヌフに挨拶を終えるとオゼットにも挨拶をする。ディズヌフはジャックに状況を説明すると少し考えた後に二人に提案する。
「私の仲間にも状況を説明したいのであそこのカフェで対策を練るのはいかがでしょうか」
「あそこ?」
ジャックがカフェに向かって指をさす。よく見るとそのカフェはガイルが経営している店、ネバーランドだった。
オゼット達はジャックの提案に乗り、一緒に店に入る事にした。店の奥側の席に向かうとジャックの事を待っていた一人の少女と何故か彼女と一緒に遊んでいるミーアがいた。




