3話 魔導戦士見参
暗闇の中、ポツンと翼は立っていた。どうやら夢を見ているらしい。
「ここは、どこだ?」
暗闇で回りの景色は見えなく、目の前には扉がある。そして何処から声が聞こえてくる。
-ねぇ、聞こえる?-
「誰だ?もしかして真理なのか?」
―その扉を開けて、その先にある部屋まで来てほしいの―
「………」
翼は扉を開けて、進む。その先には白い空間が広がっている、テーブルと椅子があり、椅子には女性が座っている。金髪でさらっとしたロングヘア、白いドレスを身に付けて、背中に天使の羽みたいのが生えている。そして、豊満な胸の持ち主だ。
「よく来てくださいました、翼様。どうぞお掛けになってください」
「あなたは?」
「私はフェリシア、とある世界を管理している女神の一人です」
今この人、自分の事を『女神』っていったのか? あーこれは間違いなく危ない夢だ。直ぐに醒めたほうがいいですね。
「あ、私、明日忙しくなるんでもう帰りますね。さよなら」
「待ちなさい」
翼が席から立ち上がった瞬間、フェリシアが翼の腕を掴む。意外とこの人、握力が強くて逃げられない!
「私の話を聞いてください。後、夢から醒められると思わないでくださいね」
「悪夢かこれは!? 俺はこんな所で油を売っている訳にはいか……」
「あなたの大切な人を、救いたいとは思いませんか?」
その言葉を聞いた瞬間、翼は立ち止まって考えこみ、椅子に座る。
「今の話、本当だろうな? 騙したら、タダじゃ済まねぇぞ!」
「女神が噓、偽りを言うことはありません」
フェリシアは微笑んで言う。もし本当なら例えどんな手を使ってでも真理を助けだす。翼は真剣にフェリシアの話を聞くことにした。
「わかった。話せ、悪魔」
「随分と失礼な方ですが、仕方ありませんね。今、私が担当している世界は破滅へと進んでいます。ここまでは誰も住むことが出来ない死の惑星になってしまうのです。そこであなたはそこの世界に行き、元凶を倒して欲しいです」
「あなたの管理不足じゃないですか、責任を押し付けるつもりですか?」
「コホン、私は身分の関係上、その世界に直接介入する事はできないのです。本当はこの様な事をするのも違反ですが世界が滅んで女神をクビになるよりはマシです。そしてその元凶は、あなたの大切な人を私の世界に連れて来てしまいました。このままだと彼女は間違いなく死ぬでしょう」
「さらっと縁起でもない事を言わないでください。それで?その世界を滅ぼす元凶ってのは、どんな奴ですか?」
女神はその言葉を聞いた瞬間、さらに困った顔をする。
「何者かがあなたの世界から召喚された人らしく、特殊な魔力で素性が見えないので、どのような方なのかは知らないのです。ただあなたの世界では連続誘拐殺人犯って有名になっていますね」
「!?」
連続誘拐殺人犯って人を攫っては殺し、死体をバラバラにして捨てる。しかも誰もその殺人鬼を目撃した人はいないってニュースでやっていたあの…
「真理が危ない!!早くそこに俺を連れってくれ!!」
フェリシアは指を鳴らすとテーブルの上に水晶玉が現れる。水晶玉の中には黒い渦が巻いている。
「では、時間も推してきているので早速始めましょうか。あなたを召喚しようとする者がいますしね。おや、見てみれば随分と可愛い召喚士ですね。」
「そんな事良いから早く!!」
「ちなみに彼女と元凶は離れた所にいるみたいですのでとりあえずご安心を、そしてこれからあなたを召喚する子の願いを叶えない限り、あなたは元の世界に帰れないのでご注意ください」
「な、なんだって!?ってか、真理の場所がわかっているなら教えてください!!」
「残念ながら私は世界を監視はできますが介入する事はできないので…お給料減っちゃいますしお外に買い物も行けませんし」
「ふざけんな!この悪魔!!」
水晶玉の黒い渦が翼を飲み込み、意識が遠のいていく。フェリシアはボソッと呟いた。
「選ばれし二人目の転移者よ、この世界をよろしくお願いいたします。」
目が覚めると大きい木の下にいた。見たこともない景色で、どうやら俺はあの悪魔(女神)が言っていた世界に来てしまったようだ。右手にはan○roidスマホに似ている端末が握っている。しかし、端末機器は画面が割れていて、電源が入らない。
「何だ、これ?付かないじゃん。仕方がない、まずは人がいる所に出よう」
翼はとりあえず真っ直ぐに進んでいった。辺りは木、川があり、リスやてんとう虫といった翼の世界にもいた生物達が生息しているみたいだ。途中、川の水を飲み、休憩しながら歩いていく。しばらく歩くと馬車が通ったらしき跡を見つける。この跡を辿れば村か町につくに違いないと思い、翼は跡を辿りながら進む事にした。
しばらく進むと馬車が見え、そこには二人の女性と一人の男がいた。どうやら休憩中らしい。翼はその人達に話をしようと近づいた。
「すみません。ちょっと道を訪ねたいのですが…」
「なんだ、お前は…さては盗賊か!?」
男は腰に掛けた剣を抜き、翼に向ける
「ち、違います。私は……そう、旅をしている者で近くの村か町を探している最中に道に迷っちゃって…」
「……確かに盗賊にしちゃあ、丸腰で襲い掛かる訳ないよな。」
「レバンさん、この人、変わった服装しているよ?本当に旅人かもしれないよ」
「わかった。で、俺達はこの先にあるインフェシア皇国の首都ベリアに向かう最中なんだが一緒にくるか?」
「是非、お願いします!」
「俺はレバン・グローリー、ソルジェスの傭兵だ。あんたは?」
「俺は…」
翼が自己紹介をしようとした瞬間、森林から狼が五匹現れ襲い掛かってきた。レバンは翼を突き飛ばし、狼の攻撃を防ぐ。
「ガルルルル」
「ちっ、こいつが最近この森で悪さしてるっていう魔狼か。おいお前、早く二人と一緒に逃げろ!」
「しかし…」
「早くしろ!!」
翼はレバンの言う通りに二人の女性を連れて逃げる。狼達が後を追うがレバンが透かさず剣で狼を切る。しかし二匹、翼達を追って走っていき、残りの三匹はレバンに襲い掛かる。
「やばい、二匹そっちに行ったぞ! 何か武器はないか?」
「持ってないですよ!」
「あなた、旅人なら護身用の武器持っているのではないの?」
翼が持っているのは電源が入らないan○roid似の端末、これでは狼を倒す方法すら調べられないじゃないか!あの悪魔め!!もし死んだら持てる力全て使ってでも地獄に引きずり込んでやる!!!
ついに翼達は狼に追い詰められる。狼達はゆっくりと近づき逃げ場を無くしていく。そして一気に翼達に食らいつこうとした。
その瞬間、翼が持っていた端末が光り出し、翼の周りに光が包み込む。狼達は弾き返され、光が消失した後、服装が白いパーカーから黒いコート、ジーンズから黒いカーゴパンツに。それは翼がやっていたゲーム『ファンタジー・ワールド』で作ったキャラクターである『オゼット』の衣装で、右手には彼の愛刀であるエメラルド色の刀身の剣『ライフ・セイバー』を持っている。この剣は装備している間、常に所持者に回復魔法を発動してくれる効果がある。
「力が湧いてくる……これならいける!!」
翼は狼を切り裂き、ダメージを与える。一匹の狼は倒れ、もう一匹は逃げ出そうとしている。
「逃がすか、タキオンソニック!!」
スキルを発動すると凄まじい速さで狼に追いつき、首を切断する。その後、レバンの所に駆けつけて、残りの三匹の狼を切り刻む。レバンは何が起きているかわからない顔をして、ただ呆然としていた。そして全ての狼を倒し終わった。
「お前さん、何者だ?さっきまで服装も違うし、武器も持っていなかったはず……」
何者か……そうだな。この世界で本名を名乗って俺の噂が広がれば、もしかすると真理に気付いてもらえると思っていたが、逆に例の殺人鬼に俺の存在に気付いて警戒されるのも困るな、だから……
「俺の名はオゼット、訳あって人を探している」