27話 いざ、エンザントへ
翌日、目が覚めたミーアはしばらくボーっとして段々と意識をはっきりさせる。今日はエンザントに遠足に行く約束を思い出すと急いで着替えてラルマの部屋へと向かう。
「ラルマ君、おはよう!もう起きてる?」
ノックをしてしばらくすると部屋からラルマが出て来る。
「おはよう、ミーアちゃん!エンザントに行く準備はもうできた?」
「うん!昨日ガッちゃんからたくさんもらったし、準備OKだよ!」
ガッちゃんとはガイルのことで、昨日の夜にエンザントに行くと伝えたらお菓子をもらったらしい。
早速二人はウインチェルに言われた集合場所である城門へと向かう。そこにはガイルが待っており、二人に気付くとガイルは挨拶をする。
後からウインチェルと真理が合流し、馬車でエンザントへと向かう。
「ところで、お兄ちゃんはこないの?」
ミーアはウインチェルに尋ねるとオゼットは一昨日の夜勤警備と昨日の騒ぎの一件でほとんど寝ていなかったので今は部屋で爆睡しているらしい。それを聞いて少し残念に思うが、仕方がないと割り切ってエンザントに着くのを楽しみにするのであった。
一方、イスフェシア城の地下牢獄ではモーレアがラピスに尋問をしている。ラピスが付けている手錠は特殊な魔石を使用しており、魔法や能力の発動が出来ない。
今回の事件はただイスフェシア中の人々を眠らせただけが目的ではないはず、そうモーレアはラピスに怒鳴りながら目的を聞こうとするが、彼女は何も答えない。
「そんなことよりお腹が空きました、何か美味しい料理を食べたいです。イスフェシア皇国と言えばパスタ料理が有名ですよね?」
「舐めた口聞いてんじゃねぇぞ、お前はこの国の人全員を眠らせて何をするつもりだった?」
「大体想像はついているのでしょう?」
ラピスはクスクスと笑いながら話す。モーレアは苛立ち拳を振ろうとした時にアルメリアが牢獄に入ってきた。
モーレアはアルメリアに何をしに来たかを尋ねる。アルメリアはラピスに昼食時に何が食べたいかを質問しに来たみたいだ。メニュー表をラピスに貸し、注文をメモ用紙に書く。……いやちょっと待て、何で罪人に料理の注文を聞きに来ているんだとツッコミを入れると、昨日の事件の影響で熟睡し尚且ついい夢を見させてもらったおかげでストレス解消できたので、そのお礼をしたいと料理長とコック達が言っていたらしい。
「飲み物は紅茶とコーヒー、ワインがあるけど、どれにする?」
「ワインでお願いしますわ」
まるで客人をもてなすようにアルメリアは注文を聞き、料理長達に知らせに行く。それを見てモーレアはただ呆然とする。
約1時間後、アルメリアはラピスが注文した海老とマッシュルームのクリームパスタ、鶏肉と野菜のコンソメスープ、そしてコック達のサービスでカスタードプディングを提供する、早速ラピスは注文した料理を食べる。
「とても美味しいです。特にこのプディングは帝国とは違った味が楽しめます」
「そう、それは良かったわね」
ラピスの食事を見ていると、もう俺帰ってもいいかなと思いながらモーレアはお腹の音を鳴らして待機する。
食事を終えると満足そうな顔でラピスは今回の事件を語り始めた。
「私達の作戦はイスフェシア皇国の民……特にイスフェシアの勇者と言われた人を夢の世界に閉じ込めて、その隙に帝国軍がテレン聖教皇国に戦争を仕掛け国を占領、その後イスフェシア皇国を帝国の物にする予定だったのです」
「なんで急に話す気になったんだよ…」
「まぁ、私が捕まった事で作戦は失敗に終わりましたので、帝国は口封じの為に私を殺しに来るでしょう。でしたらここで大人しく捕まっていた方が安全ですからね」
「で、その作戦の首謀者は誰だ?」
「貴方達が仮面の男と呼んでいる人ですよ」
仮面の男……確か名前はレイブンとか言う奴か。
「彼が率いる私達特殊部隊は主に帝国の領地を広めることを女王様から命令されています。もし成功すればどんな望みを叶えてくださるとのことだったので。さて、今回の話はここまででいいですか? 先程の料理を食べて眠くなりました。あ、この料理を作った方にお礼を言ってくださいますか」
「伝えておくわ」
アルメリアはその場から離れ、ラピスはベッドに入り眠りに着く。まだ彼女に話を聞きたかったのだが……こいつベッドに入って5秒で寝やがった。
ラピスが食事している所を見てこっちまでお腹が空いて来たので仕方がなく牢獄を後にして食堂に向かうのであった。
ベリアから馬車で約3時間、エンザントに到着する。ここは魔力を作り出す木や植物に囲まれている村で、エルフ、ケンタウロスといった亜人種が住みやすい環境になっており、植物から発生する魔力酸素を吸い込む事によって魔術師の魔力が通常よりも速く回復、蓄積する事が出来る。
馬車から降りると目の前にはエルフ、アラクネの女性が待っている。
「ようこそ、エンザントへ。私は族長のエト・ラインケルと申します」
「私はアーリレッド・ポスキャル、ここの警備兵を務めております」
ミーアはアーリレッドの身長の大きさと下半身が蜘蛛で出来ているのを見て驚くと、ウインチェルがミーアに挨拶をしなさいと喝を入れる。ミーアとラルマは二人に挨拶をし、それに続くように真理も挨拶をするとエトとアーリレッドは真理の前で膝をつく。
「これはマリー王女、この度はここまでご足労いただきありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ本日はよろしくお願いします」
挨拶を終えて、エトは皆を連れて入り口の門を開けるように門番に命じる。門が開かれるとそこには豊かな自然でありふれていた。




