26話 悪夢の終わり
イスフェシアの民達が目を覚ましている光景を双眼鏡見てレイブンはため息をつく、どうやら彼女の作戦は失敗に終わったらしい。
「作戦は中止だ」
「何故だ?今からでも遅くない、テレンに攻め込んで占領すれば後からイスフェシアの軍なぞ来ても恐れるに足らんだろ」
デスニア帝国の軍団長であるブリガンは意見を述べる。
「駄目だ。このままテレンに攻め込んでもあちらにイスフェシアの勇者がいる以上、この軍隊は全滅に終わるぞ、それよりも今後はラピスの救出が最優先になる」
「あの女を助ける価値があるのか?」
「ああ、“計画”には彼女の力が必要だからな。それに計画さえ達成すればイスフェシアとテレンどころか全ての国を支配できる」
レイブンは黒い空間を展開し、笑いながら闇に消える。
夜になり、空にはたくさんの星が輝いている。
イスフェシアの民達はラピスが創り出した夢の世界から解放され、何事もなかったかのように生活している……というよりただ良い夢を見ていただけで事件が終わってしまっている為、敵国に襲撃された事実なんて知らないでいる。知っているのは城の一部の人間とテレン皇帝とハンソン、ナリタ、ボーマぐらいだろう。
ハンソン達は今回の事件を皇帝に報告する為、「後のことはお前達に任せる」と言ってテレンに戻った。
今回の事件の首謀者であるラピスはイスフェシア城の地下の牢獄に閉じ込めている。この牢獄はウインチェルが作った特殊な結界により、魔術や能力は封じられるので、もう夢の世界に引きずり込まれる心配はいらないようだ。
そして城ではミーアとラルマが元気に王宮を走り回り、後からウインチェルが二人を捕まえる。
「こら二人共、もう寝る時間ですよ」
「だってよく寝たから、眠れなくなっちゃった」
「もっと遊びたい!」
「遊ぶのは明日でもできるでしょう?皆さんに迷惑がかかるから今日はもう寝なさい」
ウインチェルの言葉に二人は「ぶー、ぶー」と言いながら頬を膨らませる。
「……わかりました。なら明日は皆でエンザントに行きましょう」
エンザントとは、イスフェシアから東に向かった所にある森で、そこには獣人やケンタウロス、エルフといった亜人種が集まって住んでいる村がある。イスフェシアにも亜人種は住んでいるのだが、中には森の方が暮らしやすいという考え方をもつ者もいるので、エンザントに住む亜人種は多い。
「じゃあ、明日はみんなで遠足だね!」
「だから今日はもう寝て、明日いっぱい遊びましょう」
「「はーい!」」
二人は明日に備えて部屋に戻り、準備をする。ウインチェルは一息ついて自分の部屋に戻るのであった。