25話 幻想の翼
真理の体を引き裂かれるのを見て、ラピスは高らかに笑う。さっきは夢の世界を壊されて動揺したが、きっとまぐれだったのだろうと考える。
邪魔者は消えた事だしそろそろ仕上げに入ろうとした時、さっきまで引き裂かれていたはずの彼女がいない。
周りを見ても見当たらず、上を見上げると天使のような翼で羽ばたいている真理の姿があった。
「何!?」
真理は両手を上げて空中に無数の光の槍を展開し、両手を降ろすと光の槍は魔物達に向かって飛んで貫いていく。魔物は次々と消滅していく。
「なるほどそれが貴方の力って訳ですか」
「さあ、みんなを解放して」
「調子に乗らないことですね」
ラピスは黒い魔法陣を展開し、モーレア、ウインチェル、ミーア、ラルマ、アルメリアを召喚する。
真理は皆に声を掛けるが反応がない。何か様子がおかしい。
「貴方の仲間は既に洗脳済みです。さぁ、その力で救ってみなさいな」
ラピスは右手をあげるとウインチェルは魔法を唱え、空から雷を降らす。真理は雷を避けながらウインチェルに問い掛けるが返事はない。
ラルマはサイコキネシスで剣を作り真理に向かって飛ばし、それに続いてモーレアは突進し大剣を振りかざす。真理は飛んでくる剣を辛うじて回避するが、モーレアの連撃で蹴りをくらう。
「ぐっ!」
すかさずミーアはドラゴンを召喚し、炎の息吹で焼き尽くす。その後アルメリアは魔法で巨大な氷の塊を真理の頭上に降らす。
今度こそやったかとラピスは真理の姿を確認する。しかしその場には見当たらない。
背後から気配を感じ後ろを振り向くと真理が羽を広げ、とても小さい粉……というより粒子を仲間達に飛ばす。
さっきから何か違和感が残る、最初に魔物に襲わせた時やモーレアの蹴りをくらった時、確実に攻撃が入ったはずなのに何故無傷なのか?よく見ると魔物が引き裂いたはずの衣服が元に戻っている。
「皆、正気に戻って!」
真理の背中に生えている翼から小さな粒子が飛ぶ。その粒子は金色に輝き、それに触れた仲間達は段々と意識を取り戻し始める。
「そんな、ありえません!?私の洗脳が解かれるなんて!」
「あれ、俺は何してたんだっけ?確か故郷で畑仕事をしていたような……」
「あたしはママとパパと一緒にご飯を食べていたんだけど……夢ならもう一回寝ていいかな」
「二人共、寝ぼけている場合ではないわよ。どうやら私達は巻き込まれたみたいね」
モーレアとミーアは寝ぼけている中、アルメリアは冷静に状況を把握し武器を構える。
「よくも私の計画を邪魔してくれましたね。貴方達はこの世界から返す訳にはいきません」
ラピスは数百匹の魔獣の召喚し、真理達を襲わせる。
「へっ、何だかよくわからねぇが俺達に牙を向けるたぁ、良い度胸してやがるぜ」
「あの青髪の人が今回の悪い人だね。皆、戦闘開始だよ!!」
「よっしゃぁぁぁ!!」
ミーアが合図を出すとモーレアは掛け声をあげ、大剣で魔獣を切り裂く。
ウインチェルは魔法で魔物達を水で閉じ込め、アルメリアが魔物達を閉じ込めた水に手を触れると一瞬で氷漬けになる。それに続いてミーアはさっき召喚したドラゴンで魔物達を叩き潰し、ラルマはサイコキネシスで凍った魔物を持ち上げて他の魔物にぶつける。
真理は光の槍を作り出し、魔物をくし刺しにする。それに気付いたモーレアは真理に近づく。
「よぉ、真理。いつの間にか戦えるようになっているな、何処で覚えたんだ?その技」
「話は後で、先にあの人を止めないとここから出られないみたい」
「じゃあ、あいつをぶっ飛ばしてイスフェシアに帰ろうか」
真理は粒子を展開し仲間達のところへ飛ばす。粒子を浴びると力が湧いてくる。
数百匹いた魔物は次第に消えていく。
「イスフェシア女皇の親衛隊は規格外の強さを持った者達が集まっているとは聞いていましたがここまでとは」
「少し違うけどな、さてそろそろお前の目的を聞いてもいいか?」
モーレアはラピスに問いだす。
「いいでしょう。私はこの国の人全員を夢の世界に閉じ込め、その間に帝国がテレンに攻め込む手筈となっています。テレンを支配した後ゆっくりとイスフェシア皇国を乗っ取るつもりでしたが……」
「そりゃあ随分と大胆な作戦だな。で、俺達を元の世界に帰す気はあるか?」
ラピスは首を横に振る。手をかざし大きな魔法陣を展開、魔法陣から巨大な魔獣を召喚する。
「さあ、バクール。この方達を食べてしまいなさい」
バクールと呼ばれた魔獣は真理を踏み潰そうとするが真理は飛翔して避ける。ウインチェルが魔法の矢をバクールの目に放ち視界を奪うが、潰した目は再生してしまう。
「大した自己再生能力ですね」
「ウインチェル、あのデカブツを仕留める方法はあるのか?」
「おそらく心臓を一撃で破壊する事が出来ればですが」
モーレアは少し考えて皆に指示を伝え行動に移る。魔獣が暴れる中、真理は仲間達に粒子を飛ばして肉体と魔力強化を施す。ウインチェルは詠唱を始め、ラルマはバクールの足をサイコキネシスで止めようとするが、動きを鈍くさせるので精一杯みたいだ。それを見てラピスはクスクスと笑い、高みの見物をする。鬱陶しいと思った真理はラピスに光の槍をぶん投げるが、体が透けて当たらない。
「無駄なことを、貴方達では倒すことはできません」
「できるよ!!」
そう言いながらミーアはドラゴンをバクールに体当たりさせ、地面に倒れさせる。その隙にモーレアはバクールの右腕を切断、アルメリアはバクールの左腕を凍らせて指を鳴らすと凍った左腕が粉々になる。詠唱し終わったウインチェルが魔法を発動させる。
「審判聖雷剣!」
上空に剣状の雷がバクールの心臓に目掛けて落ちてくる。バクールは防御しようとしたが、凍った左腕は地面とくっついて動かすことが出来ない。雷剣は心臓に刺さり、全身が焼き焦げる。
「再生は……しないみたいですね」
「やった!!」
バクールを倒して喜ぶミーアとラルマ、ラピスは苛立ちを隠せないでいる。
「よくも……しかしどんなに頑張っても貴方達はこの世界からは出られませんよ!」
「それはどうかしら?」
ラピスの言葉に対して真理は反論する。
「質問なのだけど、この世界で発動した魔法って現実の世界では魔力は消費されているのかしら?」
「ええ、私の能力は現実にある肉体から精神を引きはがして、この夢の世界に引きずり込むだけであって魔法を発動すれば、現実にある体から魔力は消費されます」
「なら、早く目を覚ました方がいいわよ。あなたが言っている事が本当なら“彼は”もう気付いているわよ」
ラピスは真理の言っている意味が分からない。この状況で圧倒的に有利なのは私で現実に戻る意味がないのに。
ラピスの能力の説明を聞いてウインチェルとアルメリアは何かを察し、真理に続いて言う。
「確かに目を覚ました方がいいですね」
「本当にね、現実の貴方の体が無事だったらいいのだけど……」
二人はクスクスとラピスの笑い方を真似する。何がおかしい? 何故私の方が有利なはずなのに不利な状況の雰囲気になっているのだろうと。
「騙されたと思って目を覚ましたらいいわ。もう遅いかもしれないけどね」
「っ、わかりました。このまま貴方達を閉じ込めて私は次の計画に移るとしましょう。それでは皆様、永遠にさようなら」
ラピスは現実世界に戻る決心をする。正直彼女達が何を言っているのかは分からないが、どうせ何も出来やしないし帝国がテレンとイスフェシアを支配されるのを待つことしかできないのだから負け犬の遠吠えにしか聞こえないと彼女は思う。
「さて、中佐殿に連絡をしますか。」
ラピスは夢の世界を後にして現実に戻る。するとギルドの上の階にある宿屋で宿泊していたはずだが、見知らぬ場所で目を覚ました。
「え、ここどこ?」
「おはようございます。ここはイスフェシア城の地下牢獄です。そしてまた会いましたね」
目の前には3人の騎士と黒いコートをきた男が1人、そしてムキムキなオカマが腕を組んで囲むように立っている。その場から離れようとしたがよく見ると両手両足が拘束されて動けない。おかしい、何故この人達は私が眠っている場所がわかったのか。それに宿屋には帝国兵を配置しており、現実で何かあれば私が気付くようになっているはず。
「どうしてあなたが?」
「ああ、この魔力探知の石を使って国中探していたところギルド周辺で微弱な魔力反応が検知できてね。で、いざ行ってみれば女兵士が隠れていたから幻術で眠ってもらいました。」
オゼットは話しながら苦無をもってラピスに近づく。
「さて単刀直入に言いましょう。あなたが創り出した夢の世界、あそこに閉じ込められている人全員を解放してください」
「そんな脅しは通用しませんわ。私が死ねばあの世界にいる人全員、永遠に閉じ込められたままになりますもの。人質解放してほしければ私を解放し大人しくこの国を帝国の支配下になさい!」
ラピスは自分の置かれている状況をわかった上で反論する。ここで折れるわけにはいかない、全ては帝国とあの人の夢を叶える為に。
それを聞いてオゼットは1枚の黒いカードを取り出す。
「ならば、仕方ありませんね。呪符・絶対命令の札」
オゼットはカードを発動させラピスに幻術をかける。一見何事もなかったように見える……が次第にラピスの体と脳が痺れていき、頭の中で何かが囁いてくる。能力を解除しなければならない、人質を解放しなければならないと。必死に抵抗するが体が勝手に動き能力を解除する。
一時間後、眠っていたイスフェシアの民達が目を覚まし始めた。




