23話 夢を見る眠り姫
イスフェシア皇国の人々全員が謎の睡眠状態で、目が覚めない状況になっている。オゼットは他の国でも同じ現象に陥っていないかテレン聖教皇国に向かうことにした。
テレン聖教皇国の首都ラズボルドにたどり着くと人々は普通に生活している。どうやらこの国はあの睡眠現象は起きていないみたいだ。
オゼットはネバーランド2号店に向かいガイルに相談することにした。
「ごめんください」
「いらっしゃいま…あらオゼットちゃんじゃない」
ガイルに今イスフェシア皇国で起きている現象について説明する。それを聞いてガイルは協力したいが今は店の運営で手が離せないらしく、後で合流すると言いハンソン達に協力してくれるよう頼むために伝書鳩をテレン城に飛ばしてくれた。
オゼットはガイルに一礼して早速テレン城に向かった。
目を開ければ、見知らぬ地にいた。周りを見渡しても霧が濃く、何も見えない。
「ここは、どこだ?」
モーレアはどうしてこの地にいるのか考えてみる。確か昨日は兵士達を鍛えて、食堂で酒を飲んで…夜勤警備がだるかったからオゼットに引き継いでもらって寝たんだっけ?
ということは……これは夢か、なら時がきたら覚めるだろう。彼女は前に進み探索する。
しばらく進むと霧が晴れる。そこは畑や田んぼが広がっており、少し離れたところに見覚えがある里がある。
ここはイスフェシア皇国があるアーガイル大陸から東にある大陸”出雲国”の茜ノ宮と呼ばれる里、かつて俺が住んでいた場所だ。
「亜美……」
後ろから声が聞こえ、振り向くと小さな角を生やした女性が立っていた。
『亜美』は俺がこの里に住んでいたときに呼ばれていた名だ。子どもの頃に俺の鬼の力が暴走したのが原因で里から追放されイスフェシアまで放浪した結果、倒れているところをマリー様に拾われた。
マリー様に名前を聞かれて本名である『猛玲亜美』を名乗ったら、あの方は『もーれあ』と聞き違いをしてしまい、それ以降俺は『モーレア・ミスト』と名乗ることにしたんだ。
そして俺の本名知っていてその名を呼ぶ人物はマリー様ともう一人しかいない。
「母上……」
「今日もお疲れ様、ご飯できているからお家に帰りましょう」
母の手にひかれ、懐かしい雰囲気を堪能しながら里に向かう。
テレン城にたどり着いたオゼットはハンソン達に会い事情を説明する。ボーマは信じられないと疑ったがハンソンとナリタはオゼットの言葉を信じ、事象を確かめる為に協力する事になった。後からガイルも合流し、ハンソンは馬車を用意して5人はイスフェシア皇国へと出発する。
「あーあ全く同盟を結んだとはいえ、まさか他国を助けなきゃいかんとはな」
ボーマは不満げに語る。
「おい失礼だぞ、それに本当にイスフェシアの民達全員が起きないのであれば敵の攻撃の可能性も考えられる」
「で、敵の攻撃なら既に何かしらのアクションを起こしていると……でも今ベリアは人ひとり歩いていないんだろう?誰かが歩いていれば、私は犯人ですって言っているようなもんじゃねえか」
「イスフェシア皇国中走り回ったんですが、今のところ確認できた人達は全員寝ていて国周辺を探索しても誰もいなかったですね」
「じゃあどうやって犯人を捜すんだ?」
ボーマの言う通りだ。このままイスフェシア皇国に戻っても犯人を探し出す方法を考えないと最悪全滅もありえる。
対策を考えようとするが夜勤警備の疲れとずっと起きていた所為か、睡魔が襲ってくる。
「おい、寝るな!」
段々と睡魔が強くなり意識が朦朧とし、眠りに落ちていく。
目を開けると果てしなく白い景色が続く空間の中にいた。
「ここはどこだ?」
確かさっきまでボーマ達と馬車でベリルに向かっている最中だったはずだが……眠気もない。
夢なのか?それにしては意識がはっきりしている。フェリシアが招く空間と近い感覚だが別物みたいだ。
「ようやく捕まえたわ、イスフェシアの勇者様」
どこからか声がする。目の前の空間が歪み一人の少女が現れる。
「初めまして、私はラピス・インセントと申します」
「どうも初めまして、オゼットです」
「あら礼儀正しいのね。まずはようこそ、ここは私が創り出した夢の世界です。オゼットさんにはこの世界で好きな夢を見て頂きます」
「どんな夢でも見られるんですか?」
「はい、例えば大金持ちになって生活する夢、子供の頃の記憶を再現することやHな夢も可能です」
ラピスはクスクスと笑って話す。
「面白そうではありますが、今は夢を見ている場合じゃないんですよ。今イスフェシアの人達全員が目を覚まさなくて困っているんです。」
「ええ、知っていますよ。国中で眠っている方々は全員私の世界で夢をご堪能して頂いていますので」
そう言うとラピスは空間に大量の映像を展開する。中には仲間達が映っている映像もある。薄々感づいてはいたけど、今回の事件はこの人の仕業か。
「貴方の目的は何ですか?」
「別に、私はただ皆に幸せな夢を見ていて欲しいだけですよ」
この人絶対噓を付いているな、そう思いオゼットは剣を構える。ラピスは「無駄ですよ」と笑いながら黒い空間を展開する。黒い空間から物凄い吸引力が発生し、このままでは空間に吸い込まれてしまう。
「さあ、この中に入って楽しい夢を見ましょう。そして現実なんて忘れてずっと夢を見続けましょうよ」
まずい、たぶんあの空間に入ったらモーレア達みたいに目が覚めなくなるだろう。そうなれば誰もこの人を止める者がいなくなる。黒い空間に吸い込まれないように剣を地面に刺し必死に耐える。しかし地面に刺した剣が少しずつ地面を切って黒い空間に近づいていく。
ここまでかっと思った瞬間、段々と身体が透けてきている。その異変に気付いたラピスは雷の矢を放つが、オゼットの姿が消えて攻撃は外す。
「……まさか、外にまだ眠りについていない者がいるとは思いませんでした」
「しくじったなぁ、ラピス」
ラピスの後ろにレイヴンが笑いながら現れる。
「あら中佐殿、確かにイスフェシアの勇者は取り逃がしてしまいましたが、計画には問題ありません」
「そうか、それならこのまま任務を継続してくれ。俺はブリガンの野郎に会って次の作戦を実行するわ」
「ああ、あの異能者嫌いの方ですね」
「奴は今回の作戦に成功すれば昇進出来るって話だからな、その為に俺達を利用するらしい」
「馬鹿な人ですね、自分が踊らされているとも気付かずに……」
彼女は妖気に微笑みながら空中に捕らえた人々の中継映像を展開し、監視を続ける。この夢の中では私に適う奴などいないのだと自身満々に言うのだった。