22話 いい夢を
アーザノイルの事件から3ヶ月が経ち、帝国からの攻撃はなく平和が続いた。
仮面の男……レイヴンに怪我を負わせられたウインチェルは無事に退院し、今は城の研究室にこもっている。本人曰く、新しい魔法石の開発をするらしい。
真理は女王としての仕事をこなしている。アーザノイルで出回っていた白い粉……ゼルンという男がマジックパウダーと呼んでいた物に関しては、ソルジェスやテレン聖教皇国と連携して見つけ次第処分する方針にしている。イスフェシア皇国は今後、帝国からの攻撃に備える為にソルジェスと連携して警備の強化を図っている。
そんなある時……
「なぁ、頼むよ~」
「そんないきなり……」
最近モーレアは夜勤警備を繰り返し、昼も兵士の訓練をしてほぼ休みがない日々が続いている。
さすがに疲れが溜まっているのか、彼女はオゼットに一日だけ夜勤警備を頼みにきた。
他の兵士には頼めないのかを聞くと帝国や他の国から襲撃が来た場合、すぐに応戦できる奴がいないとのこと。今日はギルドでの依頼を片付けたおかげで疲れて本当は直ぐに眠りたかったのだが……。
「わかりました。夜勤警備を引継ぎますね」
「わりぃ、今度飯おごるからさ」
モーレアはそう言うとふらふらと自室に入った。
とりあえず不審者がいないか城を見て回るか、オゼットはランタンを持って辺りを巡回する。
最初は城の外を見てみる。外壁には兵士がしっかりと警備している。ここは問題なさそうだ。
次に城内を巡回する。真理がいる王室の前に行き、魔力探知と気配探知のスキルを発動する。どうやら真理以外人の気配は感じないので心配はいらない。他の仲間達の部屋にも同様に探知スキルを発動し、不審者がいないか確認する。どうやら全員寝ているみたいだ。
気配探知を続けると食堂の厨房辺りで何か動いている人物がいる。厨房に向かうとそこには料理長がいた。
「こんばんは料理長、こんな時間に何をしているんですか?」
「これはオゼットさんこんばんは、明日の朝食の仕込みをしていたのですよ。明日の早番の料理人はよく遅刻して来るので」
「あーなるほど、料理長も大変ですね」
「ええ、明日は公休を頂くので早番の方が来たらすぐに帰りますよ」
「いつも美味しい料理ありがとうございます。明日ゆっくり休んでください」
オゼットは厨房を後にし、巡回を続けた。
そして翌日、日は登り朝を迎える。オゼットは夜勤警備を共にした兵士達と一緒に早番の兵士達を待つ、疲れが溜まっている所為かすごく睡魔が襲ってくる。
しかし、早番の兵士達はおろかモーレアも来ない。最初は寝坊しているんだろうと思い少し待っていたが、来る気配すらなかった。オゼットはモーレアをお越しに行こうと彼女の部屋に向かい、ドアをノックする。
「モーレアさん、起きてください。もう朝ですよー」
呼び掛けるが返事はない。……仕方がない、いつぞや俺が寝ていた時に起こされた仕返しでもするか。
俺はIMSPを起動し思いっきりドアをぶち破る。
ズドン!!
ドアを吹っ飛ばしモーレアの体を揺さぶりながら声がけをする。しかし起きる気配はなく、ぐっすり眠っている。
オゼットは次にモーレアの腕に触れて電気ショックを与える、死なない程度に電気を流したがそれでも起きない。他にもどうすれば起きるのかを考えているうちにグーとお腹の音がなる。オゼットは一旦起こすのを諦めて食堂に向かうことにした。
食堂に向かうといつもこの時間なら賑やかなで人気が多いはずなのに誰もいない、奥のテーブル席でとても眠そうな顔をした料理長が座っている。
「ああ、オゼットさんおはようございます」
「おはようございます料理長、なんか今日は人がいないですね」
「ええ、お客様が来ないどころか早番の料理人すら来ないのですよ。本当に困ったものです」
オゼットは何かがおかしいと思い始める。早番の警備兵や料理人が来ず、モーレアは何しても起きない、そして誰一人食べに来ない食堂――そういえばここに来るまで警備兵やメイドと一人も会わなかったような……。
食堂を後にして試しに真理の部屋に向かう。彼女はいつも早起きしてこの時間だったら起きて女皇としての仕事をしているはずだ。
「真理、起きているか?」
ドアをノックするが反応がない、ドアをこじ開けて部屋に入ると真理は静かに眠っている。起こしてみるが目は覚まさない。他にもウインチェル、ミーア、ラルマ、アルメリアの部屋に行ってみるがモーレアと同様で皆寝ていて目を覚まさない。
流石にこれは奇妙だ、オゼットは城中を回って起きている人がいるか確認する。城壁に行ってみるとさっきまで起きていた夜勤警備兵は睡魔に負けたのか、床で寝ていている。
次に食堂戻ってみると入り口付近にcloseと書かれた看板が置いてあり、料理長の姿が見当たらない。
「どうなっているんだ?」
オゼットは城を出てベリアの商店街やギルド、国中を走って人がいないか探してみる。しかし街を歩いている者は誰もおらず、店も全て閉まっている。まるで廃墟と化したゴーストタウンかのように……。




