21話 帝国の魔科学者
道なりに進んで行くと外へとつながる階段があり、登っていくとそこにはゼルンが立って誰かと連絡をしていた。三人に気付くと連絡相手に「では、後で」と言い通信を切った。
「やあ、もうあの兵士を倒したのかい?素晴らしいね!!」
「次はお前の番だ」
オゼットは剣をゼルンに向ける。
「まぁ待ちなさいって、まずは君たちのおかげで私の研究がここまで成長できたのだ。ありがとう!本当に感謝しているよ。」
ゼルンはオゼット達に一礼してその後にポケットから手鏡を取り出し、三人に見せる。しばらくすると鏡の中から直径2mサイズの結晶石が映し出され、結晶石の中にはマリー陛下が眠っている。
「マリー様!?」
「そう、本物のマリー・イスフェシアだよ。彼女はとても強力な魔術と能力の持ち主だから結晶石の中で封印させてもらった。何、命にかかわる事はないから安心してくれたまえ」
「お前たちは陛下を攫って何をする気だ!」
「それは今後に期待しておいてくれ、そして……時間だ」
ゼルンはそう言うと手鏡をポケットにしまい、次に小さな結晶石を取り出す。
そして彼の近くで空間が歪み、黒い空間の中から仮面の男が現れる。
「お待たせ博士、注文通りに必要なサンプルと資料は全部研究所に運んでおいたぜ」
「ありがとう、中佐殿。これでゆっくりと研究ができるよ」
どうやら、あらかじめゼルンは仮面の男に連絡を取って工場内の研究資料を運んでいたみたいだ。
ゼルンはそれを聞いて、小さな結晶石を光らせる。すると工場全体に魔法陣が展開され、一気に工場が燃え始め、次第に連鎖爆発する。
それを見てオゼットは二人を睨む。
「お前ら何をしているんだ!?」
「何って、もう必要なくなったから処分しているのだが?」
「中に人が……お前らの仲間だっているんだぞ!」
「だから?」
仮面の男とゼルンはくだらないとあざ笑う。オゼットは抜刀し、ゼルンに斬りかかる。
ガキンッ!
オゼットの剣は仮面の男の大鎌によって受け止められる。連続で振り続けるが全て弾かれてしまう。
前から思っていたが、大鎌は先端部の刃の重量で攻撃する武器でどうしても大振りになってしまい、大抵は振りかぶる前に相手の攻撃を喰らってしまう、使い勝手は悪い武器なはず。
しかし仮面の男は剣を振るよりも早く大鎌で受け止めている。いったい奴はどんな能力を使っているんだ。
「この、中二病が!!」
「お前に言われたくねぇな」
オゼットが仮面の男と戦っている中、ウインチェルが魔法で援護する。仮面の男はそれに気付いて瞬時にウインチェルの目の前に現れる。
「ああ……そういえば、この前テレンにいた時に海の彼方まで飛ばしてくれたっけな。その礼をさせてもらうぜ」
大鎌がウインチェルの腹部を切り裂き、ウインチェルは倒れる。
「ウインチェル!!」
オゼットはウインチェルに駆け寄る。アルメリアがすぐに回復魔法で癒すが傷が深く、出血が止まらない。
仮面の男は笑いながら黒い空間を展開し、ゼルンと一緒に帰還しようとする。
「あはははは!!少しは清々した。これで借りは返したことにするわ、じゃまた会おうぜ~」
「早くしないとその子、死んでしまうね。お大事に」
二人は黒い空間に入り、その場を去った。
オゼットはウインチェルを運び、近くの医療施設に向かう。アルメリアは強引に手術室を借り、医師達が止めに入るがオゼットが説得する。
手術室に入るとアルメリアはウインチェルの緊急開腹手術を行う。麻酔を注入し、回復魔法を使いずつ、切り裂かれた腹部から出血している助間動脈を縫合止血する。
「信じられない、たった一人で手術をするなんて…」
「しかも、とても手際が良く無駄が無い」
病院の医師達は最初こそ不満に思っていたが、アルメリアの手術を見て感動し、協力してくれる様になった。
手術から2時間後、アルメリアは手術室から出る。
「アルメリアさん!ウインチェルは!?」
「……手術は成功したわ」
それを聞いてホッとした。アルメリアは疲れて近くのソファに座る。ウインチェルは病室に運ばれ、3週間は安静にしないといけないらしい。
「私は当分の間はウインチェルの面倒を見るから、貴方は城に戻って報告して」
「わかりました」
ウインチェルの事は心配だが、今は城に戻って今後の対策をしなければ……。
病室を後にしてオゼットは城に戻るのであった。




