20話 アーザノイル(後編)
時は流れ夜になり、霧雨が降る中、三人は工場の前に立つ。
辺りを見渡すと武装した警備兵が多い。工場にしては不自然さが残る。
「さて、どうしましょうか?」
「俺が警備兵を気絶させ退路を開く、二人はその間に地下にある研究所の入り口を探してくれ」
オゼットは『タキオンソニック』を発動して、外の敵を気絶させにいく。ウインチェルとアルメリアは透明化の魔法を使い工場中を探索する。工場の中にも警備兵が多く、ウインチェルは魔法で兵士を眠らせる。
所長室に向かうと露骨に怪しい本棚がある。アルメリアは本棚を調べると下に隠し扉を見つける。
「行きましょう」
二人は本棚をどかし、隠し扉を開け奥に進むとそこには異様な光景が彼女らの目に映った。
「これは!!」
一方、オゼットは外にいる警備兵を全て気絶させて、ウインチェル達と合流する為に後を追う。
工場の中の警備兵は全員眠っているおかげですぐに追いつくことが出来た。そして二人に声を掛けようとしたが奥にある複数の透明のカプセルケースを見て言葉を失った。
カプセルケースの中には人間、エルフ、人魚などが入っており緑色の液体に浸かって眠っている。
「なんだよ…これ」
「……酷い」
オゼットとウインチェルが動揺している中、アルメリアは二人にしっかりしなさいと喝を入れ、奥に進み始める。
三人はさらに奥に進むと木箱が積まれた倉庫に出た。木箱の中を見ると白い粉が詰まった袋が大量に詰まっている。これを見たオゼットは木箱を破壊しようとするがどこからか声が聞えた。
「駄目ですよ~。それは私の実験の成果なのだから」
「誰だ!?」
木箱の隅から白衣を着た青年が拍手しながら現れる。
「私はゼルン・オリニック、帝国の科学者といったところだね。君が…レイブン中佐が言っていたイスフェシアの勇者かね?」
「レイブン中佐?」
「ああ、君たちの言うところの仮面の男だね」
仮面の男……つまりこいつはあの男の仲間であり、この白い粉を生産しモンスターを凶暴化させたのも全部こいつらの仕業だったのか。
「この粉をばら撒いてお前たちの目的はなんだ!!」
「私はただ実験をしたかっただけだよ。この薬、マジックパウダーは一時的に痛覚も疲労も感じなくなり、筋肉を増大させる作用があってね。最初はモンスターで実験して次にエルフ、人間へと実験を繰り返した結果、ようやく安定したんだよ」
「人やエルフの命を…何だと思っているんですか!!!」
ウインチェルは怒りを隠せずゼルンに怒鳴る。ゼルンは不思議な顔をする。
「命? では君たちは今まで殺して来たモンスターの命は何だったのかね?化け物だからという理由で殺してしまっても構わないと?彼らだって一生懸命に生きているのだよ」
「それは…」
ゼルンの言葉にウインチェルは返す言葉が思いつかない。ゼルンは壁にあるレバーを引いて警報を鳴らし、護衛の兵士を呼び寄せる。その後、彼らに注射器を打つと筋肉が増幅して凶暴化する。
「グオォォォォォォォォ!!!」
「さあ、きれいごとを述べる君たちにプレゼントだ。楽しんでくれたまえ」
ゼルンはそう言って奥に進み姿を消す。追いかけようとするが、凶暴化した兵士に道を塞がれてこちらに攻撃してくる。
「くそ!邪魔だ!!」
「オゼット君、ウインチェル、あのモンスターを足止めできる?」
二人は同意し、まずオゼットが兵士の足を斬り落とす、次にウインチェルが魔法の鎖で兵士の両手を縛る。直ぐに切り落とした足が再生し鎖を壊すが、その隙にウインチェルの魔法で再生した足元に沼を作り出し兵士を沈める。その後、アルメリアは兵士に近づき体に触れると瞬時に兵士は氷漬けになる。
「これは……」
「私はね、『異能者』と呼ばれる人なのよ」
この世界では稀に特殊能力を持った人間が生まれる時があるらしく、魔力を消費せずに能力や魔法を発動できる。そういう人達の事を『能力者』と始めは呼ばれていたのだが、人々に恐れられてから『異能者』と呼ばれるようになった。アルメリアとラルマがそれにあたる。
アルメリアは能力発動中に触れたものを瞬時に氷結させる能力の持ち主でこの能力の所為で裏ギルドの組織に裏切られ、殺されそうになったと語る。
「……さあ、先に進むわよ」
三人はゼルンの後を追うため、さらに奥の通路を進んだ。