17話 紫色のオーガと白い粉(後編)
急激に凶暴化したオーガ、先程とは比べ物にならない怪力を持ち、斬っても直ぐに傷口が塞がる再生能力がある。
「どうする?このままだと先に進めないぞ」
「ラルマ、シャーナさんを連れて先にテレンまで向かってくれ」
「え、でも」
「俺達の依頼はそのお嬢様の護衛でこいつの討伐じゃねえ、俺達が足止めするから早く行ってくれ!」
モーレアはラルマに怒鳴ると最初は戸惑うが、少ししてラルマはサイコキネシスでシャーナと一緒に剛火に乗り、ラルマは剛火を走らせる。
オーガは逃がすまいと持っていた大剣を剛火に投げるとオゼットは投げた大剣を弾き、そのまま詠唱を唱え始める。オーガは詠唱を阻止しようと攻撃するが、モーレアがそれを邪魔する。
「無視してんじゃねえよ」
「ブオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「うるせぇ!」
モーレアは鬼火をオーガの口に突っ込む。顔中焼け焦げても直ぐに元の状態に再生する。オーガがモーレアに襲い掛かる瞬間、真下に魔法陣が出現して光の鎖がオーガを拘束する。
「モーレアさん、今です!」
「ちっ、化物が!てめえにはとっておきの技をくれてやる」
モーレアは鬼火を自身に纏い、オーガに接近して拳のラッシュを繰り出す。オーガが反撃しようと鎖を壊して攻撃すると炎が壁状に変化し、攻撃を防ぐと同時にオーガの体に燃え移る。再生しても燃え移った炎が焼き尽くし、再生が追い付いていない。
モーレアはオーガに貫手で体を貫き心臓をえぐり出して潰す。オーガの体は鬼火で燃え続けて黒焦げになり、次第に灰になる。
オーガを倒して戦闘は終わり、レバンは少し休憩しようと提案し地面に座る。
「何だったんだ、あのオーガは?普通のオーガと違って異常に再生能力が高いし、強くね?」
「ああ、あんなオーガは初めて見る」
「これが最近噂になっていた紫色のオーガか、こいつはギルドで討伐対象になっているから遺品を回収できれば、報酬金が貰える……なんだけどな」
「悪りぃ、消し炭にしちまったわ」
レバンはとりあえずオーガを調べるが、遺体は灰になっていて原型をとどめていない。仕方なく周りのゴブリンの死体を漁ると白い粉が入った袋を見つける。
「なんだこりゃ?」
「白い粉…何かの薬か?でも何でゴブリンが持ってんだ?」
「一応、調べてみるか」
モーレアは白い粉が入った袋を回収する。レバンはゴブリンの死体の一部を回収して、全員でテレンに向かう事にした。
テレンに着くと正門前でラルマとシャーナが待っていた。二人と合流してシャーナが予約したホテルに向かう。
「この度は、本当にありがとうございました。これにて依頼は終了です」
「シャーナさんもお疲れ様でした。ゆっくり休んでください」
「皆様もお気を付けてお帰りください」
オゼット達はシャーナと別れてホテルの外に出ると、モーレアは連絡石を取り出す。この魔石は『テレパシーメッセージ』という通信魔法が込められており、魔術師でなくても効果を発動する事が出来る。いわゆる携帯電話みたいなものだ。テレパシーメッセージでウインチェルに連絡を取り、フィールドテレポートでイスフェシア皇国まで転移してもらうように頼み込んだ。
しばらくするとウインチェルがテレンの正門前に転移して合流する。ウインチェルはモーレアが仕事をサボった事に腹を立てており、帰還したら報告書と始末書を提出する事を条件としてフィールドテレポートでイスフェシア皇国に転移した。
イスフェシア皇国の入り口の門に転移し、レバンは依頼達成の報告をする為にギルドに戻る。
ウインチェルはモーレアを引っ張ってイスフェシア城に向かい、オゼットとラルマもついて行く事にした。
イスフェシア城に着き、オゼットは真理が眠る寝室に入る、しかし真理の姿が見当たらない。急いで医務室に向かいアルメリアに真理が何処に行ったのかを尋ねると王宮の間に向かえばいいと言われる。
王宮の間に向かうと話し声が聞こえる、とても聞き覚えがある声だ。中に入るとそこには玉座に座ってミーアと話をしている真理の姿があった。
「真理!!」
「翼?……翼!!」
真理はオゼットを見ると走って近づき、抱きしめる。
「翼、会いたかった…」
「俺もだ……あのまま目が覚めなかったらどうしようって思ったよ。本当に良かった」
二人は抱き合い続ける。途中でラルマが入って来たが、ミーアは空気を読んでラルマを連れて王宮の間から立ち去る。
しばらくして王宮の間にミーア、ラルマ、モーレア、ウインチェル、アルメリアが集まり、モーレアがアーガタイル大陸での現状を説明する前に真理が自己紹介をする。
「改めてはじめまして、柊真理です。皆さんには記憶喪失の時にお世話になりました。これからは皆さんと一緒にこの国の平和の為に頑張りますので、よろしくお願いします。」
自己紹介を終えるとモーレアはあらかじめ用意した報告書を手に取り、読み上げる。
テレン聖教皇国はデスニア帝国との停戦協定を破棄、イスフェシア皇国と同盟を組んで、デスニア帝国の攻撃に備えてテレン騎士団は勢力を増強している。
デスニア帝国はこのアーガイル大陸で広い地域を支配しており、異世界から仮面の男を召喚し勢力を増強、各国に攻撃をしているらしい。仮面の男の能力は不明、主力武器は大鎌で、各国で人を誘拐している。
コンダート王国は最近新しい国王が誕生し、その国王はオゼットがいた同じ世界から召喚された人物らしく、キーレ沖、バーグ沖にてデスニア帝国の主力艦隊と竜騎兵を文字通り消滅させたようだ。コンダート国王は鉄の杖ようなものを召喚し、その杖からは鎧を貫通する“何か”が飛んでくるらしい。それ以外に馬がいなくても動く鉄の馬車、鉄の船、鉄の竜(?)を召喚し、デスニア帝国によって占領若しくは実行支配されてしまっている地域を奪還すべく行動しているらしい。
エンペリア王国は隣国であり先祖代々交流のあるコンダート王国と同盟を組み、デスニア帝国と交戦中。
「まぁこんな感じだ。もっと詳しい情報が欲しかったが、他国の情報を手に入れる為にはデスニア帝国の領地を越えないといけないからな、こんなもんだろ」
ざっくりな説明だが、この報告書によれば仮面の男以外にも転移者や転生者がいるようで、コンダート王国にその両方がいるらしい。もしコンダート王国との協力関係が築ければデスニア帝国を叩けるチャンスにもなるだろう。
気になる点としては仮面の男とコンダート王国の国王はどんな能力を持っているのか?
オゼットのスキル『タキオンソニック』は最大で光と同じ速さで動くことができるが、仮面の男はそれ以上に動くことができる。オゼットより速いだけの能力ならテレン城の戦闘で変わり身人形を陛下に変化させ、本物の陛下を窓に投げた光景を見逃すはずがない。なので、高速移動系ではない別の能力ではないかと思っている。
コンダート王国の国王に関しては鉄の馬車、鉄の船、鉄の竜から察するに召喚系の魔法使いなのか?実際に見てみないことには分からないが、デスニア帝国の艦隊と竜騎兵を壊滅する力を持っている以上、この転移者との戦闘は極力避けるべきである。
次にアルメリアがシャーナをテレンまで護衛任務をした際にゴブリンが持っていた白い粉について説明をする。
「これはとても危険な薬よ。この粉にはこの世界では見たこともない物質が含まれており、異常な鎮痛効果と脳の活性化、興奮作用、更に魔術が込められていて、肉体強化、魔力上昇、再生能力の効果があると判明したわ」
なるほど、あの護衛任務の時に戦ったゴブリンや紫色のオーガが異常に強かったのはその薬の影響だったのか。
「この世界では見たことない物質って事は別の世界から来た物質って捉えられるわね。鎮痛、脳の活性化、興奮作用……まるで麻薬みたいね。その麻薬に魔法を込めた薬がこの白い粉って訳ね」
真理はその薬は俺達がいた世界にあった麻薬の性質とこの世界の魔法を混合させた化合物ではないかと推測する。もしそうなら麻薬をこの世界に持ってこられる人物は二人しかいない。
「仮面の男かコンダート王国の国王のどちらかですね……しかしコンダート王国は魔術の技術に関してはあまり高くないと聞きます。ですから薬品に魔術を込めるという高度な技術は出来ないと思います」
「では、この白い粉は仮面の男が俺達の世界から持って来て、デスニアの連中が魔術を使って改造したと?」
「それならば、最近テレン付近に異常な強さを持ったモンスターが出回っているって話も納得できる。奴らは裏切った腹いせに国の付近に薬をキメたモンスターをばら撒いたんだろうよ」
もしこの白い粉が仮面の男の仕業だというのなら、何かしらの手を打たないといけない。まずはテレンに白い粉について報告をし、両国で対策を練らねば。
「では俺がテレンに行って皇帝に話してきます」
「私もついて行きます」
「俺はソルジェスに行ってこの白い粉についての情報を聞いて来るか」
オゼットはウインチェルと共にテレンに向かい、モーレアはギルドに行ってお互いに白い粉についての報告と情報を聞くためにそれぞれ向かうのであった。