16話 紫色のオーガと白い粉(前編)
ゴブリンの大群を倒してテレンに向かうオゼット達は、草原の中を馬車で進む。そして日は沈み、月が登り始める。
「もう少しで夜になるから、今日はここら辺で野宿だな」
レバンは野宿の提案をする。暗闇の中進むのは危険で、夜になるとモンスターは凶暴化するとモーレアは言うので一同はテントを張り、野宿する事にした。
シャーナはシャワーを浴びたいと訴えるがそんなものはないとモーレアは言い返す。オゼットはIMSPでゲートを出現させ食材と調理器具を取り出す、どうやら変身をしなくてもアイテムや武器は取り出す事は出来るみたいだ。ただし、魔力は使えないので武器の効果は使えない。
さて、料理を始めよう。初めに玉ねぎとジャガイモ、人参の皮をむく。人参は乱切り、玉ねぎはスライスし、ジャガイモは一口サイズに切り5分ほど水にさらしてから取り出して水気をきる。フライパンを軽く熱し温まったら油をひいて豚肉と一緒に切った野菜を軽く炒める。鍋にお湯を沸かし、沸騰したら具材を入れて煮込む。
テントを張り終えるとレバンは料理の香りに釣られてオゼットに近づく。
「何を作っているんだ?」
「カレーだよ」
「おお!カレーか、いいね!」
後は鍋にカレーのルゥを入れて溶かし、煮込めば完成!
出来上がったカレーとご飯を皿に盛って皆に配る。
「とても良い香りですね」
「早速食べようぜ!」
「それでは皆さんご一緒に、いただきます!」
「「いただきます!」」
全員でカレーを食べる。モーレアはオゼットが作ったカレーが気にいったのか、直ぐに一皿目を食べ終わり、おかわりをする。
シャーナはカレーライスを食べるのは初めてらしく、よく味わって食べる。
「美味しいです!」
「そいつは良かったです」
「ねえシャーナさん、何故テレンに向かうのですか?」
「近い日に私のお姉様が結婚するの」
シャーナの姉はテレンにあるパン屋で働いている男と恋をしていた。両親は最初反対をしていたが、姉の強い意志と行動力で説得に成功し、男と一緒にパン屋で働き近日中に結婚式を開くことになった。シャーナはその結婚式に参加し、姉にプレゼントを渡す為にテレンまでの護衛任務を依頼したのだ。
「そう言うことでしたら必ずや、我々がテレンまで送りましょう!」
レバンは感動したのか、涙を流しながらシャーナの手を握る。
しばらくして食事は終わり、片付けをする。
「よし!飯も食ったし、俺は先に寝るわ……後、レバンとオゼットはテントに入って来るんじゃねぇぞ」
「皆様おやすみなさいませ」
モーレアは先にテントに入りシャーナもラルマを連れて後に続く。
「じゃあ俺達は馬車の中で寝るかね」
「そうですね」
オゼットとレバンは馬車に入り一夜を明けるのであった。
次の日の朝、皆目を覚まして馬車でテレンに向かう。後、約4時間でテレンに着くだろうとモーレアは言う。相変わらずシャーナはラルマをぬいぐるみ扱いし、ラルマは最初、抵抗をしていたが今は諦めてじっとしている。
「テレンに着いたら何しようかな~」
「テレンとはつい最近、戦争したので何か行き辛いな……」
「戦争って言う割にはすぐに終結したよな。まあいいじゃないか、今は同盟を結んでいるんだし」
オゼットはレバンと雑談しながら双眼鏡で周囲を警戒している。このまま問題なく進めばいいのだが。
一方、インフェシア城の女皇の寝室でまだ意識が戻らない真理は黒い空、白い地面の空間にいた。少し歩き続けるとそこには白いテーブルで読書をしている一人の女性の姿があった。その女性は真理を手招きする。恐る恐る近づくと椅子に座るように言われた。
「はじめまして真理様、私はフェリシア、この世界を監視している女神の一人です」
真理はフェリシアの言葉に耳を疑う。今この人自分のことを『女神』って言ったの?ああ、これは危ない夢だわ。私ってば最近は新人研修で勉強が大変だったし、不審者には捕まるし、挙句の果てに崖から落ちたんだっけ?……ということは、ここはあの世なのかもしれない。一応、挨拶をされたのだからちゃんと返さないと失礼よね。
「はじめましてフェリシアさん。柊真理です。ここは天国ですか?それとも地獄ですか?」
「いいえ、ここはこの世とあの世の狭間の空間……夢だと思って頂ければ結構です」
「夢……ですか。でしたら私、早く覚まさないといけないので失礼しますね」
真理が席から立とうとした瞬間にフェリシアは真理の腕を掴む。
「翼様と言い貴女と言い……何故あなた方は颯爽と立ち去ろうとするのですか?」
「!? 今翼って言いました?もしかして翼もここに来ているの?」
「ええ、貴女を助ける為に。そして貴女は知らなくてはなりません。この世界に起きようとしている災いについて、これから貴女に与える“力”についてね」
真理はそれを聞いて再び椅子に座る。フェリシアはテーブルの上にサファイアのペンダントを置き、真理に渡して“力”について説明し始めた。
一方、オゼット達は馬車での移動を続けている。長い旅路で疲れたのかシャーナとラルマは寝ている。
「レバンさん、後どれぐらいでテレンに着きます?」
「後、2時間っていったところだな」
「ここまで来るのに長かったですねー。俺も転移魔法が使えれば良かったのですが……」
「それは仕方ないだろ。勇者でも出来ないモンはあるだろ。ってかいつもの高速移動でお姫様を抱えてテレンに行くことは出来なかったのか?」
「そんなことしたらシャーナさんはG(重力加速度)に耐えられなくて潰れますよ」
「「ははははは」」
オゼットとレバンが雑談している最中に突然、空から大きい丸太が降ってきた。剛火は即座にその場に止まって丸太の直撃を回避するが、馬車の上にいたオゼットは空中に飛ばされる。中にいたモーレア、シャーナ、ラルマは壁や扉に激突して目が覚め、外に出る。
オゼットはIMSPを起動して態勢を整える。一体何処から攻撃がきたのか、確かに双眼鏡で周囲を警戒していたが人影は見当たらなかった。
黒い空間から紫色のオーガと複数のアンデッドゴブリンが現れる。
「コンニチハ」
紫色のオーガがご丁寧に挨拶をしてくる。
「オ前達ハ、ココデ死ンデモラウ。ソシテソコノ娘ハ、モラッテイクゾ!」
紫色のオーガはシャーナに指をさす。同時にゴブリンは剣を構えて突撃してくる。
モーレアは突撃してくるゴブリンを抑えて、レバンは馬車の上でゴブリンに矢を放つ。
紫色のオーガはモーレアの角を見て彼女に近づき、攻撃を繰り出す。
「オ前、鬼人ダナ?」
「だからどうした?」
「シカモソノ角ヲ見ルニ半鬼人ダナ…オマエ、俺ノ女ニナレ。ソウスレバ命ダケハ助ケテヤル」
「……面白れぇ、ぶっ殺してやるよ!」
「俺ニ勝テルト思ウナヨ」
モーレアは紫色のオーガに蹴りを与えて、剣で足を斬る。オーガが膝をつくと透かさず鬼火を顔面にぶつける。
オーガの顔面は焼け焦げ、ゆっくりと倒れていく。
「ちっ、雑魚が…」
周囲を見渡すとオゼットはタキオンソニックを発動してゴブリン達を次々と撃破していく。ゴブリン達の抵抗は無意味に終わり、数分後ゴブリンと紫色のオーガを倒して戦闘は終わった。昨日戦闘したゴブリンの大群の方が苦戦したとレバンは言う。
「いきなりでかい丸太が降ってきて何かと思えばこんな雑魚集団が相手とは…これじゃ丸太の方が強いんじゃねぇの」
「まあ、これで先に進めるな…テレンまで後どれぐらいだ?」
「後…1時間半ぐらいかな」
「そうか、さっさと行こ…」
モーレアが先を急ごうとしたその時、紫色のオーガが立ち上がって突進してきた。よく見ると顔面に喰らわせたはずの火傷が完全に治っている。
「どうなってんだこいつ?確かに殺ったはず…」
「ウウ……ガアアアア!!!」
「モーレアさん、一旦下がって!」
オーガはモーレアを蹴り上げて、空中に浮いた瞬間に腹に拳を放つ。オゼットは吹っ飛んでいったモーレアを捕まえて地面に着地する。紫色のオーガはゴブリンの一匹が持っていた大剣を持ち再び突進してくる。
「こいつ、さっきまでとは全然違う」
「ウガガアアガ」
「てめえ、調子にのってんじゃねえ!!」
再びオーガに切りかかるが、しかしさっきと違い切り裂いても瞬時に再生してしまう。モーレアは一旦距離を取って態勢を整える。
「ウガガ…」
「おい!さっきはよくも手を抜いてくれたな」
「ギャアアオオオオオオオオオ」
「話が通じねえ…どうなってんだ?」
まるで別人みたいに変わり果てたオーガ、こいつを倒さなければテレンにたどり着く事は出来ない。