148話 絆と想い、ひとつとなりてこの世に希望の光を照らす
大気圏の熱で体が焼ける中、何とかヴェノムのところ戻ろうと俺は魔法を唱える。
「『コンプレッションホールド』!!」
『コンプレッションホールド』は空間を圧縮して相手を潰す魔法だが、この魔法を自分の背後の空間を圧縮し、解除した反発を使って再び宇宙空間に辿り着く。
ヴェノムは魔力を貯めた球体を持ち上げそれを投げようとしている。
「これで終わりだ」
「終わらせるか!!」
ヴェノムが魔力の球体を投げた。俺は『ウェポンズ・サモン』でノックバックホームランを取り出して球体に向かって投げる。球体に当たるとそのままヴェノムのところに返って直撃した。
「ほう、まだ足掻くか。しかしいい加減目障りになってきたな……失せろ」
ヴェノムは魔法で弾幕を張るとその弾幕の軌道を変えて全て俺に直撃させる。
「ぐあああああああああ」
元々の防御力とライフセイバーの回復能力のおかげで死なずに済んでいるがそろそろ限界だ。IMSPを長時間使用した影響か体が痺れて動きが鈍い、頭もぼーっとしてきた。
「イスフェシアの勇者!!」
後ろから声が聞こえる。あの人は確か黎明の塔にいたレイブンの妹だ。しかも首から下は体が凍っている状態でどうやってここまで来られたんだ?
「私の腕に巻いている腕時計を取って付けてください!」
「え、でもそうしたら君は……」
「大丈夫です。私が死んでも魂はこの腕時計に入るので!っていいから早く!!」
俺は彼女の言う通りに腕時計を回収して左手に巻いた。よく見るとこれはレイブンが付けていた腕時計……確かCCSとか呼ばれていたやつじゃないか。
腕時計からフェリシアの声が聞こえる。
―翼様!亜紀様にそのCSSをかざしてください!―
言われた通りにするとCSSが光り出し彼女の魂らしき球体が腕時計に入っていき、抜け殻となった体は消失する。
―翼様、そのCSSから真理様が持つ幻想の宝玉を取り出しますのでそれを装備してください―
真理が付けていたペンダント……幻想の宝玉が目の前に現れ、それ持つが右腕がないから首に付けることができない。しかし段々と痛みが消えて体から力が湧いてくる。
―今こそ邪悪を祓う黄金の魔力をあなたに!!―
フェリシアはIMSPの組み込まれている魔石……自身の魔力の一部と幻想の宝玉の自身の力の一部を回収して本来の力を取り戻す。そして再び自分の力をIMSPに注ぎ込むと端末は金色に輝く。
俺はIMSPを起動させると画面に“Transcend Evolution”の文字が表示され服が金色に輝く。
失った右腕と焼けた体は元通りに回復し、さっきまでの痛みや疲れもなくなった。
力がみなぎる。これならまだ俺は戦える!
「その忌々しい輝きはあの女神の力か」
「いくぞヴェノム!俺がいる限り、お前の野望が叶うことはない!!」
どうやら宇宙空間でも空を飛んでいる鳥みたいに自由に動けるようだ。
俺は金色に輝くライフセイバーでヴェノムに斬り掛かる。ヴェノムは手で払い俺を吹き飛ばしたが、『タキオンソニック』を発動して右腕を一刀両断する。
ヴェノムは笑いながら切断された右腕を再生させようとすると切断部分が光って再生ができなくなっている……というよりも再生するよりも早く体の一部が光りながら消滅していく。再生能力が追いついていない。
「どういうことだ?」
「無駄だ!俺の体や俺が持つ全ての武器にはオメガ・アイギスと同じ光粒子に変換する力がある。その力と女神が貸してくれたこの魔力があればお前再生能力より早く変換できる。」
「小賢しい真似を!」
ヴェノムは光の消失を防ぐためにその光に時を止める能力を発動して光による消失を阻止した。
そして時を止める能力を発動して俺を止めようとするがCCSの力で時を止めたとしてもその影響を受けることはない。しかしヴェノムは自身の時を戻して失ったはずの右腕は元に戻した。
次にヴェノムは口から魔力の放流を放つと俺はそれを素手で弾き、ヴェノムに返す。一瞬怯むと俺は奴の顔面に向かって殴った。月と同じ大きさのヴェノムは破れた風船みたいに吹っ飛んだ。
『タキオンソニック』で追いついて追撃する。
「馬鹿な、女神の魔力があるとはいえこの我が押されるだと?」
「フェリシアの力だけじゃない。お前がレイブンに渡したCCSの力、そしてこのCCSに入っている魂達が俺に力を貸してくれている!!」
「何を意味不明なことを!」
ヴェノムは近くにある星に重力魔法を掛け、それを俺にぶつけてくる。しかし俺の体は傷一つ付かない。
俺はライフセイバーでヴェノムの心臓部に刺して開き、左手を突っ込む。
「CCSよ、メシアの魂を回収しろ!!」
その声に応じたのかの様にCCSは光り出しそこに眠っていたメシアの魂を回収した。
ヴェノムはこれ以上好きにさせまいと火球を手のひらに召喚しその火球に時の魔力を掛ける。すると最早火球というよりも太陽と呼べるぐらいの大きさになった。
「これでアーガイル大陸を焼き払えば、例えお前が強かろうが関係ない!!」
「……」
「これで終わらせてやるわ!!」
俺は右手に魔力を集中させて詠唱をする。
-黄金の魂と女神の魔力が交わる時、あらゆる絶望を祓い希望の未来を照らし出す! 超越せよ! トランセンド・アイギス・オーバーライト!!―
黄金の盾を召喚した俺はヴェノムが放った太陽に向かって突進する。
「馬鹿め、いくらお前の盾が優秀だとしてもこの熱量でお前は……何だと!?」
盾から放たれた光の波動に触れた太陽は線香花火の様に光になって散っていく。そしてそのままヴェノムへ突き進み体を貫く。貫いた個所からは光粒子が舞って体は消滅し始める。
ヴェノムは時を戻そうと能力を発動するが時は戻らない。それどころか体中の魔力が抜けていく感覚がする。
「何故だ!?」
「この盾はあらゆるダメージを0にして光粒子に変換する能力、そして相手が能力か魔法を発動した際にその効果を任意の効果に上書きする能力がある。お前の時の能力は発動したら自身の魔力を0にする効果に上書きした」
「ず、ずる過ぎる!!この我が、時の邪神と恐れられた我が消える?こんな小僧に負けるのか!?」
「そう、お前の負けだヴェノム。光になって消えろ!」
「おのれぇ……おのれぇぇぇぇ!!イスフェシアの勇者!!!!」
ヴェノムの体は光になって消滅した。それはこの戦いを終わらせ勝利を掴んだ瞬間でもある。
俺はCCSで黒い空間を出現させて皆がいる黎明の塔に戻るのであった。




