147話 決断
一方、レイブンは黎明の塔に転移するとルアール達が集まってくる。彼女達はあれから下の階からやって来る人形達を退治して一息ついていると頃だったらしい。
「おかえり中佐殿、無事?」
「ああ、何とかな……しかし状況はこちらが劣勢だ」
レイブンが赤い月での出来事を説明すると皆でこの状況を打開する方法を考える。
空にあった赤い月は無くなり変わりにこの位置からでも見える化物がいる。こんなに目立つ化け物が見えるのに他の国は何故動かないのかをモーレアが尋ねるとルアールが言うにはウインチェル達によって瀕死状態になった時に一度帝国に戻ったのだがその時、帝国からはあの赤い月が見えなかったのだ。おそらくだがこの大陸……いやこの世界に認識阻害の結界を張っているのではないだろうかと語る。
しかしそれではイスフェシア皇国やテレン聖教皇国で見える理由がわからない。モーレアはCCSに入っているウインチェルにこの現象について問い詰めるが、反応がない。
「ちっ、こんな時にだんまり決め込むとはいい度胸だぜ」
「このままただ、見ているだけしかできないのか?」
「方法はあります」
階段から声がする。ガイル達が無事にマリー様を救出できたみたいだ。
アルメリアはマリー様のところまで走って抱きつこうとするとそうはさせないとガイルが彼女の肩を掴んで止める。
「話の腰を折らないでよ」
「だってマリー様がご無事かどう診察をしようと……」
「噓がバレバレだよ。あーちゃんはマリー様が大好きなのはわかるけど今は自重してね」
ミーアに言われて渋々とアルメリアは下がる。
「あの魔獣……アームスヴァルトニルはかつてイスフェシアの魔術師達が封印しました。そしてその方法は女神から与えられた結晶石を媒介にして封印したと書物庫にあった本に書いてありました」
レイブンがCCSからフェリシアを呼びかける。
「今の話が本当ならその結晶石あるか?」
―はい、この結晶石は神すら封印する事が可能です。しかし封印できるのは一体の魂のみであの魔獣にはヴェノムもいます。二つの魂を同時に封印は不可能なのです―
「フェリシア様、どちらかを倒す方法はないのかよ?」
モーレアが尋ねるとフェリシアは残念ながらと声のトーンが低くなる。
「結晶石が二つあれば両方とも封印できるとは思うのだけど……そんな都合の良い話ないよね?」
「仮にあったとしてもどうやってあの場所まで行くんだ?」
―私の力であの場所まで転移する事は可能です。宇宙空間でも呼吸や人体に影響がないように魔法も掛けることもできます。しかし結晶石は一つ、そして封印する為には膨大な魔力が必要です―
「現状その膨大な魔力を持っているのはイスフェシアの勇者だけか……」
仮にオゼットに渡せたとしてもアームスヴァルトニルと体と融合しているヴェノムを何とか切り離さないといけない。
「なら俺をあいつらのところまで連れて行け。CCSでどちらかの魂を封印しよう」
「でも中佐殿、どうやってあの化物から魂を回収するのですか?中佐殿のその力は相手を倒さないと魂を回収できないですよね?」
「それにいくら転移者が強いからってあの化物を倒せるのかよ。おそらくこの世界にいる全員が戦っても倒せないんじゃね?」
ボーマが言うとハンソンとナリタが諦めるなと喝を入れる。
「たとえ倒せなくても無力化すれば良いわ。昔の魔術師達が封印できたのだから私達でも封印は可能なはず」
「そういえば、どうやって魔術師達はあの化物を封印できたんだ?あの時代にはオゼットみたいな転移者もいなかったんだろ?」
疑問に思ったモーレアはフェリシアに聞く。
―その昔、イスフェシアの魔術師達は私と別の女神と協力してアームスヴァルトニルの力を弱らせ、その女神の魂と引き換えにして一人の魔術師に力を与えることであの魔獣を封印する事ができました―
「つまり、あの化物を封印するにはお前の魂を使わないといけないと?」
「そんなの駄目!!」
ラーシャが叫ぶとレイブンは彼女の頭をポンポンと叩く。
「同感だ。仮にお前の魂を使って力を得て封印できたとしても、またあの魔女みたいに封印を解く者が現れるかもしれない。その時にまた封印が解かれてしまえば今度こそ誰もあの化物を封印できなくなる。何より俺の妹を蘇らせる約束を守らず消えることなど許さん」
―しかし、今のままでは……―
「一つ質問だ。イスフェシアの勇者が持つスマホはお前の力が宿っているよな?俺のCCSにはあの邪神の力の一部が宿っていて時を止める以外にも力が上がるとかな。もしこの力(CCS)をあいつに渡したらあの化物を倒せるか?」
フェリシアは少し考え込むと一つの手段を閃いた。
「一時的にIMSPとあなたの腕時計、後は真理様の幻想の宝玉を一つにします。そして私の力で強化すれば倒せるかもしれません」
「お前の力の強化を使ってお前が死ぬことはないんだな?」
―はい―
「ではそれでいこう。俺を転移しろ」
「待ってください!中佐殿のCCSをイスフェシアの勇者に渡したら中佐殿は無防備になるのでしょうか?」
ジャックの言うことも一理ある。さっきまで赤い月に転移しても呼吸できたのは赤い月全体に結界が張られていたからで今の状況でオゼットにいるところに転移して渡せたとしてもCCSの力が使えなくなった時点でレイブンは無防備になって下手したら宇宙空間を彷徨う事になる。
「確かに俺は死ぬかもしれないがCCSで魂を回収すれば問題ない」
「いやそんなこと許す訳ないでしょ!」
「俺以外がCCSを持たせてあいつのところに行ったとしても同じ事だろ?」
「しかし!」
「私に行かせてください」
亜紀は凍り付いた体で何とか喋った。レイブンは当然、却下する。
「ふざけるな。お前、あの魔女……いや魔獣の力で体がいうこときかないんだろ?」
「今の私の体だったら痛いとか寒いとかの感覚がないからこの凍ったままで私に腕時計を持たせてくれれば大丈夫」
「だからってお前が二度も死ぬことも無いだろ!」
「どのみちこの体じゃ長くは生きられないよ。それに兄貴が私を蘇らせてくれるんでしょ?私は信じているから……」
「…………」
レイブンは地面に拳を叩き付けて一度冷静になる。CCSだけを転移させたところであの勇者が気付かなければ意味が無い。この状況を打破する為に他に方法はないかを考えるが正直、直ぐに考えが浮かばない。
「……必ず蘇らせるからな」
レイブンはCCSを亜紀の腕に巻く。フェリシアは亜紀と共に転移魔法でオゼットがいるところに向かった。




