146話 災厄と最悪、ひとつとなりてこの世に絶望の闇を齎す
こちらに向かってくるのは先程倒したはずのメシアだった。
「もうやめろ!アームスヴァルトニルは俺達が倒した!ウインチェルの魂はこいつの腕時計の中にあるって後でフェリシアっている女神が皆纏めて元の状態に戻してくれるんだ。だからもうお前が戦う理由なんて無いだろ!!」
「マダダ……マダ我ガ願イハ叶ッテオラン」
何か様子がおかしい。メシアがレイブンに攻撃をする。狙いは彼の腕時計のようだ。何の目的かは知らないが、あの腕時計を壊されるわけにはいかない!
「やめろぉ!!」
俺は剣を振ってレイブンとメシアとの距離を広げた。レイブンが時の魔法を発動する。メシアに効かないのは知っているはずだが何故かメシアは「ソノ魔法ヲクレテヤッタノハ誰ダト思ッテイルンダ?」と言うとレイブンは気づいてメシアに聞く。
「お前、ヴェノムか。聞きにくい言葉の所為でわからなかったぜ」
「オマエ達ノ…オカゲデ我ノ魂ハ解放サレ、コノ者ノ体ニ憑依スル事ガデキタ。オマエ達ニハ感謝スルガ我ノ願イヲ叶ナエル為ニハ邪魔ナ存在ダ。消エテモラウゾ!!」
「はっ、お前の願いを叶えたら亜紀を転生させてもらう約束だったが悪いな。別の女神と約束して蘇らせることにしたわ。だからお前の願いをもう聞く必要もないな」
「構ワンゾ。モウオマエニ要ハ無イノダカラナ」
メシアもといヴェノムは拳を地面にめり込ませると魔力を注ぎ込む。
「何をする気だ!」
「我ハ時ノ邪神、オマエ達ガ倒シタ魔獣ヲ蘇ラセルナンゾ容易イ事ヨ」
「まずい!」
「あいつは何をしているんだ?」
「あの化物の亡骸に魔力を注ぎ込んで時間を戻している。つまり俺達が倒す前までの状態にする気だ」
レイブンはCCSの力を発動する。レイブンの言っていることが本当ならアームスヴァルトニルを倒す前の状態に戻すということは真理達の魂もあの魔獣に戻るということになる。それを阻止するためにレイブンはCCSの力で自身が時の魔法の影響を受けないようにしたのだ。
真理達の魂はCCSの中に留めることに成功したが、地面から倒したはずのアームスヴァルトニルが飛び出して復活を果たす。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
次にヴェノムはアームスヴァルトニルの頭の上に瞬間移動し、『オーバー・ドレイン』を発動してアームスヴァルトニルを吸収した。メシアの体に憑依したのは彼の技を使う為だったのだ。
「月ノ魔獣ヨ、我ガモノニナレ!!」
ヴェノムから凄まじい魔力が伝わってくる。地面が段々崩れてヴェノムの体に取り込まれていく。
このままでは魔法陣が崩壊して黎明の塔まで帰れなくなる。俺はレイブンを魔法陣のところまで押し飛ばした。
「おい!」
「真理達を頼んだぞ!!」
「そうしたらお前が!」
「大丈夫!何とかこいつをぶっ倒して帰るから!」
レイブンが何か言おうとしていたが魔法陣が光って彼は黎明の塔まで転移した。そして魔法陣が展開された地面は崩壊しそれと同時に魔法陣も壊れる。
「我を倒して帰るだと?図に乗るなよ人間」
後ろに振り向くとさっきまでカタゴトだった時の邪神は月の魔獣と融合しその肉体は月と同じ大きさになっていた。IMSPの能力なのかは知らないがこの状況でも呼吸はできるのは唯一の救いともいえる。
そしてヴェノムは自信と俺を皆がいる惑星の目の前まで転移魔法で転移する。俺は自身に重力魔法を掛けて月面の欠片に着地する。あんな奴にあの星を壊させるわけにはいかない。ここであの邪神を倒す!
ヴェノムは俺がいる月面の欠片ごと握り潰す。俺はジャンプしてヴェノムの腕に乗り、走って目にライフセイバーを刺す。しかしダメージは通らない。ヴェノムはハエを払うかの様に俺を宇宙空間へ飛ばした。
「くっ!」
「これでは話にならんな。お前が邪魔したとしてもこのままあの惑星を壊しにいけるぞ」
ヴェノムは大きく口を開けて魔力を集中させる。
俺はヴェノムの前まで飛んでヴェノムの攻撃を防ぐことにした。
-目覚めよ、黄金の魂! その魂はあらゆる絶望から生命を守る希望の光なり! 降臨せよ! オメガ・アイギス!!-
ヴェノムの口から膨大な魔力を放流する。オメガ・アイギスのフィールドバリアを可能な範囲で展開して放流を防ぐ。それと同時に自身に重力魔法を強くかけて押し飛ばされないように自分を今いる位置に固定した。
魔力の放流はとてつもなく強大で少しでも油断すると盾ごと惑星まで吹き飛ばされそうになる。
「うおおおおお!!」
何とか魔力の放流を防ぎ切ろうと重力魔法をさらに自信にかけて踏ん張る。放流を光粒子に変換し続けると段々と威力が弱まっていく。
「そうだな。このままあの忌々しい惑星を壊してもつまらんな。お前には楽しませてもらうとしよう」
魔力の放流を出し切ったヴェノムは自信に時の魔法を唱えると数分前の魔力の放流を出す瞬間まで時を戻す。再び魔力の放流を放った。
俺はオメガ・アイギスで防ぎ続けるが盾が光り出し点滅する。もうすぐ限界時間である3分を迎えようとしているのだ。
しかしここでオメガ・アイギスを解除してしまえば皆がいる惑星は滅びてしまう。そんなとはさせない!
「ぐわああああ!!」
オメガ・アイギスは3分以上使用し続けると使用者が光粒子に変換されるデメリットがある。俺の右腕は先端から段々と消え始めたがそれでも魔力の放流を防ぐ。
少しすると魔力の放流の威力は弱まって消えた、どうやら出し切ったようだ。しかしこちらの右腕は光粒子に変換されてしまった。俺はオメガ・アイギスを解除して重力魔法でヴェノムのところまで近づく。再びライフセイバーに魔力を注ぎ込んでヴェノムの頭に差し込むが傷をつけるので精一杯だった。
「ほう、あの一撃を防いだだけではなく我に傷をつけるか。少しはやるようだがもっと我を楽しませよ」
ヴェノムは俺を掴むとハンバーグの空気抜きみたいに片手から片手へキャッチボールする。その後、俺を惑星の方向に投げる。大気圏の熱で俺の体は焼けていく。
「ふん、所詮は人間。我と戦うこと自体がおこがましい上に不敬だ。しかし我の一撃を防ぎ切った褒美としてゆっくりと死んでいくがいい」
ヴェノムは再び魔力を集中させて次の攻撃に入るが俺は大気圏の熱に包まれて意識を失った。




