145話 正義の味方と悪の敵
アームスヴァルトニルは俺を目視すると巨大な手でハエたたきをするように潰しにかかる。
「『タキオンソニック』!」
攻撃をかわして弱点のように見える心臓部に剣を振りに行く。
ガキンッ!!
見た目は宝石だがこの世の物とは思えないほどの硬さだ。ならばあれを使うしかない!
-目覚めよ、黄金の魂! その魂はあらゆる絶望から生命を守る希望の光なり! 降臨せよ! オメガ・アイギス!!-
「オメガ・アイギス!!」
心臓部にオメガ・アイギスをぶつけて光粒子に変換しようとするが効いていない……いや、効いていないというよりも瞬時に心臓部が再生されて変換が間に合っていないみたいだ。
アームスヴァルトニルは虫を払うように俺を叩いた。
「ぐはっ!!」
あまりにも強烈な一撃に意識を失うところだった。直ぐにアイテムで回復とステータスを強化して再び攻撃を仕掛ける。
心臓部以外にも腕や胴体、頭にオメガ・アイギスをぶつけるがいずれも光粒子に変換よりも再生能力の方が上回ってしまう。
そしてアームスヴァルトニルの攻撃を防ごうとしても強烈一撃に盾が耐えられても俺へのダメージが貫通する。
「ち、ちくしょう……」
オメガ・アイギスの周りから光粒子が出始める。これはこの盾の制限時間がもうすぐ3分経つ合図だ。これ以上使用し続けると使用者である俺が光粒子に変換されてしまうのでオメガ・アイギスを解除した。
まだ他に倒す方法があるはずだと俺は『自動詠唱』で予め仕込んだ魔法を解放した。
「究極呪文、『アブソリュート・ゼロ』!!」
アームスヴァルトニルを凍らせて動きを止めようと試みるとアームスヴァルトニルは雄叫びをあげる。すると発動した氷は一瞬にして蒸発する。
まさか究極呪文が一瞬にして消されるとは思わなかった。まずい、このままでは勝つ方法がわからないな。
オメガ・アイギスによる光粒子に変換は間に合わず、国一つ滅ぼす魔法も消されるとなると、どうにかしてあの化物の弱点を見つけなければこの世界が終わる!!
「待たせたな」
レイブンが合流して現状がどうなっているのかを聞く、俺の話を聞いて試しに時を止める魔法を使うと案の定、アームスヴァルトニルは時が止まっても動いているようだ。
「だるいな。他に手がないのかよ」
「まだ物理攻撃を試してないけどオメガ・アイギスの効果を上回る再生能力持っているからなぁ」
―いいえ、まだ手はあります―
どこからか声が聞こえる。この声はフェリシアだ。レイブンはフェリシアに問いかける。
「どうやってあの化物を倒せばいい?」
―私達の力で一時的にアームスヴァルトニルの能力を無効にします。その間に心臓部を攻撃してください。そうすればダメージは与えられます―
「“私達”ってことはもしかして真理もいるんですか?」
―はい、真理さんとラピスさん、そしてウインチェルもアームスヴァルトニルの心臓部に取り込まれています。しかし私達の肉体はもうこの世には存在していません。私ならともかく真理さん達はもうこのまま魔獣の動力源になるしかありません―
「そんな!!何とかならないのですか!?」
―魂しかない状態では今の翼様だと魂を保管する方法がありません。翼様、どうか真理さん達をこの苦痛から解放してください―
俺はフェリシアの言葉を聞いて絶望する。何のためにこの世界に来たのか、何のためにここまで戦って来たのか。それは真理と一緒に元の世界に帰るためだ……それなのに!!
レイブンは少し考えてフェリシアに問う。
「おい、魂をどこかに保管すればラピス達を元に戻すことはできるのか?」
―はい、彼女達の体は私が復元させて魂を定着させれば普段と変わらない生活はできます―
「わかった。あの化物の能力を無効化してくれ」
「おい!真理達が……お前の仲間だってこのままでは助けられないんだぞ!?」
「そう思っているのはお前だけだ。本気で助けたいんだったら、まずはあの化物をボコすぞ」
アームスヴァルトニルの心臓部が光り始める。それを確認したレイブンは魔法でアームスヴァルトニルの両手と首に紫色の鎖で拘束した。するとアームスヴァルトニルは時が止まったかのように微動だにしない。
「今だイスフェシアの勇者!あの化物を叩け!!」
「真理達を助ける策はあるんだな?信じるぞ!」
高くジャンプして自分が持てる全ての魔力をライフセイバーに注ぎ込む。そしてアームスヴァルトニルの頭から全身を両断した。
アームスヴァルトニルの左側半身は消えたが右半身のみは動きを始める。右手でレイブンを思いっきり殴り飛ばす。
俺はアームスヴァルトニルの右手首を切り落として止めに心臓部に目掛けてライフセイバーを投げた。心臓部に刺さるとアームスヴァルトニルは倒れこみ心臓部は硝子が割れたかの様に崩れ始める。
「CCS、今こそ俺の期待に応えよ!」
レイブンが付けていた腕時計が光りだす。すると心臓部から魂と思われる球体が4つ腕時計の中に入っていった。腕時計からフェリシアの声が聞こえる。
―ありがとうございます。彼女達は私が責任を持って元に戻しますのでご安心くださいー
「一つ頼みがある。あの惑星に俺の妹の魂もお前達が化物に囚われていた時と同じ状態なんだが。妹の魂を取り戻したらラピスと同様に元の体に戻せるか?」
―いいでしょう。少しお時間をいただけるのであれば必ず妹さんを復元致しましょう―
「助かる」
レイブンは黎明の塔まで転移できる魔法陣まで向かい帰ろうとする。何だかあっけなく終わったような気がするが、理由はどうあれ俺達の戦いはこれで終わったんだ。
そして真理を元に戻したら俺達の世界に帰ってまたいつもの生活をしよう。
魔法陣の前に辿り着いて黎明の塔に戻ろうとするとどこかからガシャンッ!!と大きい音が聞こえる。
音の方角を見るとそこには一人の男が立ち上がってこちらに向かってきたのだった。




