144話 彼女が望む理想郷
一方、黎明の塔の頂上でレイブンと亜紀は戦い続けていた。長時間の戦闘でレイブンは疲れて動きが鈍くなっている。しかし亜紀はその素振りを見せないでいる。死体だから疲れないのか?それとも疲れない魔法でも使っているのか?といろいろ考えられるが、このままだと敗北で勝負は終わってしまう。
「よう、待たせたな!」
「中佐殿、助けにきましたよ!」
下の階からルアール達が登ってきた。レイブンは目の前にいる亜紀に着いて説明をして傷をつけるなと命令する。
亜紀は先程の戦いで相手の魔法と能力を封じる技をもう一度使った。
「皆さん逃げてください」
亜紀が注意を促す中、一人の半鬼人が亜紀に近づく。
亜紀は両手斧で攻撃しようと振るとモーレアは両手斧を掴み、そのまま奪って放り投げた。
「安心しな。力比べならお前は絶対に俺には勝てない」
モーレアは亜紀を拘束すると叫んだ。
「いるんだろアルメリア!さっさと出て来てこいつを凍らせろ!!」
階段から冷気が伝わってきてミーアとラーシャは寒気がして来た。そしてそこからアルメリアが登ってくる。彼女は亜紀の魔法と能力を封じる技の影響を受けていないようだ。
「よくわかったね」
「はっ、こんな寒い気を放って気付かないのは無理だろ」
「あーちゃん!お帰り!!」
「ただいま皆……あれ?皆私が生きているって知っていたの?」
「最初は死んだと思ったけど、戦闘の途中から覚えのある魔力が下の階から伝わっていたから……」
「へぇ~、イスフェシアの人達って魔力で誰なのかわかるのか。便利だね」
ルアールが感心するとモーレアは早くしろと少しイラッとする。
アルメリアは亜紀の鎧に触れるとそこから段々と氷が広がっていく。足まで凍った瞬間にモーレアは直ぐに離れて巻き添えを回避した。
そして氷は亜紀の首から足元まで凍ると亜紀はこれ以上兄貴に攻撃しなくて済むと少しホッとした。
これでひとまずは一段落したと思いきや下の階から人形と魔物が登ってくる。
「おいアルメリア、下の奴ら全員凍らせたんじゃないのかよ!?」
「無茶言わないで、いくら黎明の塔の魔力があるからって限度があるわよ。後、私はこの子の氷を維持する必要があるから任せたわよ」
「ちくしょう、やっと楽ができると思ったのによ~」
モーレアは仕方ないと剣を構えると亜紀は何か言いたげな素振りをする。レイブンがどうした?と訪ねると亜紀はここから一つ下の階にマリー・イスフェシアが眠っていると情報を渡す。するとアルメリアは直ぐに向かおうとするところをモーレアが肩を掴んで止めた。ここでアルメリアが離れてしまえば亜紀を拘束する氷は溶けるので別の誰かを行かせなければならない。
アルメリアは渋々と諦めて亜紀を凍らせ続けることにし、変わりにガイル、ハンソン、ジャックの3人で向かうことにした。
「兄貴……」
「どうした亜紀?」
「ごめんね」
「謝るのは俺の方だ。俺はお前を救うことができなかった」
「私もまさか死ぬとは思わなかったよ。そして別の世界で蘇るなんてまるで夢みたい」
「ちょっと野暮用が済んだらお前と一緒にこの世界で暮らそう。今度こそ……お前を死なせはしない」
レイブンはルアールにここを任せると言ってオゼットが飛び込んだ魔法陣に入る。
「いってらっしゃい。気を付けてね」
亜紀に手を振りながらレイブンは赤い月へと転移した。
一方、オゼットは『タキオンソニック』で走り回ると直径20mの大穴を見つける。穴から邪悪な魔力を感じこの下にアームスヴァルトニルとウインチェルがいると直感が告げている。
大穴に飛び込むと辺りはとても暗い、魔法で明るくするとそこには巨大な骨と心臓部に宝石の様な塊が入っている見た目が竜のモンスターが眠っていた。
「ここまで来たということは、蓮さんは負けてしまいましたか」
「ウインチェル!!」
ウインチェルがいるということはこの巨大なモンスターがアームスヴァルトニルか。
「お前の野望もここまでだ。もう無駄な抵抗はやめろ!」
「まるでテンプレみたいな発言をしますね。逆にここまで来たのですから、今更やめると本気で思っています?」
「こんな事をしたって戦争や犯罪を止められると思っているのか!?仮に一時期に減ったとしても、今度は全ての人類がそいつを討伐しようと立ち上がって結局戦争になるんじゃないのか?」
「そうなったら私に刃向かう人類全てを犯罪者とみなし、永遠の苦しみを味わっていただきます」
「そんなのがお前の言う平和なのか?そんな平和、こっちから願い下げだ!」
ライフセイバーでウインチェルを斬り掛かるとウインチェルは転移魔法でアームスヴァルトニルの頭に転移する。
「今にわからせてあげます。あなたの行いが愚かだったことを……そして私の理想郷が正しかったことを!!」
ウインチェルはアームスヴァルトニルに取り込まれると眠っていた瞳は赤く光り出す。




