143話 勇者と救世主、それぞれの想い
転移すると空と呼べるかわからないところは暗く地面は血の海でできている。前回、俺と真理とレイブンで異世界に転移している最中に行き先を変えられた場所と同じところに着いた。
「どうやら普通に呼吸はできるようだな。ここが赤い月……いやアームスヴァルトニルの殻の上といったところか。」
「正解だ。イスフェシアの勇者」
声がする方向に振り向くとメシアがゆっくりとこちらに近づいて来ている。
こいつにはいろいろと聞きたいことがある。
「お前は何のためにウインチェルと協力している?アームスヴァルトニルの力を使って新しい世界を創造して犯罪者をその世界に集めるんだろ?だけどそれじゃ臭い物に蓋をする状態で解決しているようには思えないが?」
「少しでもこの世界から犯罪者がいなくなれば何も罪もない命が消えることも無くなるだろう。そして創造された世界にいる犯罪者共が死ねずに苦しんでいく様を人類が見れば誰も犯罪をする気にはならないだろう」
「犯罪者とはいえ同じ人間だろう。誰だって間違いはするし、間違った瞬間にその世界に転移行きとか極端過ぎないか?」
「はっ!犯罪者共に人権も慈悲もない」
―絶望タ~イム♪―
「変身!!」
メシアがパワードスーツの様な鎧を纏うと拳から魔弾を飛ばして来た。
俺はライフセイバーで魔弾を弾いてメシアに斬り掛かる。
「そして何よりも気に食わないのは、お前らの理想の為に真理や罪のない人を不幸にしている。お前らのやっていることはただの自己満足だ!」
「だからどうした!?俺達の世界の警察官やこの世界の騎士団も無能ばかりで犯罪が少なくなることはない。何故ならあいつらは事件になってからではないと動かないからだ」
メシアは右足に黒いオーラを纏わせて上段蹴りをする。おれは剣で受け止めると纏っていた黒いオーラが爆発する。
「ぐっ!『タキオンソニック』!!」
『タキオンソニック』を発動するが何も起きない。前にエグザードで戦った時と同じであの黒いオーラはこちらのスキルが発動できなくなるらしいな。
「『カオス・バニッシュ』!!」
強烈な飛び蹴りが腹に直撃して俺は吹っ飛んだが、どさくさに紛れてメシアに向かって点火したダイナマイトを投げつける。
ダイナマイトが爆発してメシアも吹っ飛んでお互いに距離が離れると俺は武器を弓に持ち替えて矢を放つ。この矢は魔力を込めることで相手が発動している特殊防御の影響を受けない効果を持っている。
メシアは矢を避けようとするが間に合わず、左腕に刺さる。
メシアに俺のスキルや魔法が通用しない、しかし武器やアイテムの効果は通用するのはわかった。なら奴に勝つ方法はある。
「『ウェポンズ・サモン』!」
このスキルは自分が所持している特殊能力が込められた武器を手元に召喚することが出来る。
最初に召喚した武器は空中に岩石を出現させてそれを相手に飛ばす斧、ロックシューター。メシアに岩石を飛ばして攻撃を仕掛けるとメシアは拳で飛んできた岩石を壊しながらこちらに向かってくる。
次に俺は地面から相手を拘束する植物を召喚する槍、プラントスレイブを召喚して地面に刺すとメシアの周囲から植物の触手がメシアの両腕両足を拘束した。
「このぉ!」
メシアは黒いオーラで触手を焼き払う。その隙に次の武器を召喚し構える。次は極太の魔力の光線を放つ杖、大天使の声。
メシアに一撃を与えるがあまりダメージが通っていない。どうやら光線が到達する寸前で防御が間に合ったのだろう。しかし光線で視界を遮ったおかけで更に相手に隙を作ることができた。
俺はメシアの目の前まで近づいて次の武器を召喚、相手に振るとダメージは少ないがかなり吹っ飛んでくれる野球バット、ノックバックホームランをフルスイングでメシアにぶつける。
メシアを空の彼方へ飛ばしたら俺はライフセイバーを持ち替え刀身に魔力を流し、雷を纏った全長20mの巨大な剣をメシアに振る。
「ぐあっ!」
メシアは剣の一撃を喰らいそのまま地面へと落ちた。俺はメシアに近づいてウインチェルの居場所に着いて質問する。しかし彼は黙って立ち上がり戦闘を続けようとする。
「諦めろ、その状態で俺には勝てん」
「そうかもしれないな。だが……最終的に勝利するのは俺達だ!」
メシアは最後の力を振り絞るかの様に全身に黒いオーラを纏い、瞬時に俺の目の前に現れて顔面を殴った。
俺は耐えながらも剣でメシアの首に峰打ちで反撃し電撃を放った。
「くっ」
メシアはその場に倒れた。スキル『慈悲』は発動していたが、この男の能力で『タキオンソニック』等の能力が発動できなかったから『慈悲』が発動していたかはわからない。
しかし今はウインチェルの計画を阻止して真理を救い出さなければならない。
俺はギガポーションで回復しながら『タキオンソニック』で月中を走ることにした。




